上京しよう そうしよう

「うぉーやっと来たぞ東京!!」

田舎から上京してきた俺こと山田一郎。

えっ平凡だって思ったやつでてこい。学力平均、体力平均、顔も平凡ときた見事な平均的な人間である。俺は東京に行くために血反吐を吐く思いで勉強に勉強を重ね、そのかいあってか、今日から大学生だ。だけど誰も知り合いがいない大学で俺なんかやっていけるのか⋯不安な思いを抱えたまま大学の門をくぐるとそこはサークルの勧誘の嵐だった。

「テニスサークルやってますーラケットなくても入れるよー」チャラめな男女から紙を半ば強引に渡される。皺くちゃになった紙を受け取り、愛想よく笑顔でうけながしたがらも心の中でリア充ども舌打ちをする。道は蛇行しているのか少し進んでは立ち止まり、また少し進むと止まり中々前には進めない。

「登山サークルやってまーす、初心者大歓迎!最初は低い山から登るよ〜、はいっこれ良かったら」

ボブヘアーのフェミニンなお姉さんが耳に髪をかけながら笑顔でチラシを渡してきた。すごい美人だ⋯心なしかチラシからもいい香りがする。

「あっ、いや、俺は大丈夫です。家が田舎で山の中に住んでたんで」俺は自虐的ネタを言いながらも、都会的なサークルに憧れていたためきっぱりと断った。そうそう!こういう誘いに乗ってずるずる入部っていうのが一番青春をムダにする!

俺はシティーボーイになって垢抜けるんだ!

なんか都会的な!女子と海辺でBBQするようなサークルに入るんだ!颯爽とフェミニンなお姉さんの横を通りすぎようとするとお姉さんがボソリと呟いた。「ざんねーん、夏には海辺でBBQもするのに〜」青春に飢えた俺の耳は煌めくそのワードを聞き逃さなかった。

「まじっすか!?登山サークルなのに!!海辺でBBQするんですか!?水着ですか!?」

「まじで!だよ。不思議だよね〜登山サークルなんだけど夏の恒例行事でね!勧誘の時に絶対言うようにって言われてるんだ」頬に手を当てながら不思議そうにする先輩の後ろには"来たれ新人!歓迎!"という看板を持ちながらサムズアップしてる人がいる。あっ⋯この人は絶対サークルの部長だ。青春という名の行事で1年生を根こそぎ狩りに行っている!!罠だと心では分かりつつも俺の口から出た言葉は⋯「よろしくお願いしまぁぁす!!!!!」入部の言葉だった。


「東京に上京してきた山田一郎です。上京してきたばかりで右も左も分かりませんがよろしくお願いします」俺が挨拶すると、サムズアップしていた紳士こと部長が拍手をして皆に話す。

「今年は新入りがたくさん入ったな、さっそくだがこの後に新歓だ!新入生はもちろん無料だからぜひ来てくれ!」紳士こと部長はさわやかながら、頼りがいのある上司のようで男の俺でも一生ついていきたくなるような漢である。


「うぁー、俺幸せです。知り合いがいない中で不安だったんですが皆さんに会えて本当に良かったです!」烏龍茶を飲みながら男泣きする俺の肩を部長がポンポン叩きながら「おまえシラフで酔えるんだな」と笑いつつ宥めている。

大学生が集まり熱気がこもる居酒屋で、雰囲気に酔う俺はボーっとした頭でサークルメンバーの紹介を思い返す。

「俺は森 山岳。サークル部長をしている。山に行こう!!!山はみんなに開かれている!!!」かなりの人望があるようで話終えるとともに男どもの「アニキィィィ!!一生ついていきます!!」という低い声が響きわたる。

部長の隣にいるのは勧誘で会った副部長、月見里 百合さんだ。聞いたところによるとこの2人実は従兄妹らしい。2人が並ぶと系統は違うが美形でありそこだけ雰囲気がキラキラしている。

「おいおい山田、お前もしかして月見里さん狙いかー」

ダル絡みをしてくるこいつは中居 八。本人曰く彼女いない歴=年齢なのに自称恋愛マスターで恋愛の話をグイグイしてくる。基本的に恋愛話以外では良い奴だ。

「いや、ちげーよ。いいサークルに出合えたなって思ってさ。」

「俺もそれ思ったわ」

ワイワイ話してるうちに新歓が終わり、あっという間に駅への帰り道だ。気持ちいい夜風にあたりながら歩いていると、チリンという鈴の音が裏道から聞こえてきた。ふとそちらに足を向けると、中居が

「おい、そっちは駅じゃねーぞ」と肩をつかんで止めてきた。

「新入生は知らないか〜そっちは神社があるんだよ」振り向くと後ろにはお酒にほろ酔いした月見里さんが立っていた。

「一生に一個だけ願いを叶えてくれる神社。まぁ叶うって言ってる子もいれば叶わなかったって言ってた子もいるから眉唾もんかもね〜」饒舌に話す月見里さんはまた今度のサークルでねと言いながら駅の改札をぬけていった。

「山田気になるのか?せっかくだから神社行ってみっか!特に願い事ねぇけど」という中居についていった俺。

中居と着いた神社は古くて草がボーボーと生える無人の神社だった。「おいおい、幽霊でもでそうだな」「中居やめろよ、ほんとうにでてきたらどうするんだよ」ビビリつつもせっかくここまで来たんだし鈴を鳴らし願い事をしてさっさと帰ることにしよう。登山サークルに入ったんだし

"いい風景が見れますように。見渡す限り草原が広がるような夢のようなキレイな風景だったらいいな"


「なぁ中居は何願った?」ふと駅に向かいながらこの自称恋愛マスターに疑問をぶつけてみる「えっ?願い事は言ったら叶わないんじゃねーの?とりあえず、無難なとこ願っといたわ」というピュアなのかアホなのか分からないなんとも気の抜ける返事がかえってきた。

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