第8話 慢心の準備

 豪華な装飾が施された大広間で、ダミアンは静かに時を刻む大時計の音に耳を傾けながら、イザベラが到着するのを待っていた。気品漂う空間に、春の陽射しのような明るさを携えて、イザベラが姿を現した。


「大事な話があるって、なんですか?」


 ニコニコと愛らしい笑顔を浮かべて部屋に入ってきたイザベラが、爽やかな声で問いかける。いつものようにダミアンと甘い時間を過ごすつもりだったが、彼の真剣な表情を見て、自分も姿勢を正し、表情を引き締めた。


「そこに座ってくれ」


 ダミアンが、向かいの席を示す。


「はぁい」


 イザベラはスカートの裾を優雅に整えながら腰を下ろした。それを見てから、早速本題を切り出す。


「君を呼んだのは、次のパーティーの件でな」


 ダミアンは真摯な眼差しで彼女を見つめながら言った。


「君に全ての采配を任せたいと思っている」

「まあ! 本当ですか?」


 ダミアンの言葉を聞いて、イザベラの瞳が喜びに輝く。早速、彼の役に立てることを楽しみにしている。そんな余裕のある彼女を見て、ダミアンも安堵の息をついた。イザベラに任せれば大丈夫そうだ。


「本当は、ヴィクトリアに任せる予定だったが、手柄を横取りした件があったからな。それに、婚約も破棄している」


 姉の名前を聞いて、イザベラは一瞬ムッとした表情を浮かべる。表情に一瞬の翳りが差した。しかし、すぐに華やかな笑顔が戻った。


「ご心配なく! 私に全てお任せください。きっと、これまでにないような素晴らしいパーティーを創り上げてみせます」


 自信満々に答えるイザベラ。任せておけば大丈夫だと、何度も力強く言葉で示した。その瞳には、揺るぎない決意が宿っている。


「そうだな。これまでイザベラの力があったからこそ、パーティーは成功してきた。今回は全てを君に任せることで、さらなる高みに達せるはずだ」

「えぇ、もちろん」


 ダミアンの言葉に、イザベラの心は高鳴った。自分の力が認められている喜びと、大きな期待に応えなければという責任感が入り混じる。


「見ていてください、ダミアン様。必ず期待以上の結果をお見せします」


 既に彼女の頭の中では、パーティーのイメージが次々と広がっていた。色とりどりの装飾、華やかな音楽、豪華な料理の数々。あとは、それを使って計画を立て、指示を出すだけ。簡単なことだと考えていた。


 姉よりも上手くやってみせるために、少しアレンジを加えることも考える。それができれば、ダミアンが望んでいる成功を手に入れられるはずだ。イメージはバッチリだった。


 イザベラは内なる情熱を抑えきれず、小さく握り締めた手に力が入る。ここで結果を出して、姉を超える功績を残し、ダミアンを喜ばせ、自分の価値を示すために。


 そんな彼女の気合を入れる仕草に、ダミアンは密かな微笑みを浮かべた。彼女なら必ずや期待通りの結果を出してくれるだろう。そう確信した彼は、心地よい安堵感に包まれていた。


 これなら、いつものように全ての準備を任せて、自分は準備が完了したパーティーに参加するだけで大丈夫そうだ。それは、とても楽でいいとダミアンは考えていた。

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