第30話


電話を掛けてアイツに暗証番号を聞こうにも、俺はアイツのナンバーを知らないし、そもそも知ったところでロックが掛かっているから電話を掛けることもできない。



知るには、またあいつのマンションに行くしかないってことだ。



くっそーーー!!



歯軋りをしながらも、あっという間に出勤時間になり、俺は一旦スマホを諦めてアパートを後にした。



満員電車に揺られながらも、



スマホを諦めるか?また新しいのを買えば済むし。



いやいやあのスマホには友人をはじめとする何人かのアドレスが入っている。比奈と撮った写真だって……



でも、あいつのマンションに行って無事帰ってこられる保障はゼロ%だ。



それに、比奈との思い出の写真を残していたってどうしようもないのに…



はぁ…



あの変態野郎のせいで、俺はゆっくりと失恋気分を癒すことすらできない。



項垂れていると、遠くの方で声が聞こえた。



「すっごい混み具合ですね?毎日こんな感じ?」と聞きなれた声がして、俺は顔を上げた。



比奈―――…?



「毎日だよ。こっちおいでよ。危ない」男の声が聞こえて俺は目を凝らした。



出入り口付近にいた一組の若い男女。



女の方は確かめるまでもなく比奈で、そのすぐ近くで俺の見知った男が比奈を人ごみから庇うように彼女を抱き寄せていた。





男は同じ社の経理部会計1課、―――守川もりかわだった。




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