第69話 看板男



さっそく次の日の朝から働くことになった。


ルグレット先輩のお母さんはその話を聞くと、お客様を働かせるわけにはいかないと渋っていたが、ルグレット先輩と僕の説得により、了承してくれた。


「で、先輩、僕はなにをすればいいんですか?」


「まずは、玄関の掃き掃除だね」


「わかりました」


箒をもって玄関にでる。


日差しが痛い、と言いたいところだが、ここは森の中。


木陰が多くて助かる。


だとしても、蒸し暑さを感じ、夏の訪れを感じる。


さて、仕事だ。


玄関から外の道路の方に向かって箒を使って埃やら気の葉っぱやらをはく。


正直、地面に落ちている木の枝や葉をはいたところで、どうせまた落ちてくるのだから、と思わなくもないが、こういうのはやったという事実が大事なのだ。


しかし、先ほどから視線を感じるな。


早朝にも関わらず、人が多い。この辺りは有名な温泉街だからか。


というよりも、男が働いているのが珍しいのだろう。


その中に湿っぽい視線も混じっているが、まさか誘拐か?また誘拐されるのか?


と、なんだかんだ言っているが、簡単に誘拐されたりはしない。なぜなら今回は僕のすぐそばにノーシャがいるからだ。


頼りにしてるぜい。


「なんか、久しぶりにちゃんとした護衛の仕事をしている気がします」


「普段からそうであってほしいものだね」


「いや、でも私に普段家で家事させてるじゃないですか。そうあってほしいなら学校にも連れて行ってくださいよ。そうすれば前回の件は防げましたよ」


「うーん学校に連れて行くのは反対なんだよなぁ、嫌じゃない?学校にスーツの人がいたら」


威圧感があるだろう。


僕としては、みんなと仲良くしたいのだ。あわよくば、ナカヨクしたいのだ。




しばらく掃除をしていると二人組の観光客らしき人が話しかけてきた。


「あのう、ここも温泉宿ですか?」


二人組の蛇獣人と狐獣人かな?


「はい、その通りでございます。お泊りですか?」


「予約してないんですけど、日帰りとかって……」


「もちろん、大丈夫ですよ」


男将おかみさんは、ここで働いているんですか?」


「ああ、僕は男将じゃないですよ」


「そ、そうなんですね……ちょっと、すみません」


二人で話あうようだ。


「ここ絶対高いところだよ!一泊10万ぐらいするでしょこれ!」


こそこそ話ているが、丸聞こえである。僕らも秘密の話をする際は気を付けなければならない。人の聴力はバカにできないのだ。


「でも、高いだけあるよ、男がいるよ。しかもレベル高いよ、そこらのアイドルなんて目じゃないよ」


「でも高くない?」


「でも高いよ」


「お客様」


ノーシャが決めかねているお客さんに一つ後押しをするようだ。


ずいと身を乗り出して、そのコソコソ話に加わる。


「ここは温泉宿です。もしかしたら、温泉でサービスシーンがあるかもしれませんよ」


「え」


「ええ」


「ねぇよ」


おっと口に出てしまった。


「ここであったのも何かの縁ですよ、運命かも」


「縁…」


「運命…」


「ご飯も運んでくれて、新婚気分になったり?」


「新婚…」


「気分…」


「夜に寝てたら……いつの間にかふとんの中に居たり?」


「ふとんの中に…」


「いたり…」



そこだけ聞くとまるで僕は幽霊みたいに聞こえてしまうが。


そこから、二人は意を決して言った。



「泊まります」


「泊まるよ」


「はい!2名様ごあんな――――――――――――――――――い!」



その後も、客足は絶えず、最終的に宿の部屋は満室になってしまった。


もうそろそろ夏なんだけど。


どういうこと?


「ふふ、やはり君は花そのものなのかもね」


先輩が言った。


「美人局とか向いてますよ」


ノーシャが言った。失礼なやつだな。


そこで出てくるのがなんで美人局なんだよ。もっとなんかあるだろ。アイドルとかさ。




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