歩きながら思うこと
「どうして学校に行くのか、自分でも分からない。それに、どうして毎回この道を通って学校に行くんだろう。普段からあちこち歩いてるのに、学校に行くときだけこの道を選ぶ理由って……静かだからかな。人が少ないし、私を見る人も少ない。まあ、誰も気にしてないのは分かってるけど……」
「道はいつも同じ。歩道の同じひび割れ、家の同じ腐ったフェンス。それが少しだけ安心する感じもする。ほんの少しね。なんていうか、一度でもこの道を外れてみたら、何かが変わる気がする。もしこの町を出られたら、それが『道を外れる』ってことになるのかな。でも、それで何か変わるのかは分からないけど。」
「それで、ここにいる人たちは……」
彼女は小さく息を吐く。
「同世代の子たちはいつも何かに急いでるみたい。友達に会いに急いだり、大人になろうとして急いでる感じ。大事なことで急いでるわけじゃないのに……で、お年寄りは……まあ、年寄りだよね。私も大して変わらないけど。『学校に急いでる』ってカウントされるならそうだけど、それは遅刻したくないからだし……」
「……」
「お母さんやお父さんは学校をどう思ってたんだろう……成績とか取ってたのかな。確かお母さんは大学に行ったんだっけ……お父さんは…分からないな……」
「……もっと話せばよかったのかな、私。まだ小さかったし…でも……でも、それでも、だよね?」
「学校がもう少し楽しかったらいいのにな。別に嫌いってわけじゃないけど、そこにいる人たちとか、私が関わるやりとりとか。それも、そもそもほとんどないけど。図書館はまあ悪くないけど、本はつまらないし、宿題とかもすぐ終わっちゃうし、結局同じものをずっと見てるだけ……」
「写真部……」
彼女はカメラのストラップをいじりながら、一瞬ためらう。
「まあ、それはただの言い訳だよね……兄から逃げるための理由ってだけ。それを理由にするなんて冷たいと思うけど……でも、少なくとも歩き回る以外の目的で写真を撮れるから。」
「写真っていいよね……時間の確かな証拠って感じがする。それは……証明みたいなもの。写真がなかったら、私たちには何が残るんだろう。いずれ全部消えていっちゃうんだろうね。」
「……」
「歩いて学校に行かなくていいならいいのに。時間かかるし、ずっと坂道だし……本当に、自転車があればな……いや、誰か自転車持ってる人がいればもっといいけど。ふぅん……」
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