今年こそは

 一日中、薫はただ机に座って過ごしていた。友人二人の会話や、涼真が買ってくれたソーダに少しの間気を紛らわせていたが、それもすぐに飽きてしまう。そして、高橋先生の話をなんとなく聞き流すことにした。


 しかし授業は退屈だった。もう教わる内容は知っていることばかりだ。何か課題が出れば、それに没頭することで時間を潰せたかもしれないのに。退屈が次第に体を重くさせ、机に突っ伏して眠り込んでしまった。


 最終的に、涼真に揺さぶられて目を覚ます。「薫、薫…起きろ、授業終わったぞ。」


「うん…起きてるよ…」目をこすりながら、うつらうつらとした心地よい眠りから抜け出すのを渋る。だがすぐに、教室の光景が思ったより暗いことに気づいた。そして案の定、窓の外ではすでに夕陽が沈みかけている。「ちょっと待て、なんでこんなに遅くまで起こさなかったんだよ!」


「へへ…祭りが始まるまで起こさない方が、他の生徒と一緒に家に逃げ帰ることができなくなるかなって思ってさ、薫ちゃん〜」


「俺は関係ないぞ、薫…」聡介が申し訳なさそうに弁解する。


 薫は呆れたように机に突っ伏してから、立ち上がり窓から橙色に染まる空を見つめた。「…ああ、分かってるよ聡介。こんなバカなことするのは涼真くらいだ。お前な、もし俺に学校終わりに予定とか責任があったらどうするつもりだったんだよ!」


「でもそんなのないでしょ、ふふ〜」涼真は得意げに笑い、薫にじり寄る。


「何でお前がそんなこと知ってるんだよ!」


「だって俺は薫ちゃんの長年の友達だからね〜!君のことは全部知ってるんだよ。今日も祭りには逃げられないぞ、薫ちゃん〜!」


 薫は涼真の髪を掴み、拳でぐりぐりと頭を擦り付ける。「バカか!聡介、こいつを本気で食っちまえ!」


「ええ…?本気で涼真を食えって言ってるのか、薫さん?」


「もちろんだ。ほら、おやつの時間だ。」涼真を聡介の方に押しやり、涼真が驚いた声を上げるのを横目に「俺は帰って宿題する」と言い放つ。


 涼真はなんとかバランスを取り戻し、すぐに薫にしがみついてきた。「でも今日は宿題ないよ!薫ちゃん…薫ちゃ〜ん!今年もスキップするなんてダメだよ、この頑固おじさん!」


「うるさいな。俺は頑固でもなければおじさんでもない…」立ったまま、振り払うこともせず振動に身を任せるだけだった。そういえば、高橋先生には参加すると言ったし、大山崎(姉)にも何か理由があって見に来てほしいと言われていた。


「少しだけ頑固だよ…。で、なんで俺たちと一緒に来るのがそんなに嫌なんだよ?俺たちが嫌いなわけじゃないだろう、薫さん。」なんとなく聡介は個人的に受け取っているようだ。それとも薫の感情に訴えかけようとしているだけか…。


 二人の厄介者がそれぞれ不満顔を向けてくるのを見て、薫は深いため息をついて降参するしかないことを悟った。ただ肩をすくめて「分かったよ…今年は行くよ。でもお前ら、俺に借りができたからな。それにもしつまらなかったらすぐ帰るからな」と言った。


「やったー!!薫ちゃん大好き〜!」


「黙れ、涼真!」


 三人は鞄を持ち、空が薄暗くなる中学校を出た。薫はもちろん、途中で抜け出す方法を考えながら歩いていた。町をぶらぶらするか、いっそのこと家に帰るか。それでも祭りに最後まで残るつもりはない。


 町の人々はすでにほとんどの屋台を準備し、近くの広場で焚き火の薪を積み上げていた。太陽が沈むのを待つだけの状態だ。そういえば、今夜は超新星が見られるとか言っていたっけ。それを理由にするのもアリかもしれない。


 珍しく三人は数分以上一緒に行動していた。数年前の祭りで行った場所と同じところへ向かう。長い階段の列で、休憩や観覧席代わりに学生たちがよく使う場所だ。薫が祭りの記憶で唯一覚えている場所で、それ以外は頭の中で色あせてしまっていた。


「今年は何か違うかもな…」薫は静かに呟きながら、空に最後の光が消えかける中で少しずつ顔を覗かせる星々を見つめていた。

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