30代で、初めての経験!

崔 梨遙(再)

1話完結:1400字

 僕が30代の前半の時だったと思う。僕は、大阪で暮らしていた。



 或る日、僕の携帯が鳴った。以前勤めていた会社の年上の後輩からだった。ちなみに、女性だ。おおらかで、人望のある女性だったと記憶している。比較的、仲は良かった。女性と喋らなかった僕だが、その女性とは普通に話していた。男っぽいから話しやすかったのだ。名前は夏美。大柄な女性だった。……やっぱりはっきり言おう。かなり太っていた。巨乳を自慢するが、胸と同じくらい、腹も出ているように思えた。脱がしてみないと、わからないのだけれど。


「はい、崔です」

「崔さん、久しぶり-!」

「うん、久しぶりやね。どないしたん?」

「今、大阪にいるんですよ。〇〇〇〇(バンド名)のライブに来ていて」

「あ、大阪にいるんや」

「ライブの後、食事を奢ってくれませんか?」

「うん、ええよ」

「どこで待ち合わせるの?」

「車やから、崔さんを拾いますよ」

「ほな、○○筋沿いの○○の交差点でもいい?」

「いいですよ、○○時くらいになるけどいいですか?」

「うん、ええよ」

「ほな、○○時に行きます-!」



 “肉が食べたい”と夏美が言うので、焼き肉を食べに行った。久しぶりの再会、何から話そうかと思ったが、夏美はいきなり恋愛相談をして来た。長い話だったが、要するに“年下の彼氏がいるが、最近、彼氏が冷たくて不満で不安だ”ということだった。僕は真面目に相談に乗っていたが、夏美は“Hもご無沙汰”ということだった。そんなことは聞いてもいないのだが。


 “いつまでこの話を聞かされるのだろう?”と思ったら、いきなり夏美が言った。


「なんか、めっちゃホテルに行きたくなってきたわ」


 おいおい、何を言い出すんだよ! 僕は1回スルーしてみた。


「崔さん、ホテルに行かへん?」

「え! 僕?」

「うん、ええやろ? 崔さん、今は決まった恋人がいてないし」

「恋人はおらんけど、今までずっと友人として過ごしてきて、いきなりホテル?」

「うん、ええやんか」


 迷ったが、僕は厳しい台詞を言うしかなかった。


「ごめん! 僕、ぽっちゃりさんは苦手やねん」


 夏美は、ぽっちゃりを通り過ぎて太っていたが。控え目に“ぽっちゃり”と言った。


「大丈夫! 私、痩せたから」

「痩せたようには見えへんで」

「服のせいでそう見えるだけやで。今、人生で1番軽いもん」



 結局、断れなくてホテルに行った。夏美は脱いだ。充分大きかった。当時の僕は痩せていた。58キロだった。僕よりも2回り大きい。巨漢だ。正直、困った。だが、ここで抱かなければ夏美を傷つけてしまう。女性を傷つけるのは嫌だった。亡き母から“女性を傷つけてはいけない”と言われていた。全く好みじゃない、むしろ好みの正反対、そんな女性を抱かなければいけなくなるのは何故だ? 僕の日頃の行いが悪いのか? 罰ゲーム? 試練? もう、なんでもいい。僕は無理矢理腹を括った!


 初めて、“大ぽっちゃりさん”を抱いた。こんなに大きな女性を抱いたのは、この時が初めてだった。抱いているのか? 抱かれているのか? わからなかった。だが、それも経験だ……と思いたい。これが、僕の“ぽっちゃりさん”との初体験。



 夏美は、上機嫌で帰って行った。僕の心には、何故か虚しさが残った。女性に誘われたからといって、必ずしも喜べないのだということ学んだ。というのは、30代前半の若い頃の話で、今なら大柄な“ぽっちゃりさん”とも楽しめる。人は変わるのだ。







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30代で、初めての経験! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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