第42話 オニキスリング
「せあッ!」
私たちは襲い来るメタルスライムやラストスライムの群れを蹴散らし、どんどんとダンジョンを攻略していった。
やはり、メタルスライムは大量の経験値を持っているようで、倒すと一気にレベルが上がる。
最初は苦労したが、次第にメタルスライムを楽に倒せるようになっていった。
ヴィオなんて、もう私の雷の魔法の援護がなくてもメタルスライムを両断できるほどだ。
やっぱりヴィオの【スピードスター】は強力なギフトだ。
前世の物理の知識だが、威力というのは物体の重さ×速さで決まる。
ヴィオは小柄だし、ミスリルソードも軽い剣だ。
しかし、ヴィオにはそれを補って余りあるほどの速さがある。
まさか物理攻撃に耐性のあるメタルスライムを両断できるようになるとは思わなかったけどね。ヴィオの成長には舌を巻くよ。
ダンジョンの構造は、前世のゲームの記憶通りだった。欲しいアイテムまで最短距離を通るようにどんどこ進んでいく。
「たしかこの角だったよな……」
私は通路の角にしゃがんで、積もった錆や埃を手で退けていく。
「クロ、何やってるの?」
「いや……。その……」
まさかここにアイテムがあることを前世の知識で知っているとも言えず、私は言葉を濁してしまう。
その時、指先に何かが当たった。摘まみ上げてみると、それは黒い宝石が付いた銀の指輪だった。
「きた!」
これがオニキスリングか。宝石も控えめだし、普段使いしてもよさそうな指輪だね。MPをプラスしてくれるし、これは常時着けておこう。
しかし、オニキスリングがすごいのはそれだけじゃない。
オニキスリングは別名経験値リングとも呼ばれ、獲得する経験値が五倍になる指輪なのだ!
もちろん、作中では一つしか手に入らないチートアイテムだ。複数手に入れるためには周回する必要がある。
ゲーム『人魔大戦物語』におけるレベルのカンストは9999だ。プレイヤーのほとんどがレベル300くらいで全クリすると言えば、このリングの価値がわかるだろうか。
主人公の能力は、あらゆる面で優遇されている。魔法はすべて使えるのはもちろん、ゲームに登場するあらゆる武器を扱うポテンシャルもある。
きっと同じレベルだったら、私とヴィオは二人がかりでも主人公に勝てない。それはゲームでたどった歴史が証明している。
しかし、レベル上げにはかなりの時間がかかる。
そう。このオニキスリングこそが、主人公を超える強さを手に入れられる唯一の可能性なのだ。
主人公がステータス面で優れているのならば、そのすべてを上回るステータスを手に入れればいい。
私はさっそく右手に着けていた指輪を外すと、オニキスリングを装備する。特段何か変わった気がしないが、レア中のレア装備を手に入れられてテンション爆上がりだ。
オニキスリングは、ヴィオと交代しながら装備しよう。
私だけ強くなっても意味がない。私はヴィオにも強くなってもらいたいのだ。
「何それ? 指輪?」
「うん! 何か光っている気がして探してみたらこれを見つけたんだ」
「そうなの。よかったわね。でも、ちゃんと洗ってから使った方がよくないかしら?」
「まあまあ、いいじゃないか」
「クロがいいならいいけど……」
ヴィオは不満そうだけど、メタルスライムやラストスライムが出現するこのダンジョンでオニキスリングを装備しないなんてもったいない。もったいな過ぎる。
本当はこのオニキスリングの凄さを言いたい。ヴィオと一緒にレアアイテムを手に入れたことを喜び合いたい。でも、なんで知っているのかと訊かれたら答えられないので言えない。
少し寂しいけど、こればかりは仕方ないね。
「シャーッ!」
シャルの警戒の鳴き声が響き渡り、私たちはまたかとばかりに剣を構えるのだった。
◇
「この先の広場だけど、大きなスライムがいると思う」
私の言葉にヴィオが不思議そうに首をコテンとかしげた。
「どうしてわかるの?」
「……そんな気がするだけだよ」
前世の記憶とは答えられなかった。でも、さすがにボスの存在を黙っていることもできなかった。ヴィオは死体だし、私の魔法でどんな怪我でも治るとはいえ、私はヴィオに極力怪我してほしくはないのだ。
それにしても、私がヴィオに前世の記憶を思い出したことを語ることは来るのだろうか?
べつに悪いことは何もしていないけど、なぜだか少しだけ後ろめたいものを感じて言いにくいんだよなぁ。
「シャーッ!」
錆だらけの通路の角を曲がると、シャルが警戒音を発する。敵だ。
その瞬間、私とヴィオは剣を構えた。
そして、通路の角から顔だけ出して通路の先を窺うと、銀色の壁が見えた。
「え……?」
予想外の光景に言葉を失ってしまう。
ゲームでは、この先にはダンジョンのボスであるビッグラストスライムがいるはずだった。
しかし、見えている銀色は、明らかにメタルスライムのもので……!
「ボスまでメタルスライムになってる……!?」
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