土地神の加護

 毎朝、通学路にある古い神社の掃除をするのが日課だった。

 誰も来ない神社だったが、先祖から受け継いだ土地を守るおじいさんの為に、少しでも役に立ちたかったからだ。


 そんなある日、いつものように境内の掃き掃除を終えた時、朝もやの中に彼女の姿を見つけた。

 白い着物姿で佇む彼女は、まるで空想の世界から抜け出してきたかのようだった。


「待っていましたよ」


 そう言って微笑んだ彼女の姿は、この世のものとは思えないほど美しかった。

 それもそのはず、彼女は神社に祀られている女神だったのだ。

 それ以来、彼女は俺の日常に溶け込むように現れるようになった。


「あなたのためだけに、人の姿をしているんですよ?」


 彼女は時として、風を操り桜の花びらを舞い上がらせたり、月明かりを集めて俺の行く道を照らしたりした。

 その度に、俺は彼女が本当の神様なのだと実感させられる。


「私の加護が、あなたに届きますように」


 教室の窓際に腰掛ける彼女の長い黒髪が、不思議な光を帯びて揺れた。

 他の誰にも見えない彼女は、いつも俺だけに優しく語りかけてくる。


 だが最近、その想いの強さに戸惑いを感じ始めていた。

 今日も図書館で一人で本を読んでいると、突然頬に柔らかな感触が当たる。

 隣を見ると、彼女が俺の横顔に自分の頬を寄せていた。


「私はあなたのためだけにここにいますから」


 神様なのに、まるで甘えん坊の友達のような仕草。

 彼女の温もりは感じられないのに、頬に残る不思議な感覚が切なく胸に迫った。

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