第24話 王都からの帰還
『着いたぞ』
「ありがとう、バルツァーレク」
「バルツァーレクってやっぱりすっごく速いのね」
バルツァーレクに乗ること一時間ほど。私たちは無事にバルバストル屋敷に着陸した。先触れもなかったから、今頃大慌てで爺たちが出迎えの準備をしていることだろう。
『クロヴィスよ、我は腹が減ったぞ』
「用意させるよ。豚と牛どっちがいい?」
『今は牛の気分だ』
「わかった」
バルツァーレクのご飯は、自分で獲物を獲ってきたり、バルツァーレクのために育てられた豚や牛を食べることが多い。バルバストル領には、バルツァーレク用に牧場を用意しているくらいだ。
「何頭食べる?」
『今なら二頭いけそうだ』
「用意させるよ」
王都ではお肉を用意するのも大変だから、少ない食事で我慢させてしまっていたからね。バルツァーレクには目いっぱい食べてもらおう。
「じゃあ、行こうか」
「ええ」
庭を突っ切って屋敷の玄関に向かうと、メイドたちが玄関の前で並んでいた。その最奥には爺の姿も見える。
「おかえりなさいませ」
「「「「「おかえりなさいませ」」」」」
爺の言葉を合図に、メイドたちが一斉に頭を下げた。
「ああ、ただいま」
「ただいま帰りましたわ」
「お疲れでしょう。すぐにお茶をご用意いたします」
「ありがとう」
爺によって居間に通され、なんだか帰ってきたんだなと実感した。実感したら、なんだかドッと疲れた気がする。初めての王都で気を張っていたのかな?
「本日のお茶菓子はミルクレープでございます。お茶はどうなさいますか?」
「ストレートを」
「わたくしもストレートを」
「かしこまりました」
爺とメイドによって素早くお茶が用意される。お茶を飲むとホッとした。
「してご当主様、王都での首尾はいかがでございましたか?」
「無事に辺境伯に任じられたよ」
「おめでとうございます、辺境伯様。間違いはないと思っておりましたが、やはり心配になりまして……」
「心配をかけたな。詳しくは、このアルノーからの手紙に書いてあるはずだ」
アルノーからの手紙を渡すと、爺は嬉しそうに受け取り、大切そうに受け取った。
「ありがとうございます。後ほど読ませていただきます。そういえば、辺境伯様はカミーユに会いましたかな?」
「カミーユ?」
誰だっけ? そんな人に会ったかな?
王都ではお茶会もあったし、たくさんの人に会ったから忘れているだけか?
しかし、どんなに思い返してもシャルルの名前に繋がる顔が思い出せなかった。
「思い出せないな。誰だったか?」
「私の孫でございます。辺境伯様の学園のお供にどうかと思っておりましたが……」
なるほど。そういえば、十二歳から王都の学園に入学するから、その時の傍仕えにと考えていたのだろう。
「いや、会っていないな」
「わたくしも覚えていないわ」
私とヴィオが首を横に振ると、爺はしょんぼりとした。
「そうですか……。王都に向かわれるので、顔合わせにはちょうどいいと思っておりましたが……。カミーユは辺境伯様の五つ年上でして、年が近い方が学園ではお仕えしやすい部分があるかと」
「そうか。今度王都に行った時にアルノーに確認してみよう」
アルノーは爺の息子だ。ということは、そのカミーユ少年の父親でもある。確認するにはちょうどいいだろう。
「このミルクレープおいしいわ……!」
テーブルを挟んだ向こうで、ヴィオがニコニコ顔でミルクレープを頬張っていた。かわいい。
「ほっほ。当家のパティシエに伝えておきましょう」
「ええ、お願いね」
「ああそうだ。爺、牧場から牛を二頭連れてきてくれ。バルツァーレクがお腹が空いたらしい」
「左様でございますか。すぐに手配いたします。しかし、二頭もいっぺんにというのはすごいですな」
「王都ではお腹いっぱい食べさせてあげられなかったからね。頼んだよ」
「かしこまりました。そう言えば辺境伯様、ヴィオレットお嬢様、王都はいかがでございましたか?」
「そうだなぁ……。上空から見たが、とにかく大きかったな。それに人も多い。あれだけの人々を食わすのは容易ではないと思うのだが……」
「それでしたら、王都の近くを流れる大きな川のおかげですな。川に船を走らせて、食料をはじめ、各地の特産品や珍しい物が集まっているようです。船ならば、馬車の何倍も荷物を載せられますから」
「なるほど……」
「ここバルバストル領からも船が出ておりますぞ。バルバストル領からの主な積み荷は鉄製品や宝石、鉱物が多いようです。バルバストルは王国の北にあり、鉱山が多いので」
「ふむふむ」
ヴィオはミルクレープに夢中で爺の話を聞いてもいないが、私は心のメモに爺の言葉を刻んでいく。これからは辺境伯として領地の経営も学んでいかないといけないからな。こういった情報も覚えていかなければ。
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