第41話 カルラの視線
ワシはカルラ・バルツァールコヴァー。今は亡きアルフレッド・バルバストルと契約したドラゴンじゃ。
本来ならば、ワシにアルフレッドの息子であるクロヴィスを守護する理由はない。
しかし、思ってしまったのじゃ。
ワシが秘密を打ち明け、アルフレッドとの間に子をもうけていたら、ちょうどクロヴィスと同じくらいの年になるのではないかとな。
そう思うと、なかなか無視もできんかった。
クロヴィスは手足や片目を失っておる。自然界では大きなハンデとなるだろう。生きることを諦めても仕方がないほどの大きなハンデじゃ。
しかし、クロヴィスは事実を受け止め、懸命に生きようとしている。
気が付けば、ワシはクロヴィスを目で追っていた。
そして、アルフレッドにすら最後まで内緒にしていたワシの秘密を打ち明けていた。
認めよう。ワシはクロヴィスを気に入っている。
あの小さいながらも己の力で懸命に生きている姿に胸を打たれた。
そして今も――――。
「ほう? ワシの力を借りず、メタルスライムを倒したか」
ニンゲンは弱い。
倒せずにワシに泣きついてくるかと思ったが、見事クロヴィスとヴィオレットはメタルスライムを倒してみせた。
偶然か、それとも狙ったのか、クロヴィスの雷の魔法を受け、メタルスライムはその硬さを失ったようだった。
そのおかげで、一度は弾かれたヴィオレットの剣が通るようになった。
機転が利くな。コンビネーションもいい。
「なかなかやるではないか」
クロヴィスのその姿は、在りし日のアルフレッドを思い出させた。
クロヴィスもアルフレッドのように強くなるかもしれないな。
ニンゲンは確かに弱い。だが、たまに恐るべき強者が生まれるのもまた事実。
「さて、クロヴィスはどこまで強くなるか……」
アルフレッドを亡くし、色を失っていた世界が、また色付き始めたような気がした。
◇
「エンチャント・サンダー!」
私は雷を纏わせた左手の暗器、ミスリルブレードをメタルスライムに狙いを付けて射出する。
強力なバネに押され、ミスリルブレードが射出され、見事メタルスライムを撃ち抜いた。
運よく一発でメタルスライムの核を撃ち抜けたようで、メタルスライムはブルリッと震えると、じゅわじゅわと溶けるように金属の水溜まりとなった。
私の雷の魔法は、メタルスライムに効果が抜群のようだ。メタルスライムは雷に撃たれると、その硬度を失うようだった。
「エンチャント・サンダー!」
私はもう一度左手のミスリルブレードに雷を纏わせると、別のメタルスライムに狙いを付ける。
バシュンッと鋭い音を立てて射出されるミスリルブレード。見事メタルスライムに命中したが、今度は核を貫けなかったようだ。メタルスライムは動きを止めたが、未だ健在である。
そこに疾走する人影があった。離れているのに目で追うのがやっとの高速。冒険者のような姿をしたヴィオだ。
「やあっ!」
ヴィオの二刀が閃き、メタルスライムが四分割された。
ヴィオが剣を腰に仕舞うと、四分割されたメタルスライムが金属の光沢がある水溜まりへと変わった。
「ありがとう、ヴィオ。おかげで倒せたよ」
「クロのおかげよ。クロのおかげでメタルスライムが斬れるようになったの。メタルスライムって雷の魔法に弱いのね」
「みたいだね」
私とヴィオはハイタッチをする。
これで倒したメタルスライムの数は十を超える。
最初はあれだけ驚いたメタルスライムの出現だけど、こうも続けば当たり前になる。もうメタルスライムの討伐方法も確立し、メタルスライムは脅威ではなくなった。
もう私たちにとってメタルスライムはただの大量の経験値でしかない。
私たちもかなりレベルが上がっただろうが、メタルスライムは何体でも出てきてほしいね。もっとレベルを上げたい。
そういえば、ゲームでは出現率一%のメタルスライムが何でこんなに出るんだろう?
私なりに考えてみたのだが、これにはスライムの特性と時間が関係していると思う。
このダンジョンは、先史文明の飛空艇だ。壁も床も天井も金属でできている。その金属錆を溶かして食べているのがラストスライムだ。
設定資料集では、メタルスライムはラストスライムの突然変異だと書いてあった。その突然変異の確率が、ゲームでのメタルスライムの出現率である一%なのかもしれない。
ではなぜ希少なはずのメタルスライムがこんなに大量発生しているのか。
そのカギが経過時間とスライムの特性だ。
スライムは地球で言うところのアメーバのような単細胞生物だと思う。その増殖の仕方は、細胞分裂だ。つまり、自分のコピーを作るのである。
では、メタルスライムのコピーは?
当然、メタルスライムに決まっている。
一度メタルスライムが発生してしまえば、後は時間が経過するごとにメタルスライムが増えていく。
そう考えれば、メタルスライムの大量発生は当然のことだ。
「この調子だと、他のダンジョンでもモンスターの分布に変化があるかもしれないな……」
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