第122話 屋台 デート終盤
「まずルナには着替えて貰います。こちらへどうぞ」
「いやこの服も気に入っているんじゃが…なぜ着替える必要があるんじゃ?」
「僕が見たいからだよ!!」
「そ、そうか、それなら良いが…何を着させられんじゃ妾…」
衣装室で選ぶのは浴衣だ。今から縁日に行くんだ。僕だって着替えるぞ。
「なんじゃこの服…というか布に近いのう…常世が似たような服着とったが…どうやって着れば良いのじゃ?」
感覚で着てくれ、女の子の浴衣の着方なんて分からないからね。
ちょっと待っててと試着室に入り先に浴衣を着てみる。
久しぶりだなぁ…子供の頃地区のお祭りに着て行ったっけ。
「はい!こんな感じです!なかなか似合ってるでしょ?」
僕が着たのは濃い青のシンプルな物だ。帯はマジックテープで簡単に付けられた。
「おお、なるほど、どれ…妾はどれにしようかの…」
「もう選んであるよ、この黒い生地に薄い華模様のやつ。これが似合うと思うんだよね。」
「お主なんで少しセンス良いのじゃ…まあ妾ならなんでも似合うがのう」
試着室に入り試行錯誤をし、なんとか綺麗に着られたようだ。
「ど、どうじゃ?似合うかのう…」
なんだ僕のチョイス最高か?少し恥じらうルナがいつもよりも乙女に見えるぞ。
「すごく似合います!!はいこれ下駄履いて!あとこれ巾着袋ね!何入れるか分からないけど!」
「おお…しかし本来は何を入れる袋なのじゃ?」
「知らないよ。モチ以外の何かだよきっと」
「そうか…。深くは突っ込むまい…」
そして僕達は縁日へと向かう。一体どんな感じなのかと期待は最高潮。テンションも上がるというものだ。
そして新しく出来た扉を開けると…
「これは…祭りか?愉快な音楽と熱気じゃのう!やるのうお主!これはデートじゃ!」
「まさかここまでとは思わなかったよ…」
1000ポイントもするから凄いとは思っていたが予想よりも賑やかだ。
屋台が並び祭囃子が鳴り響く、前世で見たお祭りそのものだ。後で花火も上げちゃおう。
「しかし…なんじゃろうな…この違和感」
「うん、すごい賑やかなのに人がいないね!屋台も無人だから違和感しかないよね!」
「お主浴衣の時から少しテンションがおかしいのじゃ。まあ楽しみなんじゃろ?早くエスコートするのじゃ」
そりゃ楽しみっすよ。憧れてたもん、浴衣デート。
「とりあえず歩こうか、色々あるみたいだし遊び尽くしてやろうぜ!付いてきな!」
「そうじゃな!妾もワクワクしてきたのじゃ!」
まず来たのはお面屋だ。ここのお面ってなんか高級感あるな…木でしっかり作られてる。
「ルナは何が良い?キツネなんか似合うんじゃない?」
「何が良い?と言われても…何をする道具なのじゃ?」
お面をご存知ない?
しかしお面で何をするか?難しい事聞くじゃないか。
リボンみたいなもんだよきっと。
「頭に付けるんだよ。アクセサリーみたいな物だよ多分」
「なるほどのう…じゃあそのキツネのを貰うか。どこに付ければ良いのじゃ?」
まあ側頭部とか?
「目の部分に穴が空いてるから顔に付ければキツネに変身できるけど…まあ邪魔だから横に付けておくと良いよ。」
「変身は出来ないじゃろ…適当にも程があるのじゃ…。しかしなんとなくファッションと言われれば確かに良いのう」
黒の浴衣にキツネのお面、中身ドラゴン。統一感しかないよ。多分ね。
「隣はりんご飴だね。正直味は微妙だけど雰囲気で食べると普通に美味しいよ」
「味が微妙とか誰かに怒られんかそれ…。確かに綺麗じゃのう…食べるのが勿体無いが…まあ食べるのじゃ!」
りんご飴持ってる女の子ってなんでこんなに可愛く見えるんだ?急に素朴感がでるから?
「普通に美味いのじゃ!しかし何個も食うかと言われると絶対に食べないのじゃ!」
でしょ?デカいんだよそれ。途中で絶対飽きるの。
「まあ何個かは貰おうかの、雰囲気じゃ雰囲気」
なんだかんだ楽しそうじゃないか。僕も実は超楽しいんだよ。
「のう、あれはなんじゃ?雲のようじゃが食えるものか?」
わたあめをちゃんと雲と表現するとはやるじゃないか。
あれも味はそこまでだけどね。
「わたあめっていうお菓子だね。砂糖の味がするんだけどそれ以上はないよ」
「お主ここの食い物に対しては辛口じゃのう…」
「いや雰囲気的に美味しいんだけどよく考えるとそこまで美味しい物じゃない気がするんだよね。でも買うんだよ。不思議だよねぇ」
「お主も大概じゃのう…」
そしてわたあめも食べるルナだったがかなり気に入ったようだ。不思議だなぁ。
「美味いではないか!これは食感というか口の中で溶けていく甘みを楽しむもんじゃ!気に入ったのじゃ!ほれ!お主にも分けてやろう!」
そう言って僕にわたあめを差し出すルナ、いやこれって…
「間接キスだ!」
ついつい言葉にしてしまった。ちょっとテンション上がりすぎた。
「なんじゃそれ?キスじゃないのじゃ…何を戯けた事を言っておる」
え?ないの?間接キスの概念。
「いやルナが食べたところを僕が食べるじゃん?そうするとほら…キスした事に…なんねぇな…」
「ならんじゃろ…無茶苦茶なこじつけをするでない」
こじつけとか言われたんだが…。
「ねぇキスは知ってるの?お主」
「何がお主じゃ、下手に妾の真似をするでない。キ、キスくらい知っておるのじゃ!その…唇と唇をブチューじゃろ!」
急に火力高いキスじゃないか、まあ知ってるからって何をする訳でもないんだけど。
「まあじゃあわたあめを食べるよ。久しぶりに食べたら美味しいかも知れないし…じゃあ貰うね」
「やっぱりダメじゃ。お主は新しいのを食べるのじゃ」
えぇ…。
「その…あれじゃ、間接キスになるのじゃ。何やら恥ずかしいのでダメじゃ」
そう言ってルナはわたあめをバクバクと全て食べてしまった。
「ほれ!次に行くのじゃ!さっさとせい!」
ペロリとわたあめの棒を舐めて次の屋台に向かうルナ。
「その棒はどうするの?」
「お主…この棒を舐めたら流石に引くんじゃが…」
いや冗談じゃん…。流石にそこまでじゃないよ僕も。
次は射的の屋台なワケだが…
「この銃で撃つのは分かるのじゃが…なんというか…景品がパっとせんのう…」
景品にはキャラメルやぬいぐるみ、よく分からない缶が並んでいるがなんとも微妙な…ん?
「あの右のやつ!あれ取ろうよ!」
僕が指差した景品はUFOキャッチャーで乱獲したフィギュア。ボタンを押した人の形のフィギュアが出来上がる僕のお気に入りだ。
「あれは…ショウがいつも使っておる人形ではないか」
使ってないよ!見てるだけだよ失敬な!!
「あれ動くって書いてある!動くんだよきっと!」
「まぁしょうがないのう…妾が取ってやるのじゃ」
僕もやる!絶対に欲しい!
しかし何発撃っても微動だにしない箱、何あれ糊付けされてんじゃないの?インチキじゃん。
「少しは動くようじゃがパワー不足じゃのう…」
「もう二人で同じタイミングで撃とうよ、少し動いても弾打ち終わったら元の位置に戻るんじゃいくらやっても落ちないし」
この射的は上手くできている。五発打ち終わると謎の力で元の位置にスススッと移動するんだ。ホラーだよこれ。
「そうじゃのう…良し!タイミングを合わせるのじゃ!!」
それから数十発、数百発は撃っただろうか…。
「そろそろいけそうじゃの!行くのじゃ!」
「いただきだぜ!」
二人の息の合ったコンビプレイ、同じ場所にトントン当てていき、ゴトンとフィギュアが落下した。
「やったのじゃ!!爽快じゃのう!」
「いやったぁああ!どうしようかなこれ!誰に押して貰おうかな!」
「いやいやお主…そこは妾じゃないのか?」
「え?良いの?じゃあ宜しく」
「いや待つのじゃ…妾の人形はお主持っておるじゃろ?そ、その…お主の人形を寄越せ!不公平じゃ!」
不公平じゃなくない?だってほら…僕はその…欲しいんだよ!
結局僕がボタンを押す事になってしまった…動くってどんな動きすんだろ…。
「ほれ、さっさと押すが良い」
「分かったよ…しょうがないルナちゃんだ」
僕がボタンを押すと人形はたちまち僕の姿に変化…?なんかデフォルメされたミニキャラになってトコトコと歩き出した。ミニショウ君じゃん。超可愛い。
「おお!これは愉快じゃのう!ほれ、こっちに来るが良い」
トコトコとルナに歩いて行く人形のショウ、くっそ!言う事聞くのか!欲しい!みんなの人形欲しい!
「よーしよしよし、じゃあ一緒に行くか!ショウよ、この人形の名前を決めて良いぞ、ショウじゃややこしいからのう」
すごい気に入ってるじゃん…名前かぁ…良いんじゃない?地底人とかで。
「名前なぁ…ショウ吉にしよう。なんか僕も他人とは思えないよ…」
「良かろう!今日からお前はショウ吉じゃ!」
ルナは肩にショウ吉を乗せて歩いていく。なんだあれ…楽しそうだなショウ吉…代われよ…。
次は金魚すくいか、僕下手なんだよなこれ。意味が分からないよ。
「これはなんじゃ?綺麗な魚じゃのう…しかし手では取れないのう…」
ルナは容赦なく手を突っ込んだが魚は手をすり抜けていく。ポイを使わないと獲れないようだ。
「これはお金がいるのか。まあお金は一応持ってきたから良いけど」
絶対すぐ取れないから10個くらい一気に買って…
……………。
「こんなん無理じゃろ…」
いや無理じゃろそれじゃ…なんてったってバシャバシャしてるだけなんだから。
「いやちゃんと獲れるんだよ上手くやれば」
「お主もサッパリではないか…妾と変わらんのじゃ」
一緒にしないで頂きたい!!僕は破かないように慎重にやってるよ!
「もうこれ二人で同じヤツ狙わない?2枚重ねれば獲れるでしょ?ズルだけど店主不在だし」
「いや…やめておくのじゃ。縁が無かったという事じゃろう」
あれ?アッサリ諦めるじゃん。
「獲れたとしても逃がすからのう、十分楽しんだのじゃ」
「逃がすの?飼えばいいじゃん」
「そうじゃのう…しかし妾の方が長生きじゃから…いつかは死んでしまうんじゃよ…」
少し悲しそうな顔をするルナ。
確かにそうかも知れない。ルナの生きる時間からすれば僕と遊んでる時間も一瞬なのだろう。
そして僕の方が先に爺さんになって死んでいくんだ。
きっと同じような事が沢山あったからあんな山で一人で暮らして…
分身体を作って寂しさを紛らわせていたのかも知れない。
「なぁルナ、暇な時もっと地下室に遊びに来てもいいよ?」
「なんじゃ急に…ま、まあ妾忙しいし?たまになら遊びに行ってやってもいいのじゃ」
いつもヒマしてるの知ってるんだけど…一応遠慮みたいなものはあるんだよな。
「まああんまり遠慮すんなよ。じゃあ次は食べ物買って花火見ようぜ!付いてきな!!手も出しな!」
「良いじゃろう!着いていくのじゃ!!ほれ!お主の大好きな妾の手じゃ!」
せっかくなので手を繋いで屋台を回る、なんだかんだ楽しい一日だったな。
そして今僕達は椅子に座り、花火を見上げている。
フランクフルトやかき氷、お好み焼きを買い溜め、おまけにビール付きだ。
「見事なもんじゃのう!花火か!気に入ったぞ!」
「いつ見ても綺麗なんだよね。この音も良いし」
「ビールも最高じゃのう!今日は飲むぞ!」
「今日楽しかった?ちゃんとデートできた?」
「楽しかったのじゃ!ショウも妾とのデートは楽しかったであろう?」
「楽しかったよ。あっという間だったね」
「な、なんじゃ急に素直じゃのう…そ、その…なんじゃ…今日はありがとうなのじゃ」
「急に素直じゃん、じゃあお互い楽しかったって事で今日のデートは大成功だね」
「まだ終わっておらんぞ?」
「何?本当に交尾するの!?まだ僕心の準備が…」
「な、何を言っておる!まだ飲むぞと言う事じゃ!盛りおって!」
いやこれも冗談じゃん…。
その後花火を見ながら酒を飲み、いつの間にか僕は眠ってしまったのだった。
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