人気VTuberが婚活企画で無理難題吹っ掛けてきたので全部攻略してプロポーズしてやった件
れっこちゃん
1章 ルナとの出会い
第1話 月夜ルナが現れた
俺の名前は
特に目立った特徴もなく、クラスで埋もれがちな存在。
身長も平均以下だし、これといった特技もない。強いてあげるなら、ゲームが得意ってことくらい。
ただ、ひとつだけ言えるのは、俺は“普通”でいるのが楽だってことだ。
そんな俺だけど、ひとり暮らしは結構気に入っている。
大学入学と同時に親元を離れて、小さなアパートで暮らし始めた。
部屋は狭いし、防音も微妙だから隣の住人の音が筒抜けだけど、自由な空間を持てるのは何よりだ。
それに、親の目を気にせず夜更かししたり、好きなゲームに没頭したりできるのは最高だ。
「よっこらせっと」
で、俺が最近ハマっているのがVRtalkだ。
VRtalkっていうのは、仮想空間で会話や交流を楽しめるアプリみたいなものだ。
専用のゴーグルとコントローラーを使えば、まるで別世界に入り込んだような感覚を味わえる。現実の姿とは全然違うアバターを作って、自分らしさを表現できるのも魅力の一つだ。俺もアバターを何度もいじって、自分なりにしっくりくるデザインを見つけた。
このVRtalkの一番の面白さは、いろんな人と気軽に話せることだ。リアルで会うわけじゃないから、余計な緊張もない。
話題も自由だし、ふざけた会話だって誰にも咎められない。
俺が普段参加しているのは、大学の友人たちと作ったグループスペースだ。仲間内で雑談したり、近況を報告し合ったりするのが日課になっている。
正直言って、俺にとってこのVRtalkは、現実の嫌なことを忘れるための逃避場所みたいなものだ。大学の講義で失敗して落ち込んだ日も、ここに来れば自然と気分が和らぐ。
友達が笑っている声を聞くだけで、なんだか自分も安心するんだ。
「今日もみんな集まってるかな……」
ゴーグルをつけてログインすると、いつものスペースに向かう。
そこは俺たちだけの居心地のいい空間だ。誰かが作った仮想のカフェ風のステージで、座れるソファやカウンターが並んでいる。そこに友人たちが集まり、思い思いの時間を過ごしているのだ。
スペースに入ると、すぐに聞き慣れた声が迎えてくれた。
「あっ、燿くん! 今日も来たのね!」
「おっす、待ってたぞ!」
画面越しに見えるのは、それぞれ個性豊かなアバターを纏った仲間たちだ。
俺も軽く手を振り返しながら、空いているソファに腰掛けた。
「聞いてくれよ~、今回のレポート危なかったんだぜ!」
「ふふ、燿くん、いつもギリギリで出してるよね~」
話しているのは
「いやいや、燿のことだからまた間抜けなミスでもしたんだろ?」
茶化してくるのは
高校時代からの友達で、いつもこんな風に俺をからかってくる。おちゃらけた奴だけど、いざというときには頼りになる、俺にとってかけがえのない仲間だ。
こんな風に、俺たちは毎晩のように集まっては他愛のない話をして過ごしている。
現実では顔を合わせる時間が少なくても、このVRtalkのおかげでいつも繋がっていられる。それが俺にとって何よりも大切な時間だった。
しかし、その平和な空間は突然の喧騒で破られることとなる。
『みんなーっ、今日は集まってくれてありがとねーっ♪』
スペースがざわざわと騒がしくなったのは、燿がログインしてから十分も経たない頃だった。初めは単なる人の出入りだと思った。
スペースを分けていても、その空間を楽しみたくてゲストが入ってくることはたまにある。だけど、今回は少し違ったのだ。
次第にその数は膨れ上がり、普段は見ないような華やかなアバターたちが次々とスペースを埋め尽くしていった。
「なんだこれ……?」
燿は目の前の異様な光景に眉をひそめる。
友人たちも同じように戸惑っていた。
「うわっ、もう100人近く集まってるぞ」
「ねぇ、私たち何かに巻き込まれちゃった……?」
そのときだった。突然、群衆の中心から透明感のある可愛らしい声が響いた。
「みなさん、こんにちは~! 月夜ルナでーす! 今日は特別企画『婚活イベント』をここで開催しま~す♪」
その瞬間、空間が歓声と拍手に包まれた。
「月夜ルナ……?」
俺がその名前を繰り返した瞬間、蒼汰は聞き返した。
「え、お前知らないの、ルナちゃんを!?」
「知らないけど、誰?」
「マジかお前……今有名なVTuberだぞ?」
蒼汰は状況を説明した。
VR界隈で圧倒的な人気を誇る大物VTuberが、突然彼らのスペースに現れたのだ。
そしてその人気ぶりは、彼女一人で数十人、いや数百人もの人々を引き寄せる力を持つほどだった。
「すごいね~ライブに来てるみたい」
のほほんとした表情で感心するユメちゃん。
だけど、俺は不満を隠せなかった。
「なんでここで婚活なんか始めるんだよ……」
普段仲間たちと穏やかに過ごしていた空間が、突然知らない人々で埋め尽くされ、あげくにはイベント会場にされてしまったのだ。
「このイベントでは、私が考えた“無理難題”をクリアした方が勝者となり、私とお近づきになれる権利をプレゼントします! では、みなさん、頑張ってくださ~い♪」
可愛い声で軽やかに語る彼女だが、俺にとっては苛立たしい響きだった。
「ふざけるな……」
俺は小声で吐き捨てた。
仲間たちの場を乱された怒りが込み上げてきたのだ。
「いやいやキレすぎだろお前?」
「どうしちゃったんだろうねぇ、燿くん」
心配そうにする二人をよそ眼に、俺は言った。
「ちょっと文句言ってくるよ」
俺が立ち上がると、蒼汰が呆れたように肩をすくめた。
「おいおい、マジかよ。あの大人気VTuberに文句言うとか、大勢から叩かれても知らねーぞ?」
一方で、ユメは少し困ったように笑っている。
「燿くん、そんなに怒ることないんじゃない? 婚活企画なんて、一晩経てば終わると思うよ?」
「終わるかどうかは問題じゃない、なんで俺たちのスペースで勝手にやるんだよ!」
俺は半ば怒りに任せて声を荒げたが、二人は全く動じていない。
蒼汰は片手をひらひらと振りながら、呑気に言う。
「まあまあ、燿が文句言いに行くのは勝手だけどさ、どうせ相手にされねーぞ?」
「そうだよ~あの子、有名人なんだし……燿くんが相手にされるどころか、逆に取り巻きに笑われちゃうかも」
「だからってこのまま放っとけるかよ!」
俺はその場にいる大勢の人たちを見回した。
華やかなアバターの数々が、楽しげに笑い合いながらルナの言葉に聞き入っている。俺たちの居場所だったこの空間は、もう完全に別物と化していた。
「……なら、こうするしかない」
俺は深く息を吸い込み、画面に表示されたイベント参加ボタンをクリックした。
「うわっ、本気で行くのかよ!?」
蒼汰が大袈裟にのけぞり、ユメはくすっと笑いをこぼした。
「ふふ、燿くん、頑張ってね? どんな無理難題が出されるのか、ちょっと気になるかも」
「俺を送り出すなよ! これは婚活のためじゃなくて文句を言うためだ!」
「まあまあ、ルナちゃんに文句言うのも、ある意味イベント攻略の一部かもしれないし?」
蒼汰は肩をすくめながら、あっさりと言ってのけた。
その態度に少し腹が立ったが、言い返すのも面倒だ。
そう思い立った俺は、その場で婚活企画に参加することを決めた。もちろん、結婚なんて興味はない。ただ、彼女に直接「やめろ」と言いたかったのだ。
だが、これが思わぬ運命が待ち受けているとは、まだ誰も知らなかった。
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