考えたこととか
麻倉伊緒奈
【詩】秋の日
あなたが死んだ日
わたしは池袋のカフェで食べたくもないケーキを食べていた
メニューを頼むとキャラクターが描かれたコースターが貰えるのだ
一枚八百円の厚紙を集めて満足する人の群
あなたはおそらく
それもいいねと言うだろう
もしかしたら着いてきて
一緒にケーキを頼んでくれるかもしれない
厚紙の絵柄を楽しむ余裕さえあるかもしれない
そしてあなたは何枚もある厚紙の中から
一番派手なやつを選んで持って帰る
あとの残りは全てわたしが受け取る
それは明確な拒絶の意思でもある
あなたが死んでも世界は元気に喧嘩をしている
あなたは生前からそんな予想はついていたみたいで
ほら、やっぱりと笑うのが聞こえてくる
詩人だったあなたがいなくなって失われたのは
世界ではなく目だ
世界の見つめ方を人類は一つ失った
二十億年の眼差しを
子犬のつぶらな瞳を
なんでもない人々の静謐な目を
あなたはあなたの二つの目から見ていた
どれだけ聡く鮮やかで悲しいことだったかわたしには想像もつかない
あなたの詩は言葉であり目だった
わたしは長くあなたの目を借りていたので
少し目が悪くなってしまったようだ
そうしていつか目を閉じるとき
厚紙の絵柄はもう見えないだろう
ほら、やっぱりとあなたが笑っている
あまりにも晴れた秋の日
考えたこととか 麻倉伊緒奈 @Sakurachiru-Yoru
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