転生貴族は微笑む
珈琲飲むと胃が痛い
転生しちゃった
血の匂い。腐臭と糞尿の匂い。死の匂いがその部屋には充満していた。無理もない、地下に作られたその部屋には窓や換気口もないのだから。出口には重い扉がつけられ、それ以外の外界との接点があるとすれば部屋の隅に開けられた小さな排水溝。大人の拳一つ分しかないその穴から出入りするのは鼠と虫ばかりだ。排水溝には今も赤黒くなった液体がゆっくりゆっくりと流れていく。
吐き気を催す空気。その部屋に並ぶのは多種多様な拷問器具。その中心で男は一心不乱に腰を振るう。その動きに合わせ少女から脱したばかりの女の身体が跳ねる。少女の身体には
王国西端を領地とするロンヴァル伯爵家。かつては王都で王に
性を吐き出し男の身体がちいさく跳ね、熱い吐息を漏らす。女の
それは人の形をしていた。全身を真っ赤に染めたそれには前世の記憶というモノがあった。神の手違いにより命を落とした男。その償いとして、男が命を落とした世界とは別の世界に転生させるという。神は言った、命を落としたばかりの死体に転生させると。その死体の記憶を引き継ぐ事で転生先の情報を手に入れる。男が神に望むのはチートと呼ばれる様な能力であった。
そこにあるのは死体の山。奴隷商人から手に入れた身寄りのない少年、少女の死体。久しぶりの仕入れに気を良くした貴族の長子が命を奪ったばかりの死体の山。その死体の山に男の命は宿った。宿ってしまった。転生直後に男の頭に流れるのは絶望と呼んでいい記憶と言う情報。本来ならば一人分である筈だった、大量の死体の情報。喉が潰れていたのは幸いだった、声を出せていたら絶叫を上げていた筈だ。目の前で行為にいそしむ貴族の男はそれに気が付く事はない。小さく何度も呼吸を繰り返す。ゆっくりと男の思考は冷めていく。男は、いや、その姿は少年であった。少年はゆらりと立ち上がり置かれた大鉈を振り上げた。その鉈は記憶の少女の腕を落とした物。ぎりと奥歯を鳴らし少年はその大鉈を貴族の頭目がけ振り下ろした。
屋敷の中はとても静かであった。領主邸は行われている凶行を隠すため使用人の数が極端に少なくなっていた。ひたりひたりと通路を歩く。地下室を出たばかりの頃は真っ赤な足跡がはっきりとしていたが徐々にかすれていく。その足跡がぴたりと止まる。
―― 綺麗な人だ
少年はそう思った。飾られた大きな肖像画、それに手を伸ばす。少年はその人を知っていた。それは奴隷の少年、少女と共に命を奪われてしまったメイドの記憶。たまたまロンヴァル伯爵家の暗部を知ってしまった少女の記憶。少年の口元がにっと歪む。肖像画に触れていた手を放すと真っ赤な手の跡が額縁に残っている。それを軽く擦ると少年は再び歩き出した。
少年が付いたのは一つの大きな扉。軽く扉をノックすると中から声が聞こえた。
「誰か? デレイルか?」
それは扉の先の部屋の主、ロンヴァル伯爵家当主セルゲイの声であった。
「誰だ、返事をせぬか」
どことなく苛立ちを孕んだ声。少年はゆっくりと扉を開け一言声をだす。
「初めまして、お父様」
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