婚約者を妹に取られましたが、社交パーティーの評価で見返してやるつもりです

第9話 偽りの輝き

　イザベラは、姉の計画書やアイデアノートを盗み見して作成したメモを参考にしながら計画を立てた。その内容は、ヴィクトリアの計画に酷似していたが、イザベラ自身はそのことに自覚がなかった。彼女は、これが自分自身で考え出した完璧な計画だと自信満々だった。

　一方、周囲のスタッフたちは懸念を抱えていた。

「イザベラ様が代わりに指揮をとるらしいけれど、本当に大丈夫なのかしら？」

「でも、指示された通りに動くしかないわ。私たちにできるのは、準備を進めることだけよ」

　スタッフたちは、心配を胸に秘めながらも従順に準備を進めていった。

　しかし準備段階で、徐々にイザベラの問題点が露呈していく。

　メモの断片的な理解、スタッフへの高圧的な態度、細部への無理解など。それでも、ヴィクトリアがこれまで教育してきた優秀なスタッフたちのおかげで、表面的には何とかパーティーの準備は進んでいった。

　だが次第に、スタッフたちでもカバーしきれない問題が浮上してきた。メモの誤読、重要な注意書きの見落とし、スタッフの助言を無視して自分の意見を押し通すイザベラの姿勢。さらに彼女独自のアレンジが加わったことで、あちこちに違和感が生まれていく。

　見た目は立派だが中身が伴わない、チグハグな印象を与えるパーティーへと仕上がっていった。正しい知識や感性がある者が見れば、その残念な出来栄えは一目瞭然だろう。

　しかし当のイザベラは、完全な成功を確信していた。ダミアンもまた、その完成度に満足の意を示す。

「よくやってくれた。君は宣言通り、こんなに素晴らしいパーティーを完成させたんだ。驚いているよ。参加者もきっと、君の才能を称賛するだろう」

「ふふふ。褒めてくれてありがとう、ダミアン様。でも、これぐらい楽勝よ」

　イザベラは得意げに微笑み、姉を超えたという自負に浸っていた。

　いよいよパーティー当日。参加者たちは思い思いの感想を漏らしていく。

「見事な装飾ですね。今回はイザベラ嬢が取り仕切ったとか」

「それでは、噂は本当だったのですか。これまでヴィクトリア嬢の功績とされていたものも？」

「そのようですね」

「それなら、今後はイザベラ嬢と親しくしていくのが良いでしょう」

　一部の参加者は、イザベラの手腕を評価し、今後の支援について考え始める。

　しかし、他の大半の参加者貴族たちは、違和感を抱いていた。彼らの目は、とても厳しかった。

「これは......、表面だけの豪華さですな」

「装飾は立派だが、バランスが悪い。もてなしの心も感じられませんよ。自分たちの財力や地位をひけらかすような、品格の無さを感じます」

「以前のパーティーとは、格が違う」

「やはりあの噂は、誤りだったのでは」

　そんな評価が飛び交う中、新たな話題が広がり始めた。

「ヴィクトリア嬢が、ハーウッド家のエドワード殿と婚約したそうですよ」

「あの軍事貴族との婚約ですか」

「これは興味深い。社交界を避けがちだった彼らが、なぜ今この時期に」

「ヴィクトリア嬢なら、きっと素晴らしい変化をもたらしてくれるでしょう」

「ハーウッド家の今後が楽しみですね」

　人々の関心は、パーティーの出来栄えから次第に、社交界の新たな動きへと移っていった。