魔王のコンビニ経営支配計画

カズタロウ

第1話 魔王のコンビニアルバイト

 俺の名前はネクロス。



 遥か昔より、暗黒界を統べる絶対的な魔王だ。



 筋肉隆々に肌黒い体格。頭には二本の角がひょっこり生えて、いつも不機嫌そうな顔をしている俺だが、部下には絶対的な信頼を寄せられている。



 まあ、俺のことなんてどうでもいい。



 今日はこの日記を読んでいるお前たちに、この前起きた出来事を教えてやろうと思ってな。正直言ってワクワクしながら書いてる。



 あれは、そう遠くない三日前のことだった。



 俺は人間界のコンビニなるものに興味を抱いている。初めに店内へ入った時に手にしたメロンパンというブツ。あの食した感触が忘れられず、俺は決意した。



 コンビニを支配すれば、店内の食べ物を支配できるのではないかと――。



 ゆくゆくは店長となり、全国のコンビニを完全に掌握したいと考えていた。



 こうしてなんやんやで、そこの店長に洗脳をかけてバイトに受かった。



 名前は根黒路ねくろと偽名を使い、完全にジャパニーズヒューマンへ扮した俺。コンビニの店員服にも着換え、働き始めてからの数日。俺はある出来事を体験した。



「よく来たな、何の力も持たぬ愚民よ。せっかく来た褒美だ、この俺が直々にレジの相手をしてやろう……隣のレジお願いしまーす!」



 二人並んでいたので、近くの店員に声をかける。困惑した表情で客の青年が差し出したのは、ツナマヨおにぎりだ。



 俺はおにぎりを見て鼻で笑うと、バーコードをスキャナーで読み取った。



「ふっ。ツナマヨを選ぶセンスは褒めてやる。お会計、120円だ」



青年は財布から小銭を取り出す。こちらに差し出すと、俺は受け取る。ツナマヨおにぎりを差し出すと、青年は受け取って肩掛けバッグに詰め込んだ。



 「また来るがいい。次はこの俺がコンビニを支配しているからな」



 俺がニッコリ笑うと、青年は逃げ足でコンビニから出ていく。姿が見えなくなると、思わず拳を握りしめた。



「なかなかの接客術だ。これならコンビニを支配することもたやすいことだ……!」



 一人で小さくつぶやくと、入り口から次の客が入ってくる。来たのは年齢六歳くらいの少女だった。その子供は、腰まである茶髪。幼く明るい笑顔に思わず見とれてしまう美少女だった。



(……俺は何を思っている!? ロリコンじゃあるまいし、そもそもそんな性癖などない!)



 気を取り直して咳払いをしていると、少女はこちらのレジまでやって来る。俺に視線が合った瞬間、満面の笑みで衝撃発言をした。



「ボルチキください!」



 ボル……チキ? 俺は聞き慣れた単語に我を忘れてしまう。



 ボルチキ……あれだよな。今、レジの隣に置いてあるショーケースの中に置いてあるあれだよな。



 って、えええええ!! 俺は声が漏れそうになり、後ろを向いて手で口をおさえた。



「あの……どうかしましたか?」



 少女はこちらを覗き込むように、レジに前のめりで寄りかかる。俺は気づくと、すぐに冷静な表情を向けた。



「な、なんでもない。す、少し待ってくれると助かる」


「はい!」



 少女はボルチキを見ながら目を輝かせる。



 通称、ボルテックチキン。俺がこのコンビニへ来たとき、一番衝撃を受けた商品だ。



 噛みしめるほど溢れる肉汁。ほどよいスパイスの効いたそれは、俺の舌を電流が走るようにうねらせた。



 つまり、これは俺が認めた一番の大好物であり、殿堂入りなのだ。まさか少女がこの年でボルチキを頼むとは意外だったが当然だ。なぜなら、この俺が認めた骨無しチキンなのだから。



 俺はショーケースからボルチキを取り出して、ニヤリと笑う。



「少女よ、その年でボルチキを頼むとは恐れ入ったぞ。なぜ貴様がこれを頼んだのか知らないが、お前は立派な大人に成長するだろう」



 少女は下を向いて言った。



「……あやかね、弟がいるの。お母さんが病気で入院してるから、いつもあやかが家事や世話をしてるんだ。ボルチキを頼んだのも、弟が一度でもいから食べたいって言ったのがきっかけなの」



 な……なんていい子だ!! 俺は少女の話を聞いて涙が出そうなる。すると少女はこちらに気づいて、心配そうな顔を見覗かせた。



「お兄さん、どうしたの? どこか体悪い?」



 俺は涙を拭うと高笑いする。



「ふははは! 心配するな、俺はこれでも魔王……なんでもない。お家計、210円だ」



 ボルチキをテーブルに置き、俺は少女に向かって右手を差し出す。



 対して、少女も手に持っていた小さな豚の財布からお金を取り出す。彼女は小銭を数え終えると、こちらに差し出した。十円玉が一枚と百円玉が二枚。俺は確認すると、すぐさま受け取った。そして、待望のボルチキを少女に渡すのだった。



「ありがとう、これで弟も喜ぶよ!」


「ふん。家族を大切にしろよ」


「うん! お兄ちゃん、またね!」



 少女は手を大きく振ると、コンビニから去っていく。姿が遠くなると、俺は軽く息を吐いた。



「……コンビニバイトって楽しい」



 ぼそっと呟くと、俺はその場で楽しい微笑みを見せる。



 以上、それが今回の出来事だった。



 あの少女に情でも移ったのか、俺の心は確かに揺さぶられていた。あの子にまた会えるのならば、これからもコンビニ支配計画を続行する。



 もう一度言うがロリコンじゃない。支配した時には部下たちも引き連れて働くか。



 いつの日か、ネクロスストアというチェーン店を作り上げる。絶対にな。

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