第60話



――――


――



はっと目が覚めた。



見慣れた天井が目に映り、ここが周のマンションの寝室であることに気付いた。




…………夢?




何度もこのベッドで眠った。



何度も周の温かい腕に包まれた。



いつでもあの心地よい香りを嗅いでいたのに―――






今はその覚えのある香りがしない。



「周―――……?」



慌てて身を起こすと、昨日眠るまで感じていた冷たい手錠の金属の感触を感じられなかった。



手錠も見当たらない。



まるで最初から存在しなかったように、消えていた。



でも、手首を見ると、引っ張ったときについた内出血の痕が残っている。



慌てて部屋を見渡すと、昨日目についたスーツケースがなくなっていた。



それを見て昨日周が一度帰ってきたことに気付く。



だけど―――









『さよなら』







夢で聞いた言葉が―――ふいに頭を過ぎった。




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