第28話 親切×思惑=とんでもない事態
毎日、学園で蜜の花についての話をして事業の準備を進めながら、今日はノア様と一緒に週に一度の政治の授業を受けていた。
これまでは、どこか他人事のように感じていた政治も自分が事業を手掛けると、様々なことが理解出来るようになった。
また今まで何も思わなかった箇所に疑問を持ったりと、確実に理解が深まっていた。
「今日はここまでです。ノア様もレオナルド君もとてもよく理解出来ていますね。質問も的確でした。それでは、また来週に続きを説明します」
政治の先生が本を閉じて俺たちを見ながら言った。
ちなみに先生は伯爵家の出身で自身は爵位を持たない。だから侯爵家のノア様は様付けで、同じ伯爵家出身で爵位を持たない年下の俺はレオナルド君と呼ばれている。 先生は皆が等しくという学園の先生ではなく、個人の家庭教師なので、この呼び方は当たり前のことだ。
俺は丁寧に先生に頭を下げてお礼を言った。
「ありがとうございました」
するとノア様もお礼を言った。
「ありがとうございました」
「では失礼します」
先生が帰ると、ノア様は伸びをした。
「はぁ~~疲れたぁ~~でも、レオのおかげで僕も少しずつわかってきたかも。レオが先生に質問すると『ああ、そういうことね~~』って気づけるんだよね~~」
「そう言っていただけると……ノア様の学びの邪魔になっていなければいいのですが……」
ノア様が身体を俺の方に向けながら言った。
「なってないよ!! むしろ、レオのおかげで僕までわかりやすい。レオがわからないことはしっかり先生に聞いて解決して次に行ってくれるおかげで、僕も理解しながら進める」
ノア様が笑ってくれるのでほっとしていると、扉がノックされてすぐにキャリー様が入って来た。
「レオナルド様~~お茶にしましょう!!」
今日もキャリー様は元気いっぱいだ。
俺は頷きながら返事をした。
「はい、ぜひ」
隣でノア様が眉を寄せながら言った。
「キャリー、また許可なく入って来て……いくらレオが来る日を数日前から楽しみにしてるからって……もしもレオが着替えでもしていたらどうするのさ?」
キャリー様が少し考えた後に答えた。
「その時は……無言で速やかに扉を閉めます。はっ!! それともあえてじっと見つめて慣れた方がいいのでしょうか?」
悩むキャリー様を見ながらノア様が呆れながら言った。
「どっちも不正~~解!! いや、そうじゃなくて……許可を得て入ろうよ、ってこと~~大体キャリーは慎みが足りないんだよ、これは女性とか男性とかの問題じゃなくて人として……」
「わかりました!! 慎みですね!! それでは、レオ様、こちらへ!!」
ノア様の言葉を途中で遮り、キャリー様が俺の手を引きながら言った。
俺がノア様を見ると、ノア様も仕方なく立ち上がった。
「全然わかってないよね!? はぁ~~」
ノア様が息を吐いたが、二人はいつも仲が良くて微笑ましい。
そして俺はキャリー様に促されるまま応接室に向かった。
すでに応接室には執事や侍女が待っていてくれていた。
俺たちの姿を見るとすぐに準備をしてくれて、お茶を飲んでいると、キャリー様が俺を見ながら尋ねた。
「ところでレオ様。『蜜の花』のお披露目の場は決まりましたの? もう随分と花は育ったのでしょう?」
実は俺は、リアム様たちとここ最近ずっと、いつ、どこで、どのような時に『蜜の花』をお披露目するのか効果的かを考えていた。
そして、まさに今日、お披露目の場が決まったばかりだった。
「はい。実は本日決まりました」
「いつですの!?」
目を輝かせるキャリー様に向かって俺はノア様を見た。ノア様も頷いたので俺はキャリー様に話をすることにした。
「それは……」
話は今日のお昼休みまでさかのぼる。
++++
今日のお昼休憩中。
俺はアレク殿下、リアム様、ノア様と一緒に会議スペースに昼食を持ち込み『蜜の花』のお披露目の場の話をしていた。
最近はお昼に事業の話をするので学園の許可を得て会議スペースを借りているのだ。
みんなでどの機会にお披露目するのが効果的かを話合っていた時、アレク殿下が口を開いた。
「私の誕生会にお披露目するか? 招待客は約五百人だそうだぞ?」
アレク殿下の誕生会、それは国中の高位貴族が集まる場所で、招待客も俺たち位の年齢の子供から、隠居した貴族までそれはそれは大勢の人々が集う場所だ。
(そ、そんな、大勢の人が集まる場でお披露目!? 凄すぎる!! ぜひお願いしたい)
俺が胸を躍らせていると、リアム様が口を開いた。
「それは却下です」
「あ~~うん。それは下策だね。賛成できないなぁ~~」
ノア様も頷きながら言った。
(ええ~~!? なぜだ? 大勢の方に一気にお披露目する絶好の機会なのに!!)
俺が首を傾けていると、それに気づいたリアム様が説明してくれた。
「レオ、以前ノアに招待されたお茶会を覚えているか?」
以前のお茶会というのは俺がキャリー様に決闘を申し込まれたお茶会のことだろう。俺は頷きながら答えた。
「はい。もちろんです……あ!!」
そして、お茶会を思い出して声を出した。
「あ、レオも気づいた?」
ノア様の言葉に俺は何度も頷いた。
(そうだ。あのお茶会では、皆がアレク殿下や、リアム様、ノア様に夢中でお茶を楽しんでいたり、御菓子を食べている人はほとんどいなかった……むしろ両方を楽しんでいたのは、俺しかいなかった)
そしてノア様が眉を寄せながら言った。
「アレクの誕生日は、みんな人脈作りが忙しくて、お茶なんか見向きもしない。まぁ、アレクとしては鼻が高いだろうけどさ~~」
アレク殿下は少しだけがっかりしながら言った。
「言ってみただけだ。反対されるだろうと思っていたからな……こちらが本命だ。母上の定期茶会はどうだ?」
母上の定期茶会?
アレク殿下のお母様ということは……王妃殿下!!
つまり、それは王妃殿下のお茶会!!
この国の女性たちの憧れである王妃殿下の茶会でのお披露目!!
(そ、そんな場で、お披露目……!?)
震える俺の隣でリアム様が嬉しそうに言った。
「それは素晴らしいですね……ふふふ。王妃様に話は通せそうですか?」
アレク殿下は得意気に言った。
「ああ。実はすでに母上には伝えてある。『出荷可能になったらすぐに言いなさい』と母上も乗り気だ。母上の茶会に参加したご婦人からの口から口にじわりと広がれば、ゆっくりと浸透し、需要と供給のバランスを著しく崩すこともないし、社交界にも確実に広がる。ようやく、ラキーテ公爵に一泡吹かせられるな」
俺は途中から話の流れが変わった気がして首を傾けた。
(ん? 先ほどまで『蜜の花』お披露目の話だったよな……なぜそれがラキーテ公爵の話に変わったのだ??)
「ふふふ、ええ。いい加減、ラキーテ公爵の茶葉独占には多くの者から不満が出ていましたから、ですが今回は正攻法で対処できそうで、喜ばしい限りですね」
リアム様も悪い顔で笑っていた。
なぜだろう、怖い。怖すぎる。
すると今度は、アレク殿下も悪い顔で笑った。
「ああ。最高だ。それで? 新しい茶葉の方も準備はできているのか?」
リアム様がニヤリと笑った。
「はい、我がネーベル公爵家と、ハーラス公爵家で保護することに決まりました」
「ははは、いいな」
リアム様とアレク殿下が悪人のようだが?
俺は暑くもないのに知らぬ間に背筋に汗が流れたのだった。
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