第10話 パンチングマシーン オーガ

地下室で一人、ソファに座り僕は呟く。


「ヒマだなぁ」


こちらの世界に来てからというもの色々な人とこの地下室ではしゃいでいたせいで一人の孤独をひしひしと感じる。


冒険者ギルドで依頼でも受けてみるか、簡単なヤツでも。

そう思い立って僕はソファから立ち上がった。


そして今受付嬢のユキさんに何か依頼はないかと尋ねているのだが…


「Aランクの依頼は基本討伐系ですね、大きめの」

えぇ、普通に嫌だな…薬草集めたりしたいんだけど。討伐系でもスライムの討伐とかさぁ…


「あの、下のランクの依頼って受けちゃダメなんですか?」


「別に良いですけど…ギルドとしては数少ない高ランクの方々には難しい依頼を受けて貰わないと依頼が溜まるんですよね。」

そう言われてしまうと…困ってる人がいるなら助けたい、僕に出来るならだけど。


「じゃあ何か緊急な依頼ありますか?僕にできそうな」


「多分全部いけそうですけど、これなんかどうですか?オークキングの討伐、少し遠い村ですけど放置すると村が壊滅してしまいます。オークキングは用意周到なので下調べや諸々を考えるとあと三日ほどで攻めてくるでしょう」


それはかなり緊急なのでは?きっと怯えて冒険者を待ってるハズだ。


「じゃあそれにします。」

僕は詳細が書いた紙を貰い、すぐ出発する事にした。


「あ、ユキさん、これチョコレートです。色々な種類の持ってきたので気に入ったのあれば教えて下さいね。」


ユキさんチョコレート好きだからな、お土産に持ってきたのだ。下心はないよ?


「へ?こんなにいっぱい?ありがとうございます!気をつけて行ってきて下さいね!」

へ?とか言うんだ、可愛いよなこの人。ユキさんは箱入りのチョコレートを大事そうに抱えていた。


僕は地下室に戻り依頼の詳細に書かれた村を目指す…予定だったがこの地図本当に無理、もう無理ったら無理。


「こんな地図貰っても逆に困るな…」

目的地に赤く丸が付いているが大陸のここら辺、みたいな地図だ。

確かにAランクのパーティーとかなら土地勘があるから分かるかも知れないけど…


ステータスを開いて何か役に立つスキルを探してみる、マップ生成?これじゃん、前には無かったぞこんなの。


必要スキルポイントは100か、レベルが上がって追加されたスキルはポイント消費が激しい。

今は400ポイントほど持っているのでアクティブ化しよう。マップが無いと始まらない。


運転席に詳細な地図が現れ、自分の今いる場所が黄色く点滅している、依頼書のゴミみたいな地図と重ねてみると、おおよそ合っているようなので大丈夫そうだ。


全速力で目的地の村を目指す、一日中運転して疲れたが明後日には到着できそうだ。


風呂に入って疲れを取り、ご飯を食べてベッドに入る。


そういえば僕ってどのくらい強いんだ?防御は申し分ないと思うけど攻撃力は?レベル上がったから結構強いの?


ふとそんな事を思い、ステータスを開き何かないかと探すとパンチングマシーンを見つけた。

なんかパンチングマシーンやり放題って考えた事も無かったけど…良くない?…男の子なら分かるよね?


1ポイントでアクティブ化をすると部屋の隅の方にパンチングマシーンが現れた。


とりあえずやってみるか、僕は開始ボタンを押して的に向かって渾身のストレートを放った。

確実に前より強くなってる!手応えが違う!


結果は…350Kg…。

いや強いけどなんか異世界にしては普通と言うか…なんだかスッキリしない結果だ。

僕はモヤモヤしながら寝たのだった。


翌日、目的地を目指して運転中、前方に2人の人影が見える、母親が子供をおんぶしているのか…なんか怪我してないか?

明らかに出血している、急に地下室へ回収すると混乱するので僕は一度地上に上がり声をかけた。


「大丈夫ですか!!?」

駆け寄って声をかける。

なんかガタイが良いと言うか…振り向いた顔にはツノが生え、眼光は鋭く…牙が生えていた。


鬼だな…やっちまったか…僕。


鬼は僕を睨みつけて口を開いた。

「え?一体どこから現れたんですか!?周りに気配なんて無かったはずですが…」

あれ、なんか良い人のオーラが…


「怪我をしてるのを見て駆けつけました!僕なら治せます!付いてきて下さい!」

説明は後だ!鬼達も少し混乱していたが子供の命がかかっているので素直についてきてくれた。


まあ僕弱そうだしね…警戒心も薄くなるか…


ヒール風呂に案内し小鬼を入れるとみるみる回復、すぐに風呂を満喫している。


落ち着いたので改めて確認すると…鬼だなぁ…

身長は父親が2メートルくらい?母親は父親より少し小さい、子供は…なんか普通だな、小学生くらいか?


しかし父親の筋肉…ガッチガチだ…勇者のホノカなんかあんなに華奢だったのに…。


「お兄ちゃんが助けてくれたの!?ありがとう!」

子供が風呂から上がり抱きついてきた。

良かった…父親はともかく子供は普通の…ってイタタタ!痛い痛い変な方向に足が曲がっちゃうよ!


「こらチヒロ!恩人の方が痛がってるよ!やめなさい!」

母親の言葉で子供は僕の足から離れた、危ない、拷問かと思った…


「感謝する…」

父親は無口なようだ、これでヘラヘラされても逆に怖い。


「なんであんなところ歩いてたんですか?近くに村なんて無かったハズですけど。」

ソファに案内してゆっくりと話を聞く。


聞くところによれば村での村長を決める戦いで負けて追放されたらしい。

そして放浪していたところ魔獣に襲われ、敵の数が多く子供を守りきれなかったと目を伏せて話してくれた。


「村長を決める戦いに負けるとなぜ村を出ないといけないんですか?」

僕は率直に疑問をぶつけてみる。


「村長の考えが気に入らないからその座をかけて勝負する訳なので…」


なるほど、俺の考えが気に食わないなら出てけって話か。分からなくもないな。


「まあお疲れでしょうしお風呂でも入ってきたらどうですか?回復効果もありますよ。」


「感謝する…」

父親は口数が少ないんだな、なんか厳格な父のイメージを受ける。


「お風呂なんて初めてです…なにから何までありがとうございます。私はサイカ、夫はゴウケツ、娘はチヒロです。」


ゴウケツ!?こんなにピッタリな名前ある!?成長してから名前付けたの?


「僕はショウです。宜しくお願いします」

飲み物を飲みながらお風呂の説明をする。

チヒロちゃんはオレンジジュースが好きみたい。

ゴウケツさんとサイカさんは何を飲むのかな…


「ショウさん!このビールって飲み物なんですか!?酒精は弱いですけどこの喉越し!高級なお酒なのでは!?」


「美味すぎる…」


大好評だな、お酒が好きそうな見た目してるし。

好きなだけどうぞと言うと感動しながらゴクゴクと飲んでいる。あの…そろそろお風呂に…


そして偉く気に入られた僕は今ゴウケツさんとお風呂に入っている、是非ご一緒にとの事。

会話がない…気まずい…


「あの…ゴウケツさん達はどんな種族なんですか?僕は山奥育ちなので良く分からなくて」


「俺たちはオーガの一族だ、力がある奴が偉い。しかし俺は思ったんだ。力が弱い人間に負けた事もある。だから弱くても頭が良いオーガの話も聞くべきだと。」


お風呂に入ってお酒が回ってきたのか少し饒舌になったようだ、ありがたい。


「だから俺は村長に意見したんだ、このままではいけないと、今の村長の考えは古い、力だけでなく頭も使わなくてはいけないと」


「それで負けて追放になったんですか…」


「恥ずかしい話だ…実際村長は力で村長になった、強さはダントツだった。」


実際間違った事は言っていないと思うのだけど、どこにでも頭の硬い老害と言われるヤツはいるって事だな。


「そろそろ上がりましょうか、お風呂上がりのビールは格別ですよ。」


「それは楽しみだ」

少しゴウケツさんと仲良くなった気がする。お風呂は偉大だな。


お風呂を上がってビールを飲んでいるとふと目に入ったパンチングマシーン。

僕は350キロだったがどのくらい強いんだ?

ゴウケツさんの点数を見て自分がどのくらいなのかちょっと確認したい。


「あの、ゴウケツさんってオーガの中では強い方なんですよね?」


「ん、まあ5本の指には入るくらいか」


ちょっと試して欲しい機械があるとパンチングマシーンに案内し、思いっきりぶん殴って貰う事にした。


「強さを測る機械か、興味あるな…」

ゴウケツさんは思いっきり拳を振りかぶり…爆発音にも似た轟音を響き渡らせて的に拳を振るった。


大丈夫?壊れてない?


『3500kg!New Record!!』

なんだこの最強のゴリラの握力みたいな数字…


「これはどのくらいなんだ?強いのだろうか…壊さないように手加減したのだが…」

え?手加減してあれ?なんか音速超えてた気がしますけど。


「僕は人間のAランク冒険者ですが…350kgでした…ゴウケツさんは僕の10倍ですね…」


それを聞いてゴウケツさんは少し嬉しそうだ。争いに負けた自信が少し回復したのだろう。


「今度は本気でいく、離れててくれないか?」

さっきので壊れなかったなら大丈夫だろう、ちょっと期待しちゃうよね。


ゴウケツさんは身体を弓のようにしならせて力を溜め、一気に的をぶち抜いた。


『5800kg!!NEW Record!!!」

まじかよ…5800kgってなに?何を壊す時に使うの?


「今のは良かった、少し自信がついた、感謝する」

豪傑さんは笑いながらビールを飲み干しておかわりを取りに行った。

良かった、なんか良い事した気分。


「さっきからなにか爆発音みたいなのがしてたけど大丈夫ですか?」

サイカさんとチヒロさんもお風呂を上がったみたい。

サイカさん、髪の毛サラッサラっすね。


「この攻撃力を測る機械をやっていた。俺は結構強いらしい」

自慢げに話すゴウケツさん、完全に自信回復だね。


「なにそれぇ!私もやってみたいな!」

チヒロちゃんか、確かに気になるなぁ。


背が足りないので手頃な台を用意した。チヒロちゃんはやる気満々だ。

思いっきり振りかぶって的を射抜く。


『300kg!!』


あっぶねぇ!!抜かれるかと思った!!

「やったぁ!300だって!お父さんはどのくらいなの?」


「俺は5800だ、まあ父だからな」

誇らしそうに娘に自慢する父親、幸せそうで何よりだ。


「面白そうですね、私もやってみたいです!」

サイカさん?女性のオーガが細身で筋肉質、流石に僕よりは強そうだ。


サイカさんは初めからフルパワーでいくようだ。

思いっきり体をしならせ…ん?捻りを加えるのか、ちょっと期待しちゃうよね。


スパーン!!!


破裂音が響き渡り画面に測定結果が出てくる。


『6500kg!NEW Record!!」

はい?なんでゴウケツさんより強いの?ゴウケツさん今どんな顔してる?大丈夫?


「まあこんなもんですよね」

「お母さんつよーい!!」


「あの、オーガって女性の方が強いとか…そういう種族なんですか?」


「そんな事はない、男の方が力はある」

信じられない事が起こって動揺しているゴウケツさん、そうだよね、僕も信じられない。


「あなた、力任せではダメなんです、頭も使って考えるって言ったじゃないですか。

こうやって全身の力を拳に…」


サイカさんによりゴウケツさんのフォームが改善された。フォームだけでそんなに変わるのか?


ゴウケツさんはサイカさんのように捻りを加え、全身の体重を拳に乗せて一気に貫く。


『12000kg!!fantastic!!」


まじ!?そんな変わるの?

ゴウケツさんはも驚いているがこれが頭を使うという事か、俺たちは間違ってなかったと話していた。


続いてフォーム改善をしたチヒロちゃん、1000kg!

僕も改善してもらって1200kg!


変わるもんだなぁ…


「動いたらお腹空きましたね、ご飯にしましょう!」


僕はさっきステータスで確認していた鉄板焼きを試す事にした。

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