冬の二面性

ZetsubØ

プロローグ

 ここでは、夏はいつも暑い。暑さと、海から吹く儚いそよ風や、山からの涼しい空気とのせめぎ合い。それは実際のところ、大したものではなかったが、それでも彼にとっては、日々ここに戻ってくる理由には十分だった。


 この季節になると、蝉の声が響く。街の喧騒や、友達の声、あるいはテレビで流れるいつもの番組に気を取られていなければ、耳に残るのはその蝉の歌声だけだった。


 車の数は少なすぎて都市のようなざわめきを生むには足りないが、風が空虚に鳴り響くほど寂しくもない。

 ここは、年老いた人々が残された時間を静かに過ごすには理想的な場所だろう。


 海辺は、この街をぼんやりとした断片で映し出す。太陽の光が海面で乱反射し、柔らかな白砂が青い海が映しきれなかった光を受け止める。そして波は、遠くの送電線が生む微かな雑音や、あまりにも長く続く日々の単調さを洗い流していく。


 午後になると、決まって二人の人影がそこに現れる。写真を撮るために...まあ、そうかもしれない。リラックスするために...それもあるだろう。ただ、彼らが本当に引き寄せられている理由には気づいていない。ただ一つ一つの訪問が微かな記憶のようになり、やがて曖昧に溶け合っているだけだった。


 彼より少し年上の少女が、暖かな砂の上で癖のように足を捻る。その仕草を、彼は見慣れるようになっていた。なぜ自分が彼女のそんな仕草に気づくのか、彼自身もよくわからない。でも、彼女に話しかける理由だって、同じように理解できないままだった。彼女はどこか自分と似ているように思える存在で、風の音に紛れて聞き取れるほどの声で話す。

「どうして、いつもここに来るの?」


 彼は白波を見つめながら、少しだけためらう。ポケットに深く手を突っ込んだまま、心の中でつぶやく。『どうして僕たちはここに来るんだろう』と。けれど彼が口にしたのは、小さく肩をすくめる仕草だけだった。

「わからない。君は?」


 彼女より少し年下の少年が、砂の上で彼女の隣に立っている。乱れた髪が夏の日差しを受けて輝いていた。彼女はその少年を知っていた。同じ学校の部活に所属する彼を。彼女自身とどこか似ている少年を、少なくとも彼なりの形で。

「私も、わからない…」


 それ以上の言葉は、何も出なかった。いや、言葉にする術を知らなかっただけかもしれない。この時だけは。水音が二人の沈黙を水平線の彼方へと運び去り、残されたものは後になってから理解されるのを待つばかりだった。

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冬の二面性 ZetsubØ @TachikomaNarou

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