小学生雀士桃花

日々菜 夕

第1話

 はじめに。


 このお話は、麻雀を知っている人からしたらなんでこんな書き方してるんだろう?

 と、思われる部分んが多数あります。

 私なりに、麻雀を知らない人でも楽しめるお話を目指した結果ですので生暖かい目で読んで下さると幸いです(=^・^=)

 それと、麻雀を題材にした小説って読んだことがないので、アドバイスなどもらえたら泣いて喜びます!

 あと、麻雀を知らない人ごめんなさいm(__)m

 このお話ではルールとかの説明が大きく不足しております。

 もし、少しでも興味を持たれましたら調べてくださいませ。




 この物語はフィクションです。登場する人物。地名、団体名等は全て架空のものです。






             【小学生雀士桃花】




「ポンなのです!」


 そう彼女が口にするたびに、応援団からは、ざわめきが生まれていた。


 なぜなら彼女は、ほとんど鳴くことがなくリーチをかけてはツモ上がりをするというスタイルが主流だからだ。


 そんな彼女がスタイルを変え、鳴き麻雀をしているのは全てボクが原因だ。





 もともとボクは、彼女。


 桃花ももかちゃんの家庭教師だった。


 つまり教師役として桃花ちゃんと接していた。


 そこに変化が生まれたのは、彼女の両親と麻雀をするようになったのがきっかけである。


 基本的に4人でする遊戯であるため、人数が足りない時にボクが混ざると言った程度だったのだが。


 それでも、桃花ちゃんをのけものにして楽しんでいるように感じてしまったらしく。


 ひどいやきもちを焼かれてしまったものだ。


 なにせ、こんど何でもお願い聞くから許してほしいと言って、その場をしのいだくらいである。


 そこで勉強を教えるだけでなく麻雀も教えるようになったのだ。


 そしてボクが通う雀荘にくっついてくるようになり。


 現在にいたるわけである。





 ここ、一ツ橋町では麻雀がちょっとしたブームになっており。


 その中心の一人が桃花ちゃんだった。


 ボクが、麻雀を教えた際に、リーチして上がると一発とか裏ドラがのって点数が大きく増すことがあると教えたからだ。


「だったら桃花は、リーチして上がるのです!」


 そうして生まれたのが、リーチして上がる事を主流としたスタイルである。


 頻繫にリーチしていれば当然、一発が付く回数も目立つようになり。


 桃花ちゃんが混ざった卓では一発が良く出ると言われるようになるまでに時間は、それほどかからなかった。


 もっとも、桃花ちゃんが一発で振り込む事も多かったからではあるが……


 それでも、リーチ一発ツモの破壊力はすさまじく。


 気づいた時には、一発の女王と呼ばれるようになり。


 ファンが増え始めていた。


 今では、町の商店街がスポンサーみたいな事をするまでになっている。


 まぁ、小さな町のアイドルといったところだろうか。


 そして、そんな桃花ちゃんの活躍もあり、町内会が動いて一ツ橋町での麻雀大会が開催される事になったのである。


 ちなみにボクは、初戦敗退。


 弟子である桃花ちゃんに、リーチ一発ツモを決められてしまったからである。


 特にボクが、親の時に、倍満を二度もツモ上がりされたのが痛かった。


 手も足も出ないとは、まさにこのことだろう。


 そして、暇なら解説役をしてもらえないか?


 と、地元のローカルテレビ局から頼まれ決勝戦の解説役をすることになったのである。 





 決勝戦の舞台は、テレビ局の一室だった。


 そこに全自動式麻雀卓を持ち込んでの勝負は、半荘はんちゃんを3回やり。


 合計点で、勝敗を競うものとなっていた。


 3枚ある赤い5の牌は、それ単体でドラと同じ役割を持ち点数の底上げをしてくれる。


 持ち点は25000点で、ダブロン、トリプルロンあり。


 誰かが0点を下回った時点で即、飛び終了。


 役牌の後付けもアリで食いタンもあり。


 一飜縛りの一ツ橋町ルールである。


 そして、ここまでの2戦。


 桃花ちゃんは、大敗をきっしていた。


 原因の一つは手の遅さ。


 つまりリーチをかける前に相手に上がられてしまい持ち点を減らすばかりとなっていて。


 2戦とも桃花ちゃんの飛び終了という、なんとも応援団泣かせの内容だった。


 直接桃花ちゃんに見えないのにもかかわらず応援席では、桃花ちゃん頑張れ!


 とか、リーチ一発ツモLOVEなんて書かれた横断幕まで持ち込んでいる商店街の皆様には、なんとも申し訳ない結果である。


 そして、半荘終了した時にある予定だった10分間の休憩時間――ボクは、桃花ちゃんの元に居た。


「桃花ちゃん。まだ勝負は終わってないんだ。だからそんなにふさぎ込まないで」


 なるべく優しく言ったつもりだったのだが。


 桃花ちゃんには、その思いが届いているようには見えなかった。


宇崎うざき先生! 桃花きっともう運を使いきっちゃたのです! だから運にたよらないで勝つ方法を教えて下さい!」


 涙混じりの青い瞳がボクを見上げていた。


「運に頼らないでって言っても……」


「だって何度も言われてるのです! 今まで勝ってこれたのは運が良かっただけだって! きっとそのうちに運を使い切って勝てなくなるって!」


「それが、今日だって言うのかい?」


「だって、だって! さっき宇崎先生言ってたのです! まだまだ1回戦が終わっただけなんだから、まだまだ、ばんかいの可能性はあるって!」


「うっ……」


 ごめん、の一言すらボクの口からは出てくれなかった。


「それなのに、それなのに! もう、このままじゃ最下位確定なのです! だから。だから! なにかしないと、いけないのです!」


 しばし考えたボクは、スタイルの変更を口にした。


「だったら、鳴こう! 積極的に鳴いていって手を早くするんだ!」


 ボクの答えが、よほど意外だったのであろう。


 桃花ちゃんは、困惑していた。


「でもでも、それだと点数が……」


「いいかい桃花ちゃん! ついてない時は誰にだってある! それでも最終戦だけでも勝ちたいと言うなら鳴くしかない!」


 今度は、桃花ちゃんが少し視線を落としながら沈黙し、考えを巡らせていた。


 きっと、直接見えなくとも商店街の皆様の事でも考えているのだろう。


 なぜなら、母親譲りの銀髪をかるくウエーブさせたヘアスタイルは美容院のサービスだし。


 可愛らしい白いワンピースだってアパレルショップから今日のためにと提供されたもの。


 そして、少し大人っぽい感じのする靴だって靴屋さんから提供されたものだ。


 そんな皆様の期待を裏切っている現状が許せなくて、悲しいのだろう。


 だからこそボクは、言葉を選んで説得を試みる。


正幸まさゆきさんだって喰いタンばかりじゃないし、時にはリーチだってする」


 通称喰いタンのマサ。


 とにかく喰いタンを連発させて、相手より早く上がることを信条としている爺さんだ。


 現在3位につけている今日の相手の一人である。


「それに、リーチというてんで言えば詩織しおりさんだってそうだ。時には自分のスタイルを変えてリーチしてる」


 通称ダマテンの鬼。


 黙ってテンパイして上がることを信条とし。


 突然ロンと言われて唖然とする相手の顔を見るのが三度の飯よりも好きだと言い張る婆さんで現在2位。


 リーチするのは、それ以外に手がない時であり。


 だいたいドラを多く持っているので振り込むと痛い目を見ることになる。


「そして、田渕たぶちさん。真似するなら彼が一番理想的だ」


 予選から始まり、今日も好調な田渕さん。


 現在、トップを独走している。


 スタイルは、変幻自在というべきだろう。


 時に、鳴き。


 時に、リーチし。


 時に、黙って当たり牌を待っている。


 さらに付け加えるならば、相手が高いと判断すれば、いさぎよくおりて逃げにてっする。


 なぜかレンズの入っていない眼鏡をしていることから伊達メガネと呼ばれているおっさん。


 本人いわく、眼鏡をかけていると集中力が増すのだそうだ。


「どうかな桃花ちゃん? やっぱり、リーチにこだわりたいかい?」


 ボクの問いかけに対し、桃花ちゃんは顔を上げ。


 ボクの目を見てはっきりとした口調で断言してくれた。


「わかったのです! 桃花! 鳴いて、鳴いて! 鳴きまくるのです!」


「うん。そのいきだ! と、言いたいところだけど。後先考えずに鳴くのは良くない」


「ほえ? そうなのですか?」


「あぁ、今まで通りどんな役で上がりたいのかしっかりイメージして手を進めること。それを踏まえた上で鳴くときは鳴く。鳴くまでもなく手が完成したならリーチすればいい。それが理想だ。分かったね?」


「はい! 宇崎先生、ありがとうなのです!」




 

「泣いても笑っても、これが最後の最終戦! 果たして最後に笑うのは誰なのか! 現在のトップは、伊達メガネ! 続いてダマテンの鬼! 喰いタンのマサ! そして、先ほどトリプルロンという珍しい形での敗退をきっした一発の女王! と、なっておりますが宇崎さんどう思われますか?」


 このやたらと高いテンションについていけず、じゃっかん引き気味にボクは答え続けてきた。 


「そうですね、このままいけば田淵さんの優勝は揺るがないでしょう。2位の詩織さんとの点差だけでも5万点以上ありますからね」


「なんともありきたりでつまらない解説をありがとうございます!」


 つまらなくて悪かったな!


 と、心の中でだけ毒をはいてから。


 ボクは、言葉を紡ぎだす。


「まぁ、ボクがつまらないのは置いておいて。桃花ちゃんには休憩時間に、とあるアドバイスをしてきたのでその結果が楽しみではありますね」


「あぁ、解説を頼んだはずなのに休憩時間のたびに私を一人にして、かわいい小学生といちゃいちゃしてくるとかありえない事をしてきたって話ですね!」


 違うわ! ボケ!


 と、心の中でだけツッコミを入れてから。


 ボクは、無難な言葉を選んで口を開く。


「まぁ、ボクがどんなアドバイスをしてきたのか。それは、見てのお楽しみって事でお願いします」


「では、最終戦。ダマテンの鬼が、親でのスタートとなりました! 対面には喰いタンのマサ! 点数の近いこの二人の2位争いも気になるところですがどう思われますか?」


「そうですね。現状では詩織さんが有利でしょうが、正幸さんが親で連続して上がった場合、簡単にひっくり返る点差ですからね。勝負は最後まで分からないといったところではないでしょうか」


「ほんとうに、ありきたりでつまらない解説者ですね! 終始無理にでも盛り上げようと奮闘している私の事も少しは考えてほしいものです!」


 まったくにもってひどい言われようである。


 だが、ボク自身つまらない人間であることを自覚しているだけに反論する気にもなれない。


「まぁまぁ、ボクの事は置いておいて。南家に座る田淵さんの余裕の笑みが揺らぐような事態になることを桃花ちゃんには期待しております」


「ですが、北家というもっとも不利な席に座る一発の女王には、厳しいのではないでしょうか?」


「そうとも限りませんよ。最後に親が回ってくるわけですから。粘って粘って粘り強く頑張っての逆転勝利という可能性もありますからね」


「では、宇崎さんは一発の女王の奮闘を期待しているってことですね!」


「はい! この最終戦だけでもトップで終われると信じております!」


「ですが、すでにトップとの点差は10万点以上! どんなに頑張ってもせいぜい3位が狙えるかどうかと言った位置にいるのが一発の女王です! 果たしてどうなるのか⁉」





 最終戦。


 最終局。


 桃花ちゃんは、5万点以上稼ぎ親をむかえていた。


 このまま終われれば、最終戦だけはトップで終われるし。


 応援してくれた応援団にも顔向けが出来るというものだ。


 しかし、それだけでは満足出来ないのか?


 それともやはり、頑張ったご褒美に神様が用意してくれたのか?


 最後の配牌に、少なからず期待するボクがいた。


 その時の、親の手牌を中心に映像が映し出されるため他の三人は分からないが実況の山口さんも興奮している。


「これはもうはつちゅんを鳴けば最終戦の勝利が見えてきた一発の女王! 果たして鳴かせてもらえるのか⁉」


「そうですね、それよりもボクははくを引いてくるんじゃないかと予想しております」


「は? 白ですか⁉」


「はい、白とドラであるなんを引いてこれば大物手に化けますからね」


「いやいやいやいや! さすがに両方は欲張り過ぎでしょう!」


「ですが、今の桃花ちゃんなら可能性はあると思いますよ」


 なにせ配牌はいぱいがマンズの4,6,9,9。ピンズの1。ソウズが3,5,7。ぺーにドラである南。先ほど山口さんが口にした通り発と中が2枚ずつある。


 大物手に化ける可能性は、じゅうぶんにある!


「一発の女王。先ずは、北からの切り出し! 宇崎さんの口調からすると狙いはホンイツと思われますが! ここは北を残してピンズの1からでも良かったのではないでしょうか⁉」


「そうですね、ホンロウトウを狙う意味でも北を残してマンズの4か6。もしくは、ソウズの3か5か7を落としていくのが良かったかとは思いますね」


「はぁ⁉ この手牌でホンロウトウですか⁉」


「今の桃花ちゃんならば、その可能性も視野に入れていると思いますよ」


「ダマテンの鬼が西しゃーを切り、伊達メガネがそれをポン! ここは確実に上がって2位を取りに行く作戦か!」


「そうでしょうね。現在、田淵さんが2位で34700点。3位の正幸さんが7500点。最下位の詩織さんが4800点ですからね。1位の桃花ちゃんとの点差を考えれば無難に2位を取って優勝を狙っても良い場面でしょう」


「伊達メガネも一発の女王と同じ北を切れば、喰いタンのマサは、マンズの1を切る! これは最後も食いタン狙いなのか⁉」


「どうでしょう。正幸さんと詩織さんは、明らかに自分の麻雀が出来ていない感じがしますからね。別の思惑もあるかもしれません」


「と、おっしゃると?」


「もうあとがないですし。なりふり構わず、2位をとるために必要な3000点を稼ぎに行く作戦かもしれません」


「つまり、喰いタンのマサがタンヤオ以外の手を狙っている可能性があるって事ですね?」


「はい。おっしゃる通りです」


「一発の女王、ピンズの5をツモってピンズの1を切る!」


「おそらくは、チートイツ狙いになった時にピンズの赤5を待つためでしょうね」


「は? おまえさっきホンロウトウ狙いって言ってたよな⁉」


 ボクの発言によほど動揺したのか山口さんの素が出ていた。


 本当に口悪いなこのおっさん。


「まぁまぁ、まだ最終局は始まったばかりです。冷静になって実況をお願いします」


「ダマテンの鬼がマンズの5を切り、伊達メガネがピンズの2を切り、喰いタンのマサがピンズの9をきり一発の女王が白をツモってきた――‼」


「予想通りに白をツモってきましたね。ここから大きく盤面が動くのではないでしょうか」


「一発の女王、先ほど残したピンズの5を切り、ダマテンの鬼がドラの南を切る!」


「南場で南がドラですからね。下手に残しておいて痛い目見るくらいなら先に切ってしまうのもアリでしょう」


「伊達メガネがマンズの7を切り、喰いタンのマサがピンズの8を切り、一発の女王が南を引いてきた――‼」


「だから言ったじゃないですか。その可能性は、あるって」


「一発の女王ソウズの7を切る! これはマンズのホンイツ狙いか⁉」


「おそらくそんな感じの流れになるでしょうね」


「ダマテンの鬼がピンズの3を切り、伊達メガネがソウズの7を切り、喰いタンのマサがピンズの3を切り、一発の女王が中をツモってきた――‼」


「これで中を鳴く必要は、なくなりましたね」


「一発の女王! ソウズの5を切った! これはもう高い手のニオイがプンプンしてきました! ダマテンの鬼が西を切り、伊達メガネがマンズの5を切り、喰いタンのマサがソウズの6を切り、一発の女王がピンズの9をツモってきてツモ切り!」


「もうマンズ以外は、いらないって事でしょう」


「ダマテンの鬼がマンズの3を切ると、それを伊達メガネがチー! これで、自風の西とマンズの1,2,3が出来上がり! そしてピンズの1を切る! もう、テンパイしている可能性もあります!」


「そうですね。可能性としては西のみで逃げ切る算段なのでしょう」


「喰いタンのマサがソウズの1を切ると。一発の女王が、またしても白をツモってきた――‼」


「いやぁ、予想が当たると面白いものですね」


「一発の女王、ソウズの3を切る! ダマテンの鬼がソウズの4を切ると! それを伊達メガネがチー! ソウズの2,3,4が出来上がります! もうこれは間違いなくテンパイでしょう! そして発を切った――‼ それを一発の女王がポン‼ マンズの4を切ります! 宇崎さん! これ、役満もあるんじゃないですか⁉」


「まぁ、可能性はあるでしょうね。桃花ちゃんには、このまま強気で行ってほしいところです」


「ダマテンの鬼がとんを切ると、伊達メガネがピンズの6をツモ切り。喰いタンのマサがマンズの9を切った! それを一発の女王がポン‼ マンズの6を切ってテンパイです‼」


「これでもう、白が出ればダイサンゲンですね」


 特別に設けられた別室の応援席の声も凄いことになっていた。


 大きなモニター画面に向かって応援団が声を張り上げている!


「桃花ちゃん! 白じゃ! 白をツモるんじゃ――‼」


「桃花ちゃん頑張れ――‼」


「桃花! これ上がったら宇崎さんとの婚約の話! 進めてあげるから頑張りなさい!」


 一部、放送事故のようなバカげた発言も聞こえた気がしたが聞かなかったことにしよう。


「ダマテンの鬼がマンズの2を切り、伊達メガネがピンズの8をツモ切り、喰いタンのマサがソウズの9を切り、一発の女王がソウズの5をツモ切り」


「いいですね、強気に攻めてます。あとは間違って南か、白が出るか、ツモってくるか。それとも田淵さんに振り込むのか? 勝負の分れ目と言ったところでしょう」


「なんと! ダマテンの鬼が東を切ってリーチ!」


「ドラの南を切っているところからみても点数はそれほど高くないと思われますが、赤5を複数持っているかもしれませんからね。油断はできません」


「その東をじっくり眺め、一呼吸おいてから伊達メガネが、ピンズの9をツモ切り」


「おそらく、詩織さんが早々にピンズの3を切っているところから、ピンズの9は通ると判断したのでしょう。それに点差的に振り込んでも問題ないですしね」


「そして喰いタンのマサが、やや悩んでいる!」


「一発で振り込めば逆転負け確定ですし。現状も3位なら総合でも3位ですからね。それに田淵さんに振り込むわけにはいかないですし。この状況で確実に通る安全な牌を持っていればいいのですが」


「あ――‼ なんと喰いタンのマサから南がこぼれ出た――‼」


「ロンなのです!」


 桃花ちゃんの威勢のいい声が、ボクのしているヘッドホンにも聞こえてきた。


 だからここは解説者として分かりやすく一つずつ役を並べて口にする。


「発、中、南、トイトイ、ショウサンゲン、ホンロウトウ、ホンイツ、ドラ3。数え役満ですね」


「凄い! これは、凄い! 白が出れば役満だとは思っておりましたが、まさかドラの方でも数え役満あったのですね‼」


「はい、そうなんですよ。役満確定のテンパイでしたからね」


 桃花ちゃんの応援団も立ち上がって喜びを味わっている。


 特に両親なんて抱き合って喜んでいるし。


 中には、涙を流している人さえいる。


 親の役満48000点をプラスして桃花ちゃんの点数は102000点になり、正幸さんはマイナス40500点となり終了となった。


 結果、総合得点で桃花ちゃんは2位となり準優勝となったわけである。


 ボク的には、じゅうぶん頑張ったと思うのだが当人は、そう思っていなかったらしくテレビカメラに向かって、頭を下げていた。


「応援してくれた皆さん。負けちゃって、ごめんなさいなのです!」


 しかし、応援団の皆さんは最後の大活躍を見て満足だったらしく。


「えぇんじゃー! わしゃ、どんな桃花ちゃんでもついて行くぞー!」


「最後に良いもの見せてくれてありがと――!」


「桃花! 式場の予約してあげるから後で好きな日を教えてねー!」


 おおむね、高評価だったみたいだ。


 一部、誤解を招くような発言も交じっていたが聞かなかったことにしよう。


 それにしても、どたん場でのスタイル変更がこうもハマるとは思ってもみなかった。


 もしかしたら今日一日だけの奇跡かもしれないが。


 それでも、この後おこなわれるであろうお疲れ様会で、がんばったご褒美をあげるとしよう。


 きっと何か、子供らしいおねだりをしてくるだろうから。


 聞いてあげれば、大喜びしてくれるにちがいない。


 そして耳に入ってくる感想戦という名の、ののしりあい。


 詩織さんが、正幸さんに向かって口を開いたのが始まりだった。


「なんであそこで南なんて切ってるのよ⁉」


「しかたがないじゃろう! お前さんがリーチなんぞするもんだから、つい手元がくるったんじゃわい!」


「それを言うなら私こそ、しかたがなかったわよ! もう他に手がなかったんだから!」


「まぁまぁ、ふたりともそのくらいで。この窮地で自分のスタイル変更と言う大博打に出た者を今は称賛しましょうよ」


「そりゃ、あんたはいいわよね! 総合トップは変わらないんだから!」


「そうじゃ、そうじゃ! こっちなんぞ役満振り込んで最下位なんじゃぞ!」


「ですが、お二人ともそろってペースを乱されていたのは事実。時には素直に負けを認める事こそ次の勝利につながるというものですよ」


「うるさいわい! お前さんみたいな小僧なんぞが、わしらに説教するなんざ10年早いわい!」


「そうよね、まったくだわ。それに小僧と言えば、桃花ちゃん」


「ほえ? なんですか、詩織おばあ様?」


「突然鳴き出したのは、あの宇崎っていうぼうやの入れ知恵なのかい?」


「はい! そうなのです! 宇崎先生に説得されちゃったのです!」


「まったく、余計なことしてくれたわね。おかげで総合2位にはなれると思ってたのに3位になっちゃったじゃない」


「えと、ごめんなさいなのです……」


「いいのよ。謝らなくったって、悪いのはぜんぶ、あのぼうやなんだから。後でそっちのお疲れ様会にも顔出すから首洗って待ってなさいって伝えておいてちょうだい」


「えと、よくわからないですけど。伝えておくのです」


 伝えるも何も、丸聞こえなんだが……


 まぁ、いいだろう。


 どんな説教をされたとしてもボクの気持ちは揺るがない。


 これからも、桃花ちゃんに頼られる存在でありたいと思うだけなのだから。

 




 おしまい

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小学生雀士桃花 日々菜 夕 @nekoya2021

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