第23話 帰り道
ゲームでのクロヴィスとヴィオレットの最期は思い出すと切なくなって仕方がない。
そして、まだ会ったこともない主人公への好感度がガクンと下がる。
だって主人公たちは、今までの冒険でエリクサーを手にしているのだから。
そもそも主人公たちがクロヴィスにエリクサーを渡すなり売ったりすれば、クロヴィスは死病から救われ、人類を裏切る必要もなかった。
そしてヴィオレットから奪った『黒の宝珠』を主人公たちは先史文明の遺跡で発見したメイドロボに使ってしまう。
その『黒の宝珠』は、ヴィオレットを生かすために、残りの命が少ないクロヴィスが人類を裏切ってまでして作った物なのに。
そして極めつけは正ヒロインであるこの国の王女、セラフィーヌだ。彼女はとあるイベント戦で主人公を庇って殺されるのだが、イベントの後すぐに生き返る。彼女が肌身離さず持っていた王家に伝わるペンダント型アーティファクトの力だ。
主人公とセラフィーヌは、お互いの無事を知って喜ぶ。そして、お互いに秘めた気持ちに気が付くのだ。
たしかに、主人公と正ヒロインがお互いのことを好きだと気が付く感動的なシーンなのかもしれない。
だが、それを知った前世のオレは白けた。
どうして生き返るのがヴィオレットではダメだったんだ?
ゲーム終盤では余っていてアイテム欄の肥やしになっているエリクサー一つで救える命があったはずなのに、なぜ主人公は学生時代に世話になったクロヴィスにエリクサーを渡さない?
なぜ、この世界はこんなにもクロヴィスとヴィオレットに辛く当たるんだ?
「エリクサーだと?」
「……ああ」
そうだった。今はアーティファクトを買いに来ているのだった。ゲームにおけるクロヴィスとヴィオレットとの主人公たちの対比の理不尽に怒りが爆発してしまいそうだったよ。
「あるか?」
「バカ言え! エリクサーなんてレア中のレアだぞ? こんな所にあるかよ。あるとしたら、国の金庫や貴族の屋敷だろうな!」
「そうか……」
ゲームではエリクサーは十個見つかる。もしかしたらそれなりの数が出回っているのかと思ったのだが、やはりないらしい。
「見つけたら売らずに連絡をくれ。高く買い取るぞ?」
「見つかったらな」
これは期待薄だな。
それから私はアーティファクトを買い漁った。一軒の店では満足できず、店をハシゴして買い漁っちゃったよ。
そして、店を何軒も回ったが、やはりエリクサーはどこにもなかった。
やはり計画を実行に移すしかないか。
◇
『行くぞ』
「ああ、頼んだ」
王都でのせわしない日々もようやく終わり、私とヴィオはバルバストル辺境伯領に戻る日がやって来た。
帰りは私とヴィオだけだ。コランティーヌ夫人は、このまま王都に残って社交を進めるらしい。その際に、我がバルバストル家のこともいろいろやってくれるようだ。本当にコランティーヌ夫人には頭が上がらないよ。
そうして、私たちはバルツァーレクに乗ったのだが、屋敷の外には大勢の人々がその様子を見に来ていた。
まぁ、ドラゴンをこんな近くで見られる機会なんて滅多にないからね。気持ちはわからなくもないけど、ちょっと緊張したよ。
そして、私とヴィオは空の人となった。
「すごいわね……」
「そうだね」
この日の天気は晴天で雲一つない青空が広がっている。そんな中をドラゴンに乗って飛ぶなんて、まるでおとぎ話の英雄になった気分だ。
バルツァーレクの背中に乗っていると、風も振動も感じない。空を見上げていると、景色がまるで変わらなくて、まるで移動していないようだ。
だが、地上を見下ろすとまるで溶けた絵具のように高速で流れていく大地が広がっている。相変わらずものすごいスピードだね。
「しかし、バルツァーレクは本当にかっこいいな。ピカピカで綺麗だよ」
まるで磨いた黒曜石のようなバルツァーレクの背中の鱗を撫でる。
これが、かの有名な竜麟か。ドラゴンへの魔法攻撃は半減する。その秘密が竜麟にあり、ドラゴンの鱗は高値で取引されている。たしか王国の宝物庫では、最終装備候補であるドラゴンの鱗で作られたドラゴンスケイルメイルが見つかるはずだ。
そんなドラゴンの鱗がこんなにたくさん。しかも、その一つ一つが磨き抜かれた宝石のように美しい。これはみんなが欲しがるわけだ。
そんなことを考えていたら、バルツァーレクが身じろぎするように動いた。
『やめよ、恥ずかしい』
「へえ……」
バルツァーレクも照れたりするんだ。ちょっと意外だ。
そんなことを考えていたら、ヴィオが左腕にギュッと抱き付いてきた。
「クロ、わたくしを見て言うことがあるんじゃない?」
横を見ると、少し怒ったような顔のヴィオがいた。
「もちろん、ヴィオも綺麗だよ。ヴィオの瞳はまるで世界に二つしかない宝石みたいだ」
「むふー」
かわいらしい嫉妬だけど、ドラゴンのバルツァーレクに対抗しなくてもいいんじゃない?
バルツァーレクはオスだし。
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