熱い!
霞は一瞬ためらった後、一歩前に踏み出し、玄関で靴を脱いだ。敷居をくぐると同時に、突然……ずっと感じたことのなかった、はるかに心地よい安心感が広がった。こんなに長い間、家に帰っても怒鳴られることがなかったのだ。
彼女は周りをちらりと見渡し、そして薫が後から入ってくるのを見て、
「すごく……きれい……?」
と呟いた。
「驚いたか?」
薫はにやりと笑いながら、玄関で自分の靴も脱いだ。
「うちの祖母は潔癖症だったんだ。そして……まあ、俺もその性分を受け継いだってわけさ、ふむ?」
「おばあさん、素敵な人みたい……」
彼女は居心地のなさそうな様子で、服の裾をいじりながら呟いた。
薫は玄関近くにバッグを置くと、霞に中へ入るよう手を促した。彼は、彼女が自分のシャツの裾を引っ張っているのを見逃さなかった。どこに立てばいいのか、何をすべきか分からず戸惑っている様子だ。こんな状況で居心地が悪いのは当然だ――全てが少し……未知の領域なのだ。
「ああ、そうだな」
薫は軽く頷きながら、部屋を見渡して言った。
「彼女は本当に素晴らしかった。いろいろ教えてくれたんだ。俺はこの家に住むことを選んだわけじゃない。親がそう望んだからだ。でも、俺はこの家を守っていく。わかるだろう?」
彼は肩をすくめるようにして、平然と話したが、他の誰かが家にいるという考えにはまだ馴染みが薄い様子だ。
「さて、夕飯だ。もうそろそろ必要だろ?」
「えっと……私のために料理なんて……もう十分迷惑をかけたわ……」
彼は少し変な笑みを浮かべながら彼女を見た。
「でも、君は全然大丈夫だ。俺はここでホストだからな、客が家にいるように感じてもらわなきゃ。たぶん、餃子を作ることもできるだろうし……」
少し鼻歌を口ずさみながら、彼は辺りを見回した。
「まあ、俺はやるから。テレビはあそこにあるし、もし寒かったら、こたつも使える。冬だしな。」
薫は台所へ向かう薫の姿を見つめながら、霞は自分がここに来たことを実感していた。自分の家に――本当に……自分の家に。そう、ほんの少し前まで、海辺で彼女をちらりと見ただけだったのに……どうしてこんなことになったのだろう……
一方、霞は当然のように、すぐにこたつを見つけ出した。温かいものには二言はいらなかった。
彼女は周りを見回さずにはいられず、こたつの下で身を整えながら、肩の力が抜けていくのを感じた。温められたテーブルから伝わる温もりが、彼女の体にじわじわと染み込み、その日一日のストレスが溶けていくのを感じさせた。
それは……長い間感じたことのなかった、小さな安らぎの一片のようだった。家の静けさ、平和、この古びた木造の家並み――すべてが彼女にとって、混沌とした日常からの小さな逃避のように感じられた。
大人になることを忘れられたらいいのに。たとえほんの一瞬でも、こんな風に、霞がこの部屋に永遠に留まることができて、隣の部屋に薫がいる……それは悪くない。静かだし、温かいし、どんな音も家庭的で……怖いものは何もない……
彼女がぼんやりと、かすかな、途切れ途切れの記憶の中でしか思い出せない、もっとずっと若かった頃のもの。あの頃は……全てがうまくいかなかった日もあったけれど……いつもこんな風じゃなかった……そうだよね?
「……ああ……これ、いいね」
彼女は自分に向かって、静かに呟いた。
台所からちらりと薫が霞のことを見た。こたつの中で心地よさそうにくつろぐ霞の姿は、あっという間にその場所に馴染んでしまったかのようで、まるでここが彼女の居場所であるかのようだった。
薫はため息をつきながら、夕飯の準備に集中した。餃子がジュージューと焼ける音が響き、家がいつもよりも少しだけ賑やかに感じられた。
一人でいるのは別に構わない。しかし……誰かがここにいて、テレビを見たり、こたつにくるまっていると、家が久しぶりに誰かのいる「家」と感じられる。
程なくして、薫は料理を仕上げた……これまで作った中で最高の料理ではないし、特別なものでもなかったが、食べ物であることに変わりはない。準備する時間もあまりなかったが……
そっと霞の後ろに忍び寄り、彼女の前のテーブルに皿を置いて、
「ぶーっ」
と、子供じみた声を出した。
その突然の物音に霞は少し身をすくめ、肩に力が入ったが、すぐに何が起こったのかを理解した。彼女は驚いた表情から、次第に頬を少し赤らめながら薫を見上げた。
「薫くん……」
と、恥ずかしさを含んだ声で彼女は呟いた。
「ああ、俺だ。そして、食べ物を持ってきた。」
薫は自分が置いた皿を指さしながら、こたつのそばに合流した。
「これで、今夜飢え死にしないくらいにはなるといいな……」
霞は軽くため息をつき、唇をわずかに尖らせながら、目の前の皿に視線を移した。
「私……そんな豪華なものを期待してたわけじゃない……何も期待してなかったんだけど……」
と呟いたが、かすかにお腹が鳴る音が、彼女の飢えを物語っていた。
薫はにやりと笑った。
「うん、聞こえてるよ。」
霞は急いで餃子の一個を手に取り、口に放り込んだ。お腹の飢えの証拠を消すかのように。薫はただ、面白がるように彼女が噛む様子を眺め、食べ物の熱さが彼女に伝わり、彼女が口を扇ぐのを見守った。
「は、はは……熱い、熱い、熱い……!」
彼女は口いっぱいに餃子を詰めながら、熱さと戦うように少し身をよろめかせ、もごもごと言った。
「次は、腹ペコで食べるなよ?」
薫は小さな笑みを浮かべながら首を振り、自分の食事に取り掛かり始めた。
「ふむ……夕飯の後、君が寝られるようなものを用意しないとな……」
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