第29話 話は進むよどこまでも……
「はいは~~い、二人共ちゃんと説明しないと、レオが結構本気で怯えてますけど?」
ノア様が、悪い顔で笑っているアレク殿下とリアム様に向かって声を上げた。するとリアム様が俺を見ながら言った。
「ああ、すまない。レオ……実は、ラキーテ公爵家がロイヤルワラントの茶葉を独占していてな、皆困っていたのだ」
(え? ラキーテ公爵の茶葉独占??)
俺はとんでもない方向に話が向かっていることを感じて、手に汗をかいていた。
そんな俺の隣でリアム様が説明を続けてくれた。
「だが、今回、この『蜜の花』が社交界を
俺は思わず大声を上げていた。
「ええ!? 蜜の花にそんな裏の使命が!? だ、だ、だ、大丈夫でしょうか?」
社交界を席巻だけでも夢物語なのに、茶葉の需要がひっくり返るほどのインパクトがあり、さらに市場のバランスを保つ効果まで!?
俺としては、出資金が返金できて、新しく雇った庭師の給与が問題なく払えるくらい利益が出たらいいな、と思っていたが……
まさか……リアム様たちはこの『蜜の花』にそれほどの可能性と期待をしていたとは思わなかった。
慌てる俺にノア様が当たり前のように言った。
「大丈夫だよ。あの蜜の花、僕、凄くびっくりしたもん」
リアム様も頷きながら言った。
「ああ。私も興味を引いた。味も見た目もいい。問題ない。国外でも十分に戦える」
アレク殿下も笑顔で言った。
「ああ、最高だった。レオだっていいと思ったから私たちに出したのだろう? レオの選定眼は素晴らしい。レオは心配症だな……ははは」
俺はこの時、高位貴族の方々が持っていて自分にないものに気付いた。
それは――自信だ。
自分を信じて最後まで歩き切るという決意。
それが……俺にはなかった。
ノア様もリアム様もアレク殿下も自分がいいと思ったのだからいい、と言い切っていた。そしてそれを心から支持している。
――ではどうやって自信を持ったのか?
それはきっと、これまでの経験だったり、教育だったり、環境だったり色々要因はあるのかもしれない。
でも一つ言えることは、彼らは以前の俺のような――人を拒絶し、言い訳し、未知の物から逃げることばかりだった……そんな人生は送ってはいない。
きっと俺はこの方々を完全に真似することなどできない。だって自分とは何もかもが違い過ぎる。
でも……
母の墓前で『もう二度と、自らの手で命は絶たない』と約束した。
だから俺としては前回とは違う未来に繋がりそうなことをその都度考えて選択するしかない。
アレク殿下や、リアム様やノア様のような自分を信じて突き進むという物語の主人公のような輝かしい選び方ではないが、俺にとってはこれでも大冒険だ。
俺は息を吐いて、アレク殿下を見た。
「アレク殿下、ぜひ王妃殿下のお茶会に『蜜の花』を使っていただけませんか?」
アレク殿下はにこやかに笑うと、よく通る声で言った。
「ああ。こちらこそ、よろしく頼む。では正式に城からノルン伯爵家に書状を出すように手配しよう」
するとリアム様が言った。
「さぁ、我々が出来るのはここまで……後は、成り行きを見守りましょうか」
アレク殿下も頷いた。
「そうだな」
俺たちは顔をも合わせて頷いたのだった。
+++
「それは……王妃殿下のお茶会です」
俺が緊張してキャリー様に言うと、キャリー様はいつも通りの声色で言った。
「王妃殿下のお茶会ですか、それはいいですね」
(……え? それだけなのだろうか? 俺としてはかなり緊張して報告したのだが!?)
少し唖然としていると、キャリー様はとんでもないことを言い放った。
「ではその後でしたら、我が家のお茶会でもお出してよろしいのでしょうか? お母様もイザベラお姉様も楽しみにしていますわ」
(王妃殿下のお茶会の後に……クラン侯爵家の茶会に使っていただけるのか!?)
俺が驚いていると、ノア様が声を上げた。
「リアムも今後、公爵家主催の茶会では積極的に使うらしいから、早めに依頼書を作った方がいいだろうね。きっと王妃殿下のお茶会の後は大変だろうから……」
(え? リアム様もお屋敷でも使って下さるのか!? しかも積極的に!?)
俺が新たな新事実に驚いていると、キャリー様が声を上げた。
「王家とネーベル公爵は優先で蜜の花を購入できますものね……では今日にでもお母様とイザベラお姉様に日程を決めて購入の手続きをするように進言いたしますわ」
ノア様が腕を組み、眉を寄せながら言った。
「それがいいだろうね……王家だってきっと一度というわけではないだろうからね……はぁ~~市場安定のために仕方なかったとはいえ、家も出資して優先権欲しかったね~~」
キャリー様も大きく頷きながら言った。
「本当ですわ!! これはリアム様への貸しですわよ!!」
「あ、うん。その辺りもどうしても手に入らなかったら融通してくれるって」
俺の知らないところで話が段々と大きくなっていた。
(これは……帰ったら、花の蜜の発注が多くなるので、手早く出荷できるようにもう一度みんなで出荷までの手順を確認した方が良さそうだな……)
手が足りないようなら、忙しい間だけでも人を雇ったり、屋敷の人間に手伝いをして貰ったり話し合う必要があると改めて思ったのだった。
俺がこれからのことを考えていると、キャリー様が楽しそうに言った。
「ところで、レオ様はアレク殿下のお誕生パーティーには誰と行かれるのですか?」
そう言えば、今日のお昼にアレク殿下が殿下の誕生会があるというようなことを言っていた。
「私は特にお邪魔する予定はありませんが……」
もしもアレク殿下のお誕生会に呼ばれているのならすでに招待状は届いているはずだ。特に我が家に王家からの招待状などは届いていなかった。……というよりも今日、初めてアレク殿下のお誕生パーティーが行われることを知った。
ちなみにいつあるのか、などの詳しいことは何も知らない。
「え? どうして??」
ノア様が眉を寄せながら言ったが、俺としても返答に困ってしまった。
「……私は、アレク殿下のお誕生パーティーには……呼ばれていませんので……」
「えええぇぇ!?」
ノア様は驚いていたが、少し考えた後に言った。
「あ……たぶんアレク、担当文官に『ご招待のお客様はいかがされますか?』って聞かれて『去年と同じ構わない』とか適当に言ったんだよ!! そうじゃなきゃレオが呼ばれないわけないし!! 服の用意出来てる??」
「いえ……」
キャリー様が声を上げた。
「大変、ではお兄様の服を直して着てはいかがですか? お兄様、私のドレスと合う服にして下さい。レオ様にエスコートをお願いしたいですので!!」
いや、俺はそもそも呼ばれていないし、キャリー様をエスコート!?
そもそも俺たちの年齢では、エスコートはいらないはずじゃ……?
「うん、キャリーはまだエスコートが必要な年ではないけど、どうせ、父上と母上が馬車で行って、僕たちは3人で別の馬車だろうからレオも一緒に行ってくれれば、僕が二人の手を持つ必要がないから楽だね。いいね、それ、一緒に行こう」
ノア様が何かを思いついたのか、椅子から立ち上がった。
「え? でも……呼ばれてない……」
「レオ様、早速、衣装を選びましょう!!」
キャリー様も椅子から立ち上がった。
「いや、私はそもそも呼ばれて……あ、ちょっと、キャリ―様~~~」
キャリー様に腕を引かれて椅子から立ち上がることになった。
「さぁ、行きましょう、レオ様」
「え? あの……はい……」
とんでもないことに俺は呼ばれてもいないアレク殿下の誕生パーティーの衣装を選ぶことになったのだった。
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