第8話 はぁ...やっと出れる



「ナガヒサ、修行の一環で冒険者になりたいというお前の希望がついさっき認可されたぞ」


 冒険者になりたい。そうサザンに伝えてから数日が経った頃、俺の要望が無事聞き入れられた報告を受けた。


 (まぁ――正直許可が下りないとは思ってなかったけどな)


 何故かって?まずそもそもこんな城の中でぬくぬく鍛錬してるだけじゃいつまで経ったって魔王なんて倒せる筈が無い。そんなんで倒せるなら他の騎士や魔術師達が既に倒している事だろう。


 次に、多分この城の中に俺の居場所ってのが無いからだ。親しげに話してくる者は皆無、使用人の者達も最低限の礼節はつくしてくれるものの間違っても俺の事を慕ったり敬っている様子はない。

 厄介者が外で勝手に修行してくるって言ってるんだ。断る理由もないだろう。


 (……てか俺、気付かないうちに何かしたのか?よくわからないけどニートだった頃の家の中よりも居心地が悪いぞ...)


 俺のメンタルがあの暗いニート期のおかげで鍛えられているから良かった様なものの、これ普通にメンタル弱い人だったら引きこもっていてもおかしくないレベルだぞ。まじで。


「まぁ言わなくてもわかってると思うが冒険者は危険だ。もちろん命を失う者だって少なくはない。お前は勇者として召喚された事でステータスが他の者達より高いかもしれないがそれでも無茶はするな」


「わかってるって。しっかり段階を踏んで自分なりに強くなっていくよ」


 召喚された後、このサザン含む王国騎士団の者達と鍛錬してる時に何度か仕合いをした事があったのだが


 ――――ぶっちゃけ俺はそこまで強くはない。


 つい最近まで一般人だった俺が本業の騎士さん達とまともに打ち合えているだけでも十分凄い事ではあると思うのだが、ソレは間違っても最強とか自負できる様な強さではなかった。

 だから改めてサザンに言われなくても無茶などする気はさらさら無いのだ。


「冒険者ギルドは今いる貴族街を抜けた先の平民街の中心地点にあるんだが、お前はまだ城から出た事も無いだろう?案内してやろうか?」


 そうなのだ……なにを隠そう俺は箱入り勇者だった。貴族街どころか城の敷地からも出た事のない俺にとって外の世界はまさに未知の領域


 ――――でもだからこそ一人で気の赴くままに動いてみたかった。


「いや大丈夫。子供じゃあるまいし自分でなんとかしてみるよ」


 だがまぁ……本心を言えば、出来る事ならパパっと強くなって魔王とやらを倒して帰りたい。

 別に元の世界に未練があるわけでもないし、魔法やモンスターもいるこの世界は正直魅力的にすら思えた。


 だがそれでも向こうの世界には母さんがいる。


 母さんだけじゃない、そもそも別に俺は家族や友人達と険悪な関係だったわけじゃない。

 くだらないコンプレックスから自ら疎遠になっていただけで、こんな俺の事を心配してくれそうな人は意外にもチラホラといるのだ。

 あのローブの男の説明だと、どうも元の世界での俺は行方不明の様な扱いらしい。

 どうせなら向こうとの時間の早さが違うとかそういったケア的なのがあって欲しかったところだが、そんな事に今更文句を言ったところでどうしようもない。


 だから俺に出来る事と言えば、出来る限り早く帰ってみんなを安心させてあげる事だけ。

 流石に息子が何年も帰ってこなかったらあの楽観的でお気楽な母さんでも心配するに違いない。


 ほぼ仲間のいないこの城にいる今の状況はお世辞にも幸せとは言えない状況だが、このファンタジーな世界観はとても素晴らしいと思えた。


 一度向こうに帰ってから次はみんなと一緒にこっちに移住とか出来たりしないかな。

 そうしたらとても楽しそうだし、次はちゃんと頑張るのにな。



 ――――そんな事を考えていた。



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