第10話


―――!!



脳天を駆け抜けるような激痛が走って俺は再び体を丸めた。



「おっと♪すまん、すまん」全然“すまん”なんて思ってねぇだろ!



男はにこにこ笑ってマイペースに立ち上がった。



ぎょっとして慌てて目を逸らすも、男はその引き締まった背中を見せてマイペースに床に落ちたズボンを拾っている。



それがどうやらスーツのパンツであることに気付いた。



同時に俺も現実に気付いた。



「ヤバっ!会社っ!!」



男はファスナーを閉める手を止めて、ゆっくりと振り返る。



「お前そんなんで会社いけるの?今日ぐらい休んだら?有給たんまり残ってるんだろ?」と呆れように男が言って、手馴れた動作でタバコを口に挟む。



「何で俺の有給の状態を知っている?」



探るように目を上げると、男は肩をすくめた。



「他にも知ってるぜ?桐ヶ谷 ヒロ(28)。中央商事の開発事業部企画2課。課の主任。



主任って偉いの?」



男はどこからか黒い手帳のようなものを広げてそれを読み上げた。



男のものなんだろう。俺はそんな手帳持ってない。



「ってか何でそんなことまで知ってる!」



男は口から煙を吐き出しながら目を細めて淡い笑みを口元に浮かべた。



「お前が昨日全部酔ってべらべら喋ってくれたんじゃねぇか」






俺―――サイアク。



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