第34話 一年半

 バルバストル辺境領で領地の運営や新兵器の開発、徴兵制の開始してから一年半が経とうとしていた。


 私とヴィオも一つ歳を重ねて十一歳になり、私はそれなりに背が伸びた。もうヴィオとは拳二つ分ほど離れている。


 ヴィオは日々を生き生きと過ごしているが、こういうところでやっぱり彼女は死者なのだと思い知らされる気分がして少し悲しい。


 まぁ、肝心のヴィオはあまり気にしてないみたいだけどね。


 この一年、他にもいろいろなことがあった。


 電気自動車の試作機が馬車よりも速い速度を記録して量産体制に入ったし、マスケット銃も一応完成し、新たに銃兵という兵科を作った。私財を投入して街の城壁を厚くしたり、砦の改築もした。


 魔族との戦争まであと六年。今のところ順調にバルバストル辺境領は回っている。


「そろそろ頃合いか……?」


 もう半年後には王都の学園に入学することが決定している。この学園を卒業しないと貴族とは認められないので、絶対に行く必要があった。


 学園に入学してしまえば、自由に動くこともできなくなる。


 それまでに計画を実行しなくては!


 この一年半で、私もヴィオも随分剣術の腕が上がった。兵士のモンスターの討伐にも同行し、レベルも多少上がっている。


 今ならば、ダンジョンの攻略もできるはずだ。


 そして、ダンジョンの奥で眠るエリクサーを手に入れるのだ。


 ゲームの知識によれば、私は十五歳で不治の病に侵されることになる。その対抗策がエリクサーだ。


 王都のアーティファクトを商う店にエリクサーの買い取りを依頼したが、エリクサーはどこにもなかった。これはもう自分で手に入れるしかない。


 エリクサーは、HPを全回復し、すべてのステータス異常を治す霊薬。必ずや私が罹る不治の病にも効果があるだろう。というか、あってほしい。


 まぁ、今の私にはエリクサーを手に入れるしか取れる手がない。


 やれることをやっていこう。


 私がエリクサーを入手するということは、主人公が入手するエリクサーが一本減るわけだが……。主人公は合計十本もエリクサーを手に入れるし、一本ぐらい貰っても支障は出ないだろう。


 ゲームではクロヴィスとヴィオレットを殺した主人公だ。少しだけざまあ見ろという気持ちもあった。


「さて、善は急げとも言う。さっそく出発の準備をしよう。まずはヴィオとバルツァーレクの了解を取らないとな」


 私は玄関から庭に出ると、バルツァーレクの屋敷に向かって歩き出した。


 バルツァーレクの屋敷前の広場。ここがヴィオがよく剣術の訓練に使用している場所だ。


 庭を抜けると、ヴィオがまるでダンスするように両手に剣を持って飛び跳ねているのが見えた。演武だ。


「ヴィオ、ちょっといいかな?」

「クロ? どうしたの? クロも剣の練習する?」

「いや、ちょっと話があるんだ。一週間後だけど、バルツァーレクに乗って遠出しないか? ダンジョンが見つかったって報告があったんだ」

「ダンジョンですって!?」


 無論、そんな報告はないけどね。でも、ダンジョンに行くのは本当だ。前世のゲームの記憶には、エリクサーを入手できるダンジョンの場所が記されていた。そこに行って、主人公よりも早くエリクサーを入手する作戦である。


「行く行く! どんな宝物が眠っているのかしら? 楽しみね!」

「そうだね。良いものが見つかるといいね」


 ヴィオの了解が取れた後、私はバルツァーレクの屋敷に向かう。相変わらず濃い血の臭いがする所だ。


「バルツァーレク? いるかな?」

『ふむ。クロヴィスか。どうした?』


 窓がないため真っ暗な屋敷の中、バルツァーレクが動く気配がして、頭に直接響くような威厳のある男性の声が響いてきた。


「これから一週間先の話だけど、よかったら私とヴィオをダンジョンまで運んでくれないか?」

『ダンジョン? ふむ。しかし、我はダンジョンの場所なぞ知らんぞ?』

「それは私が知っているから大丈夫だよ。どうだろう? 頼めないかな?」

『……ふむ。まあ、よかろう』

「ありがとう、助かるよ」

『連れて行くのはクロヴィスとあの少女だけか?』

「え? うん。二人で行こうかなって」

『そうか……。であれば、あの猫も連れて行くといい』

「猫? もしかして、シャルのこと?」

『たしかそんな名前だ』

「へー。バルツァーレクがシャルのことを知っているなんて意外だな。というか、二人とも面識があったんだ?」

『あの者は時折我が屋敷を掃除してくれるからな。それに、あの者は勘が鋭い。危険を知らせるカナリアとしては合格だ』

「なるほど……」


 なんだかシャルを利用するようで心苦しいけど、たしかに私とヴィオは剣術を磨いてきたけど、敵の気配を探るような訓練は積んでいない。そこをシャルにカバーしてもらえれば、たしかにありがたいな。


「わかった。そうするよ」

『うむ』


 そんなこんなで、ダンジョンに行くメンバーは私とヴィオ、シャルとバルツァーレクに決まった。


 本当は兵士なんかを連れて行けば楽だろうけど、気位の高いバルツァーレクが知らない人間を背に乗せるとは思えないし、ダンジョン自体は低レベルでも攻略できるほど簡単なダンジョンだ。まず大丈夫だろう。

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