第68話 臨時収入
そして僕らは広い部屋に案内されて、夕食をとった。ステージや大きなスピーカー等があり、そこは宴会場のようだった。
出てきた料理は高級なものでびっくりしたよ。まぁ僕は味オンチなもんでよっぽど味に違いがなければ高いも安いも変わらないのだけれど。
夕食を食べ終えた僕らはそのまま各々の部屋に戻った。
しかし、やっぱり広いね、この部屋は。一人で使うには広すぎる気がするが。ま、狭いよりはいいだろう。
さて、スマホでソシャゲでもやるかね。
部屋に入るや否や、僕はスリッパを脱ぎ捨てベットへダイブする。
貞操逆転世界といえど、男性向けゲームはある、数は少ないが。
スマホにかじりついていると、ドアがノックされた。
誰だろうか。ノーシャか、アムエルか。
ノーシャはノックせずに入ってくるから、アムエルかな?
「ボクだよ、失礼するね」
おっと、ルグレット先輩だった。ノーシャと間違えなくてよかった。先輩とノーシャを間違えるのは先輩に失礼だからね。
ルグレット先輩と共にベットの端に座る。
「どうだい?うちの宿は」
「いや、非常に素晴らしいですね。飯はうまいし、部屋は広いし」
「そうかい!それはよかった、きっと母も喜ぶよ」
「で、何しに来たんですか?世間話をしにきたわけではないでしょう?」
この程度の世間話、みんなの前でもできることだ。きっと何か僕に用事があったに違いない。
「……そうなんだよね、まぁ、ちょっと悩みがあってね、聞いてくれるかい?」
「ええもちろん」
「うちのお母さんのことなんだけどね」
もともとこの宿はお父さんとお母さんがメインで営んでいたんだよね。
ボクの両親は世間では珍しく、仲が良くてさ。
で、ボクのお父さんはこの宿の看板男。すごく人気があったんだ。
だけどね、お父さんが死んでからちょっと売上が落ち込んじゃってさ。
「大丈夫なんですか?」
「大丈夫さ、ちょっと落ちたところで、うちの宿はうまい飯と上質な温泉、素晴らしいサービスでやってるんだ。お客は絶えないよ」
でも、やっぱりお母さんがまだ、たまに落ち込むことがあってね。
お父さんが亡くなってしまって、どうしようもないんだ。
でだ、お母さんを元気づけてやってくれないか?
君とお父さんはそっくりだ。性格も顔も。
「元気づけてやってくれって言われたって……」
「一日だけ、一日だけでいいんだ、お給料も払う。一日だけ、ニコニコしているだけでいいんだ。やってくれないかな」
「そんなこと突然言われても」
でも、僕、湯治に来たんだよなあ。
湯治っていったって、なんか野球拳したりで湯治って感じしないけど。
でも、現状僕は他人のお金で飯を食っているわけで。
やるか、なんかこの話を聞いたら他人ごとってのも冷たいだろう。
それに、さっきから縋るような視線を感じるし、そんな表情されたら断れないよ。
「……一応なにをすればいいんです?」
すると先輩は曇り空が晴れたような表情をして言った。
「なぁに簡単だよ。ニコニコしながら料理運んだり、洗濯したりすればいいのさ!」
「なるほど」
「もちろん、お給料も出すよ」
「なるほど――――その話、引き受けましょう」
一日くらいなら、たいしたことでもないだろう。それにいい経験にもなる。
「ありがとう!助かるよ!」
そう言って感激したルグレット先輩は僕の手をギュッと握ってきた。
「本当に、本当にありがとう!」
「いえ、お気にな差ら、ず!?」
そのセリフを言い終わるや否や、部屋のドアが勢いよく開けられ、誰かが勢いよく入ってきた。
「雇い主の貞操危機を察知!離れいエルフ!」
ノーシャか、ちょうどよかった。
「ノーシャ、いいところに来た。仕事だぞ」
「……はい?」
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