クリスマスと色々

亜里沙には別の急展開が待っていた。

「俺と‥‥付き合ってくれませんか?」

いつも亜里沙を気にかけてくれるサークルの先輩から告白されたのだった。

「就職先が決まったら、真っ先に君に伝えようと思ってた」

何ということ‥‥ずっと一緒にいたけれど日向ばかり見ていたから先輩のことを意識したことなんてなかった。


「あの‥‥少し心の整理ができていなくて」

「そうだよね、ごめん。待ってるから」

翌日、亜里沙がボーッとしているとそこに日向がやって来た。

「亜里沙、次の試験はここまでが範囲だっけ?」

「‥‥」

「亜里沙?」

「あっ 日向‥‥」

「どうしたの?」

「‥‥えーと‥‥何だっけ」

「次の試験の話」

「あぁそれは確か‥‥」


自分で心の整理と言っておきながら、何をどう整理したら良いのかわからない‥‥

何も考えられない‥‥どうしよ‥‥

「ねぇ日向」

「ん?」

「日向は怜さんから告白されたの?」

亜里沙自身も、何故日向にこんなことを聞いたのか分からなかったが、気づいたら勝手に口がそう言っていた。そしてその数秒後に、自分で言ったことが恥ずかしくなってきた。

「あ‥‥ごめん日向。いきなりこんなこと聞いて」


日向が真っ赤になって俯く。亜里沙が思った通りの反応だ。

「えーと‥‥気づいたら‥‥怜さんが‥‥」

怜に「抱き締めていいか?」と聞かれたことを思い出したら、急に身体中が温かくなってきて‥‥うまく喋ることが出来ない。

「日向ったら‥‥怜さんに愛されてるのね。あたしも本当に愛されるのかな‥‥」

「亜里沙だったら大丈夫だよ、だって‥‥こんな僕にでも優しく話しかけてくれたでしょ? 僕は人と話すのがそこまで得意じゃないから‥‥亜里沙が話しに来てくれて嬉しかった」

「日向‥‥ありがとう。日向に言われたらちょっと自信出てきたわ」



「良かったじゃないの亜里沙」と景子が電話で話す。

「うん‥‥急すぎて心が追いついていない」

「日向くんばかり見ていた上に、尾行していたからね」

「尾行しろって言ったの景子じゃないの」

「そんなこともあったわね‥‥まぁ正直に言いなさいよ。先輩のこと嫌いではないんでしょう? 友達から、とかゆっくりお付き合いさせてください、とかでいいんじゃない?」


「そうね‥‥」

「聞いてる限り良い人そうね、あまり待たせると他の子に取られるかもしれないわよ」

「‥‥景子みたいな人に?」

「ちょっと! 失礼ね。まぁ亜里沙の彼氏は取らないから」

「うん、それが普通よ」

「素敵じゃない、クリスマス前よ? クリスマス、お正月、バレンタインとイベント盛り沢山ね♡」

「ハハハ‥‥」


結局お友達から少しずつ、といった形で先輩からの告白を受け入れることにした亜里沙。

「一歩踏み出せたのかな‥‥」亜里沙は少し緊張しながら、初めてのデートの服を選んでいた。



12月に入り、辺りはクリスマス一色といった雰囲気である。

「クリスマス限定カクテルあり」とのことで日向と亜里沙、景子は怜のバーへ向かった。

カウンターに3人が座ると、後から亜里沙の先輩が来てくれて、亜里沙の隣に座る。

「あ! 先輩‥‥こんばんは」と日向。

「日向くんもここ知ってるんだ、俺今日初めてで」


亜里沙と仲良さそうに話す先輩。すぐに怜は2人の関係に気づいた。

「こちらがクリスマスメニューだ」と怜がメニューを見せてくれる。

「あら、ホットワインもあるの? 飲んでみたいわ」と景子。

「サンタの赤ね、こっちのメープル風味のものはトナカイね」と亜里沙。

日向はメニューを見て気づく。可愛いクリスマスツリーの飾りのついた抹茶オレがある。怜さん、僕が抹茶好きなの知ってて‥‥?

怜の顔を見ると彼が頷いている。


ウェイターが話す。

「このツリー付きの抹茶オレは今年からになる新メニューです」

日向は嬉しくなって、その抹茶オレを注文した。



「来てくれて嬉しいよ、どうぞごゆっくり」と怜は亜里沙の先輩に声をかけた。

「こんな場所に隠れ家的なバーがあるなんて、知らなかったよ亜里沙。ありがとう」

亜里沙が嬉しそうにしている。

「今度は2人で来たいな」と先輩が言い、

「是非」と亜里沙が応える。

「亜里沙を泣かせたら先輩とはいえ許さないわよ、お幸せに♪」と景子。


日向はその会話を聞いてようやく気付いたようで、

「え? 亜里沙と先輩付き合ってるの?」と言った。

ああ‥‥この鈍感なところ、可愛い‥‥と怜が思う。

「まだ付き合ったばかりだけどね」と亜里沙。

「そうなんだぁ‥‥」日向も嬉しそうにしている。


そしてツリーの飾りのついた抹茶オレを飲んだ日向。

「怜さん、美味しい! 今までの抹茶の中で一番美味しい♪」

「え、日向くん‥‥うちのサークルで結構いい場所でのお茶会もあったけど‥‥それかなり美味しいの?」と先輩が尋ねる。

「あ‥‥これはその‥‥」日向が恥ずかしそうにしている。

「日向くんは怜さんが作った飲み物だったら何でも美味しいのよね♪ ここはもともと日向くんの行きつけだったのよ。日向くんが私と亜里沙を連れて来てくれたんです」と景子がフォローする。


「そうなんだ、亜里沙と日向くん大体一緒にいるから‥‥最初は2人がそういう仲なのかと思ってたんだよ」

「それは違いますよ、日向くんも恋人いるもんね? 一緒に住んでるんだっけ? フフ‥‥」と景子がニヤっと笑う。

「ええ? 何で一緒に住んでるって知ってるの? あ‥‥そっか亜里沙に言ったんだった」ノンアルコールなのに日向の頬はやっぱり赤く染まっていく。

景子ありがとう、と亜里沙は目で合図を送った。日向と何もないとはいえ、彼が気になるので一緒にいましたなんて、先輩に言ったらいけない。



ひな‥‥さっきから‥‥可愛い‥‥可愛い‥‥美味しそうに抹茶オレを飲む所も、慌てて真っ赤になる所も全部可愛い‥‥と怜は思いながら(そしてニヤニヤするのを必死で抑えながら)、おつまみやスイーツの準備をしている。もう一緒に住んでいることまで知られているという事は‥‥もしかしてここに座っている全員、俺達のこと知っているのか?

そう思った怜は自分まで顔が赤くなりそうであったが、深呼吸して接客を続けた。

そして、ひながじっとこちらを見てくる。

早く俺とマンションに帰りたそうな顔だ。甘えん坊だな‥‥フフ‥‥


バーでの話も弾み、亜里沙と先輩、そして景子が先に帰って行った。

「ひな‥‥これ」

そう言って怜が出したのはクリスマスケーキだった。

「えっ‥‥すごい。可愛いケーキだね」

ショートケーキの上にお菓子のサンタが飾られている。

「クリスマスのサービスだ」

「ありがとう怜さん! ねぇ一緒に食べる?」

「ん?」

「これ、どう見ても2人用だよね。怜さん」

「フフ‥‥ひなが食べ切れないなら一緒に」


客もほぼいないため怜は日向の隣に座って、一緒にケーキを食べた。

「そういえばクリスマスの思い出って何もないや。今日が初めてかな? 怜さんと一緒に怜さんのケーキ食べて‥‥」

「俺もそこまでないな」

「ありがとう、怜さんのおかげ」

「こちらこそありがとな、ひな」


「それでさぁ‥‥いつ帰るの?」

日向にそう言われ、おい急に子どもらしくなるなと思う怜である。可愛いが。

「そうだな‥‥」

気づいたら客がいない。そして遅い時間になってきた。

「今日は閉めるか」

怜はそう言って片付けをしに行った。


自宅に到着した日向はすでに眠そうであった。

「遅くまで付き合わせてしまったな」

「大丈夫‥‥怜さんと一緒なら‥‥けど眠い」

「そうか」と言いながら怜は日向の頬にキスをした。

「うわぁっ」と日向が声をあげる。

「驚きすぎだ」と怜。

「だって‥‥あ、目が覚めちゃった」

まるでお目覚めのキスのようである。


「じゃあどうする? ひな」

「こうする‥‥!」

日向は怜にぴょんと抱きついた。

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