ダンジョンに追放された俺は最下層から攻略を始めました

こう

第1話「最下層への追放」

「ダンジョンに追放された俺は最下層から攻略を始めました」著:こう


第一話「最下層への追放」


「お前の不純行為……許すまじ!」


 そう言われて、俺はけらけらと笑った。


「な、何を笑っておる」

「いーや? そんな罪、通じるわけねえよ。俺はただ、落ちたスプーンを拾っただけだぜ? たまたま、ケツに当たっただけだ。不可抗力だよ。それで、罪なんか押しつけられてもなあ~? 勘弁してほしいぜ」


 ひらひらとハンカチを靡かせ、俺は笑みを禁じ得ない。

 ――いやあ、それにしても、ライラのケツは柔らかかったなあ。まあ? 好みとしては、硬い方が好きなんだけどね~。

 バン!!

机が叩かれた。俺は少しだけ、びっくりしてしまい、肩をすくめる。

 ちょっと怖いぜ……。まったく。


「貴様は、ダンジョンに追放とする!!」

「ああ。いいぜ。何でも受け入れてやるよ! って、え? 今、なんつった?」


 目の前の裁判官の顔は膨らみ、徐々に怒りが増して、俺を連れて行くように部下に命じた。


「ちょっと、待ってくれよ。どこだよ。ダンジョンって、三百層もあるだろ? ってことは、あれか。百層くらいだよね~。そうだよね~。はは。そんなの罰として、甘いな~なんて……」


 俺が送られたのは、第三百層。最下層だった。

 このダンジョンは別次元に存在していて、三百層すべて、縦に連なっているのだが、それが丸々地球の中にあるわけではない。次元が違うのだ。なぜなら、そんなにあったら、突き抜けるからだ。

 そして、俺は、ダンジョンの奥地で、放置される。


「目隠しなんてしなくてもよかったのに。入口は一個なんだからさ」


 そう独り言ち、そこで動こうとすると、縄がほどけない。


「固く縛りすぎだぜ……。どうなってんだ……」


 何とか、腰に据えられたナイフを手にし、縄をほどいた。


「ここは……? そうだ。階段!」


 ダンジョンには階段がある。それを見つけさえすれば、どこの層にいるかがわかる。

 俺は急いで、その層を歩き回った。


「ぜえ、ぜえ、ぜえ……。疲れた。もう何もでき――」


 階段があった。しかし、下へくだる階段はなかった。


「ん? つまり、どういうことだ?」


 下へ行く階段がないということは、これより下には、層がないということ。

 ほほう。別のダンジョンだな。きっと、二階層しかないダンジョンに送り込んだんだろ。

 そんな馬鹿だなー! こんなことしたって、意味ないってのに。


 しかし、そこにぶら下がっていたプレートには、こう書かれていた。


『第三百層 ルロイド』


 ん? ということは、ここは最下層?

 どういうことだ? ん?

 何度もプレートを見た。そこには、すすがかかっていたが、第三百層とはっきりと書かれていた。


「嘘だろ……。ここにどうやって俺を――?」


 その方法はわかる。魔法で転移させたのだ。

 俺だけを置いていって、それで……。

 落胆すると、ため息をついた。


「そうだ。転移クリスタル!! それがあった!」


 しかし、そこには腰にさしてある短刀のみ。

 これだけ残してくれただけでも、幸運というか、優しいというか。

 俺は「はあ……」と、意気消沈する。


「マジかよ!!」


 叫んだ。しかし、誰も反応を示さない。

 俺は、まだ百層にすら行ったことないんだぞ?

 それに、まだボスを倒したのは、百二十層くらいだったんじゃないか?

 ということは、俺は、まだ誰もなしえていない層に置いておかれた。

 転移クリスタルもなく――。


「死ねって言ってるようなもんだよな、これ」


 普通にそう思った。俺は、追放というより、極刑を受けたみたいなものだ。

 俺は、とにかく、安全圏の階段付近に腰をおろした。


 ――どうする? これから。階段は見つけたから、第二百九十九層には行ける。だが……。


 普通、ボスを倒さないと次の層には行けない。

 ではなぜ、俺がここにいることができているのかというと、普通、ダンジョンは上から攻略する。ということは、ボスは最後にいるわけだから、階段をくだる一歩手前にボス部屋があることになる。

 ここは、ボスを倒した後に来れる安全地帯なのだ。

 要は、この上に、第二百九十九層のボス部屋がある。


 俺は、ここから出るためには、上のボスを倒しつつ、第一層の地上への出口を目指さないといけない。

 つまり、死ねってことだ。


「はあ……腹が減ったらどうすんだよ……」


 そんなことを考えてしまった。第三百層のボスは倒さなくていいとして……。

 二百九十九層は強いよな。絶対。

 ここでうだうだしてても、飢餓で死ぬだけだ。

 こんなところで、死ぬわけにはいかない。

 ちょっとケツを触っただけじゃないか! それを、こんなの……。あんまりだ!


「ボスと戦わなければ、いいんじゃね!?」


 俺は、無謀なことを考えた。

 そうだ。無理にボスと戦う必要はない。ボスを倒す必要はないのだ。逃げればいい。

 逃げて、ボス部屋から出れば……!

 無謀すぎるが、このまま、三百層で食い物を探すよりはいいはずだ。


「いやでも待てよ」


 第二百九十九層に行ったところで、第二百九十九層に食べ物があるかもわからない。

 さらに、それより上に行って、飢餓で死ぬ前に第一層まで行ける保証はない。

 要するに。詰んだ――ということである。


「マジかよ……。つらすぎる。あのケツを触らなければよかった。でも、気持ちよかった~! ぷりんぷりんだったもんなあ……はあ……。くそ!」


 近くに握りこぶしを叩きつける。

 しかし、何も起こらない。残ったのは、悶々とした気持ちと、不甲斐なさと手の腹の痛みのみだった。


「第三百層のモンスターに出会ったら、とりあえず逃げる。マップさえわかれば、どこに三百層の街があるかがわかるはずだ」


 それぞれの層には、安全な街が存在する。そこで暮らす人もいるのだ。

 そこがわかりさえすれば、生きれる。


 マップを記す紙もペンもない。

 これしか。俺には、この一本の短剣しかない。

 地面に傷をつけて、マップを作っていこう。

 最終的に、ここが街だと判定できれば、覚えて、そこへ向かおう。

 それしかない!!


 俺は、壁を伝いながら、頭に構造を思い浮かべた。マップを覚え、すぐ戻り、ナイフで地面に記していく。最初は順調だったが、段々と難しくなってきた。

 しかもモンスターもいやがる。

 それらを避けつつ、マップを覚えながら、安全地帯に帰る。

 かなりキツい。


「マジで、後悔しろよ……。あいつ」


 モンスターを避けながら、マップを作っていった。

 ふう。

 大体出来上がってきたな。

 これで、どこに、街があるかがわかってきた。


「こっちか、こっちか」


 そこには二カ所のブラックゾーンがあった。

 ひとつはラスボスの部屋。

 ひとつは街。

 どっちだ?


 この選択を間違えたら、俺は――死ぬ。

 まあ、ここまで来れたのが奇跡だ。

 深呼吸をして、立ち上がる。

 もう馬鹿な妄想は捨てた。ここからは生きるか死ぬか。それだけだ。


「行くぞ!!」


 パンパンと頬を両手で叩いて、進む。

 ダンジョンは毎回同じ道を通るから、どういう経路だったかはわかっている。

 ここから曲がったところが、おそらくボス部屋。


 豪勢な扉が見えた。当たりだ。ここがボス部屋。

 入りさえしなければ、死ぬことはない。大丈夫だ。落ち着け。


「はあ、はあ、はあ。ここを去って……」


 その時、ボス部屋が開いてきた……!


「くそっ! 何でだよ! 何だよ、俺の人生これで終わりかよ!!」


 すると、誰かの談笑が聞こえてきた。

 きっと、俺の幻覚だ。きっと、高笑いしているのは、あの裁判官と、ライラのものに違いない!


 その時――。死を覚悟した。


 目を閉じたままから、薄目を開けて、遠くを見る。

 え?


「人だ……!」


 俺は近寄ろうとして、考えた。俺のことを裁判にかけた連中がいたら?

 向こうからこっちへは来れるはずだ。

 だから、俺がここに来たわけなのだ。


「はあ……」


 このまま、もうひとつのブラックゾーンへ行って、ボスに殺されてくるか。

 そうすれば、あいつらも本望だろ。


「あれ? 誰だ? 冒険者か。珍しいな」

「本当だ。何してるんだろ。ここは行きはできても帰れないから、俺たちみたいになっちまったのかもな!」


 え? 行きはできても帰れない?


 それはつまり、どういうことだ?


「あ、ああ。ちょっと道を間違えちゃって。あはは……」


 俺は、頭をポリポリと搔きながら、前に出る。


「追放されたのか? お前さん」


「え?」


 それは的を射る発言だった。ばれてる……?

 どうして?


「いや、俺たちもそうなんだよー! 追放されちまってさ。場所がよかったから生きれたもんでさ」

「あ、ああ。俺は追放。しかも、その……」

「何の罪をやらかしたんだ?」

「女冒険者のケツを触ったんだ」

「は?」


 みんなわいわいと喋っていたのに、突如として黙ってしまった。

 シーン、と辺りが静かになってしまう。


「笑いたければ、笑えよ」


 どうせ、馬鹿にしたいんだろ。わかるさ。

 俺はそういうやつには幾度となく出会ってきた。

 馬鹿にしたい。それは根源的な人間の感情だ。


「はははは!」


 そこにいる人たちに笑われてしまった。


「来いよ。飯、食ってないだろ」

「い、いいのか? 俺は最低な男だぞ」

「だからどうした? ここには最低なやろうしかいねえよ」


 そして、俺はその人たちに助けられた。

 八条レンダというのが、俺に飯をくれると言った冒険者だった。

 その仲間にアレックスがいた。


「ようし。仲間が増えたお祝いに!」


「かんぱーい!」


 俺は、こんなことをしていいものかと、思ってしまった。

 俺は断罪され、ここに追放された大馬鹿野郎だぞ?

 それを、救ってくれるなんて……。


「あの。俺、金ないけど、どうしたら……」

「ああ、いいのいいの。それは、俺が立て替えておく」


 レンダが、ビールを飲みながら言った。

 アレックスがすぐに酔ったようで、酔っぱらった口調でものを言った。


「お前は、もう無法者の寂しい冒険者の仲間なの。気にしちゃあ、いかん。ヒック」

「わかった。で、あんたらは、どうやって暮らしてるんだ?」


 同じように追放をされて、ここに来たと言っていたが、それでどうやって、金と寝床を?

 そう思ったのだ。


「俺たちは、安全圏で、暮らしている。宿屋があるんだ。格安のな。モンスターの落とし物で生計を立てている」

「へえ。そうなのか。確かに、落とし物なら、戦わなくて済むしな」

「ああ。先住民の方々は俺ら冒険者を受け入れてくれている。あの人たちはもともと、最上階の人たちだったからな」

「どういうことだ?」

「いいか。このダンジョンは地球にぶっ刺さってるわけじゃねえ。どこかの世界の一部だ。次元が違う。ここに済む人たちはゲームでいえば、NPCだ」

「あ、ああ。先住民ってやつだろ」

「そうだ。ここの世界は、もともと、地上に向けてできていた」

「そうか。第三百層は、一番上だったんだ」

「ああ。そこへは、浮遊の技術を使って、移住したんだと。それでいつの間にか、地下になっちまったってわけだ。世界がぐちゃぐちゃになってな」

「先住民が言ってたのか?」


 おうよ、とレンダは頷いた。

 先住民というのは、このダンジョンにもともと住んでいる人たちのことだ。

 俗称で、NPCと言われている。

 ゲームのそれに限りなく近い人たちだと認識されているからだ。


「それで、一生、外には出れないってわけか」


 俺が落胆して言うと、レンダは大きく笑った。


「はははは! そんなこと考えちゃいけねえ。俺たちは、ここで楽しく暮らして、死ぬんだ」

「でも、女にも会えないんだぞ?」

「何だ、気になるか。そういったことは」


 俺を誰だと思ってる。セクハラで裁判になって、ここに追放されたやつだぞ。

 性欲は人一倍ある。自慢したっていい!


「まあ、気にするな。先住民の中にも可愛い子はいるよ。俺だって、知り合いはいるぞ」

「出ようとは考えないのか」


 そう問うと、彼はまた大きく笑い飛ばした。


「ここは意外と広いんだぜ? 楽しまなきゃやってられん」


 グビグビと酒を飲むレンダ。

 俺は、その様子を片目で見ながら、下にあったジョッキを握る手を見る。

 ここから出れないことを認めて、諦めるってわけか。

 そんなんでいいのか?

 だが、第二百九十九層のボスに挑むのは、馬鹿だ。誰も、そんなことはしないだろう。


「まあ、ここの生活も徐々に慣れていけばいいさ」

「あ、ああ。とにかく、礼を言っておく」


 ありがとう、と言い、俺は彼の手を握った。

 ここで人に会えた、それも、冒険者に会えたことが奇跡だ。

 さらに、そいつらは、追放者だという。

 俺とまったく同じ状況。

 さて――。

 ここから、どうするか。この街で、先住民とともに暮らすのか。

 それとも、攻略を目指すのか。

 俺は外に出たい。また外の料理が食べたい!

 旅行だって!!

 密かに、その場の誰もが、思っていない、願望を何度も自身の中で、反芻するのだった――。


第一話 終わり


あとがき


どうも。

お読みくださって、まことにありがとうございます。

今回、ダンジョンものを書いてみたくなり、そこに追放要素を入れ、自分の好きな設定にして、スタートさせてみました。

結構、楽しくて、一気に一話目を書いてしまいました。

次回はヒロインの登場があります。

やはり、追放ものには、心優しきヒロインがいいよね! ということですが……。

毎日18時近辺で、更新をしますので、なにとぞ、よろしくお願いします。


自分の好きな要素と、ダンジョンをかけ合わせた形の話となりました。

いずれ、スピンオフも書いてみたく思います。


また、たくさん、ウェブ小説を読み、研鑽を積みたいと思います。

もし、楽しんでいただけたら、星やブクマをなにとぞ、よろしくお願いします!


それでは、また明日の投稿をよろしくお願いします!!

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