第35話 ダンジョンへ出発

 一週間後にダンジョンに行く。そう決めてから、一週間はあっという間に過ぎ去った。


「クロヴィス様、ヴィオレットお嬢様、本当に行かれてしまうのですか?」

「心配するな、爺。必ず帰る」

「大丈夫よ、爺。ありがとう」


 バルツァーレクの屋敷前の広場。私とヴィオは集まった爺やメイドたちと最後の挨拶を交わす。


「クロヴィス様、料理の積み込み終わりましたー」

「クロヴィス様、あなたはこのバルバストル辺境伯家ただ一人のお方なのです。絶対に無理はなさらず、無事に帰ってきてください」

「ありがとう、ジロー、ダニエル。朗報を待っているがいい」


 私とヴィオ、そしてシャルはバルツァーレクの背中に乗り、出発の時を待った。


『もういいか?』

「ああ」

『では、行くぞ』


 バルツァーレクが大きな漆黒の翼を広げて打ち付けると、ふわりとバルツァーレクの体が浮かび上がる。相変わらず、常識を無視したような飛び方だ。


 そのままバルツァーレクはどんどん上昇し、視界がどんどん高くなる。こちらに手を振っている爺たちが、もうあんなに小さい。


『それで、どちらに向かうんだ?』

「北へ頼む。山脈までは急ぎで。山脈に入ったら、ゆっくり飛んでくれ」

『いいだろう』


 上昇したバルツァーレクの体が、今度は北の方角へと加速する。


 私は震える体を押さえつけて、地上を見下ろした。ダンジョンの場所を知っているのは私しかいない。私は必死に前世のゲームの記憶を思い出して、ダンジョンを探す。


 たしかゲームでは、北の山脈の中にダンジョンがあったんだが……。そう一口に言っても、その捜索範囲は膨大だ。


 こんな方法で本当に目的のダンジョンが見つかるのかはわからない。でも、私にはこれしかないんだ。


 領内の冒険者に噂を流してダンジョンを捜索させる方法も考えた。その方がダンジョンが見つかる可能性は上がるだろう、


 だが、それでは確実にエリクサーを手に入れられるとは限らない。


 冒険者たちがダンジョンを見つけたら、たとえ規制したとしても潜るだろう。そして、冒険者たちがエリクサーを見つけたとして、私に売ってくれるとは限らないし、怪我をした仲間のために使ってしまう可能性もありえる。今回の計画には、冒険者は使えない。


 だから、私が直接ダンジョンに赴き、エリクサーを手に入れる必要があるのだ。


「ねえ、クロ。ダンジョンなんてわくわくするわね」

「そうだね」


 ヴィオは前日からテンションが高く、今回のダンジョン攻略を楽しみにしている。ヴィオのためにもダンジョンを見つけないとな。


 それにしても、ヴィオがダンジョン攻略をこれほど楽しみにしているのはちょっと不思議だ。実戦の機会に喜んでいるんだろうか? まぁ、嫌がられるよりもいいけどさ。


「ねえ、どんなダンジョンなの?」

「えーっと、先史文明の遺跡みたいだよ。未発掘の遺跡だから、もしかしたらとんでもないお宝が見つかるかもね」

「やった!」


 まぁ、私はもうゲームの知識でどんなダンジョンかはもちろん、どんなアイテムが手に入るかも知っているんだけどね。


 今回のダンジョンの目玉アイテムはなんといってもエリクサーだ。でも、他にも有用なアイテムが手に入る。


 将来の主人公くんのために取っておくという手もあるけど、べつに本編攻略に関係ないアイテムだから全部手に入れてしまってもいいだろう。


「ふーむ……」


 山脈の陰になっている所など、よくよく見てダンジョンを探していく。だが、やっぱりなかなか見つからない。


 ゲームではわかりやすくなっていたんだけど、やっぱりゲームだから強調されていたのか?


「なかなか見つからないのねー」

「ぶにゃー」


 なかなか見つからないダンジョンに、ヴィオも退屈そうだ。シャルを抱っこして人形遊びのようなことを始めてしまった。シャルは不満そうだが、ヴィオの遊びに付き合っていた。


 そのままダンジョンは見つからず、時間だけが過ぎていく。


 だんだんお腹が減ってきたな。


「一度お昼にしようか。バルツァーレク、どこか適当なところに降りてくれ」

『うむ』


 どんどんバルツァーレクの高度が下がり、山に囲まれた盆地の草原のような所に着陸した。


「くふー」


 同じ体勢でいたからか、体が凝っていた。背伸びすると気持ちがいい。


 バルツァーレクから降りると、爽やかな風が頬を撫でる。絶好のピクニック日和といった感じだ。もしかしたら、バルツァーレクが気を利かせてこの場所に着陸したのかもしれない。


「じゃあ、お昼にしようか。ジローがお弁当を作ってくれたよ」

「まあ、なにかしら?」

「にゃー」


 シャルが甘えた声を出しながら、足にすり寄ってきた。


「ちゃんとシャルの分もあるよ」

『我の分はあるのか?』

「さすがに牛は持ってきてないよ。すまないけど、自分で狩りをしてくれ」

『そうか……』


 バルツァーレクは草原を見渡すと、翼を打ち鳴らして飛び上がった。


『狩りに行ってくる』

「悪いね」

『気にするな。たまにはこういうのもいい』


 そう言って、バルツァーレクは大空へと飛び立った。

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