すごく可愛い
週明け、翔が大学の食堂にいるのを見つけた拓海が声をかけた。
「よお、翔。ここいいか?」
「いいよ」
翔はいつも通り。拓海は翔が日向を連れて帰ったことが気になっていたが、その話をして良いのかわからなかった。少しでも様子が違っていれば「どうしたんだ?」ぐらいは話せるものの‥‥
そもそも、いつも通りということは日向とは何もなかったのかも‥‥?
考えるのも面倒なので話してみた。
「まさか、日向くんを連れて帰るなんて思ってなかったよ。翔‥‥変わったな。あっ悪い意味じゃないからな? 随分積極的にいくんだなと思ってさ」
「そうだね、僕はこれまで‥‥誰でも簡単に手に入ると思ってたから。相手の気持ちなんて分からなかった。考えようともしなかった‥‥」
「ん? 日向くんと何かあったのか?」
「ひなくんを泣かせてしまったのさ」
「え? お前、今までの彼女も泣かせてきたじゃないか」
「それはそうだけど‥‥ひなくんの泣いた姿を見て、これまで自分が相手にしてきたことは‥‥間違っていたのかって思ったんだ」
「まぁ、それだけお前は日向くんの涙で心を動かされた、というわけか。いいんじゃないの? 日向くんのおかげで変われたということだろう? 俺から見ても、今までの彼女への態度は何というか‥‥適当だったもんな」
「本気じゃなかったからさ‥‥向こうから告白されると断るのも面倒だから、とりあえず付き合うけど‥‥付き合うのもだんだん面倒になってきて。相手のことを考えるなら、最初から断るべきだったんだ」
「徐々に好きになるパターンもあるからな。だけど羨ましいね、面倒くさがりながらも彼女が途切れなかったっていうこと自体が。翔のことは‥‥男の俺でも憧れるよ」
「拓海‥‥ありがとう」
翔がやっと笑った。だが少し悲しそうな笑顔にも見える。それでも彼が笑うと不思議と嬉しい気持ちになる拓海であった。
「日向くんとはこれからどうするんだ?」
「僕の気持ちは伝えたさ。もうあとは‥‥気長に待つ」
「それにしても‥‥父親と好みが一緒ってちょっと面白いな」
「フフ‥‥そうだね」
※※※
あれから翔がバーに来なくなった。
「翔くん今日も来てないわね、はぁ‥‥イケメンとせっかく知り合えたのに」と景子が言う。
「あんなことがあったからね‥‥」と亜里沙。
「だけど良かったわ、日向くんが怜さんと話ができて。結構深刻そうだったから‥‥こう見えて私だって心配していたのよ?」
「ありがとう、もう大丈夫だから」と日向が言う。
いつも通り、バーで怜と仲良さそうに話す日向を見て亜里沙も景子も一安心といったところだ。
「そういえば‥‥2階の改装って進んでるの?」と日向。
「もうすぐオープンの予定だ。少し席を準備してあとはギャラリーにしようかと。知り合いが趣味で絵を描いていてな」
「うわぁ‥‥お洒落な空間になりそう‥‥あの2階が‥‥怜さんと一緒に過ごした2階‥‥どうなるんだろう。楽しみ」
あっさりと2階で怜と過ごしていたことを口にする日向。景子がすかさず尋ねる。
「へぇ‥‥2階でどう過ごしていたの?」
「僕が待っている間眠ってしまって‥‥朝には怜さんが側にいて‥‥後は‥‥怜さんが僕の話をたくさん聞いてくれて‥‥僕に優しくしてくれて‥‥ソファでぎゅってされると安心して‥‥」
「おいひな、喋り過ぎだ‥‥」と怜が照れた表情をしている。
「あ‥‥つい‥‥言っちゃった」
「フフフ‥‥思った以上に楽しんでいるじゃないの。まぁ2人が2階に行くところは‥‥よく見させてもらってたけどね♪」
「ええっ? 景子さん見てたの? もう‥‥恥ずかしいよ‥‥亜里沙も見てたの?」
「あ、あたしは見てないわよ! 景子からは聞いてたけど‥‥」と亜里沙。
景子が鋭いことは分かっていたが、まさか見られていたとは。
「景子さんにはかなわないや‥‥」
それもあるが、ひな‥‥お前が正直すぎるんだよ、可愛いんだから‥‥と怜が思っていた。
家に戻った日向と怜。
「ひな‥‥さっきのお前‥‥」
「あ‥‥ごめんなさい。景子さんの前であんなこと喋っちゃって‥‥」
「‥‥可愛いかった」
「え?」
「素直に、嬉しそうに話すひなが‥‥すごく可愛いかった」
「れ、怜さん‥‥」
これまで可愛いと言われることは多かった。最近は翔くんにも言われた。でも怜さんに言われる『可愛い』は特別に感じる。しかも『すごく可愛い』だなんて。
胸がきゅうっと感じて鼓動も早くなって、顔だって‥‥熱くなってしまうんだから。そしてそう言われて怜さんに見つめられるともう‥‥意識が飛んじゃいそう‥‥
「ひな‥‥ソファでぎゅっとされると安心するんだって?」
「あ‥‥」
そのままソファに連れて行かれ、怜にぎゅっとされた日向。
「怜さんのこの感じが好き‥‥」
「ん?」
「ねぇ‥‥もっと‥‥お願い‥‥」
日向の大きな瞳が怜を見つめる。思わず怜は日向にキスをした。
「やだ‥‥」
「嫌なのか?」
「僕からするんだからっ‥‥」
日向はそう言って怜の唇を塞ぐ。今年の目標、「自分から怜にこうする」を真面目に達成しようとしているのが‥‥とても愛おしく感じる怜である。
「そういうところが好きだよ、ひな」
好きと言われてまた真っ赤になる日向である。
「今日はいつもより照れ屋さんだな、ひな‥‥」
「だって‥‥怜さんが‥‥怜さんが‥‥僕をこうしたんだから‥‥」
「いつもと何か違ったか?」
「分からないけど‥‥僕はもっと怜さんが欲しい‥‥」
「やっぱり積極的になったな、ひな‥‥そんなお前を見るともう‥‥」
この後、いつも以上にお互いを求め合ったのは言うまでもない。翌朝は2人揃って寝坊してしまったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます