第9話 答え合わせと口裏合わせ
「……で、その挑発にまんまと釣られて俺を放置して戦いに行ったと。」
「……はい。」
「俺言ったよな?挑発してくるから気をつけなって。」
「返す言葉もございません……。」
とりあえず待ち合わせに来ないで勝手に戦った理由はわかった。
いやまぁ俺のためにそこまで怒ってくれるのは嬉しいよ?
嬉しいけどさぁ……。
「流石にやりすぎだったろアレは。下手したら怪我ですまなかったぞ。特に最後の一撃とかかなり危なかったって。」
「うん……本当にどうかしてた。というかそうだ!最後って一体何が……?」
「ん?あぁあの爆発?あれは俺がやった。」
「えぇ!?ど、どうやって!?」
「渡しておいた服あっただろ。あれにちょっとした細工をしておいた。」
物に対して複数の属性の魔法を合わせることで爆発を起こす状態を付与し、特定条件で起爆するようにする技術。
本来は学園を卒業後に暗殺者になるルートがあり、そこで働く中で得られる知識である。
もちろん裏稼業で使われる技術の為、そこらの学生や闘技場内の審判などには知るよしもない方法である。
ちなみに今回の起動条件は完全に俺の手動だ。
思ったよりダイヤと客席の距離が遠くて起動できるか冷や冷やしたが、何とかなってよかった。
「まぁ学園内の一部の教師陣にはバレそうだから、本来は使う予定はなかったものだけど。備えあれば憂いなしだな。」
「ひっどい!?そんな危険な服を黙って着させてたの!?」
「だって言ってたら着ないだろ?爆発する服とか。」
「そりゃそうだよ!危ないじゃん!」
「俺にはお前のステータスが見えてるんだぞ?大事にならないよう威力も調整してある。」
ダイヤは引き気味の表情でこちらを見てくる。
まぁ友達から貰ったものが実は爆発物でしたってなればそう見られても仕方ないか。
「まぁ気分悪くなるよな。ごめん。」
「まぁ……僕もクレイの言ってたこと全然守らなかったしおあいこってことにしようか。」
ダイヤが俺に向けて手を差し出し、俺はそれを力強く握る。
仲直りの握手というやつだ。
まぁ一番解決した方が良さそうな問題は何も解決していないわけだが。
そんなことを考えていると誰かが病室の扉をノックした。
「お?来たかな。」
「え?誰が来たの?」
「俺なんかよりも大きな蟠りができた相手がいるだろ。どうぞ入ってください。」
「……失礼します。」
扉に向かって声をかけると、申し訳なさそうな顔をしたクリスタが部屋に入ってきた。
チラリとダイヤの方に目をやると、鋭い目で彼女を睨みつけている。
先ほどの戦闘中に比べればまだマシだが……。
「あんま女の子にそんな目を向けるもんじゃないぞ。」
「だってコイツ!クレイの事を!」
「いいから。クリスタ嬢も怯えてないでこちらはどうぞ。」
クリスタを読んだのは俺の判断である。
向こうからしたら急にダイヤが爆発したように見えただろうし諸々説明した方が良いだろうという判断だ。
本来はこちらからクリスタの病室へ向かい説明しようと思ったが、取り巻きが大勢いてまともに会話もできそうになかったのと向こうもダイヤと話したいことがあるとのことなのでこちらにきてもらうことにした。
現在取り巻きは執事によって部屋に来れないようにしているらしい。
「それじゃあ今回の件についてパパっと説明させてもらおうか。」
「それじゃあ最後の爆発は君が仕組んだものだったのね……。」
「そういう事。悪いね、真剣勝負に水をさしちゃって。」
「いいえ、あのままだったら私の身が危なかったし。寧ろ感謝しなきゃいけないわね。ありがとう。」
あら、案外すんなりと納得してくれた。
ゲーム中のクリスタは貴族ゆえにプライドが高かったはず。
そのため勝負に介入したことに対して小言の一つや二つ言ってくるかもと覚悟していたのだが。
「いえ、何より謝らなければいけないのは私の方。ダイヤード君、過剰に君を挑発してしまったこと、そして君の友人を悪く言ったことを謝罪させて欲しいの。本当に申し訳ない事をしたわ。」
「……いや、それは君の戦法だったわけだし。ただこれからは挑発の仕方は考えた方がいいと思うな。」
「ええ、もっと気をつけるわ。」
とりあえずダイヤもクリスタの謝罪を受け止めたようだ。
二人はクラスが同じなわけだし、険悪な状態だと学園生活に影響がでそうだったから実に良かった。
「よし、それじゃあ今回の決闘の結末について口裏合わせしようか。」
「え?何で?」
「考えてもみろよ。明らかに有利そうだったダイヤがとどめを刺そうとした瞬間、謎の爆発が起こって両者戦闘不能なんてオチだぞ?多分見てた奴ら全員何事か理解できず混乱してる。この状態で放置すると……。」
「様々な憶測が飛び交いそうね。」
その通りである。
結局どちらの方が強いのかなどの結果もついておらず半端な幕引き。
不完全燃焼なギャラリーがどちらの方が強いかなどで言い争ったり、最悪の場合は再度決闘をする流れになりかねない。
「というわけで今回の決闘は、クリスタ嬢の最後の一撃は実はブラフで、ダイヤからとどめを刺されそうなところに『魔力蓄積』によるカウンター攻撃をした。それとダイヤの攻撃がぶつかりあり爆発、両者吹っ飛び戦闘不能となったとしよう。」
これなら両者が全力でぶつかり合ったうえで引き分けになった感を出すことができるのではないだろうか。
「もちろん二人が納得してくれるかが大前提だけどね。」
「僕はそれで全然いいよ。」
「私としてもその方が助かるわ。正直今の実力でこれ以上彼に挑みたいとは思えないもの。それに……こちらの事情なのだけれど敗北するわけにはいかなかったから。」
詳しいことは知らないが何かしら向こうも大変な事情があるのだろう。
とりあえずこの話を飲んでもらえて助かった。
「よし、クリスタ嬢の取り巻きを押さえてる執事さんにも悪いしこれで解散しようぜ。クリスタ嬢は取り巻きとかに何気なく今の話をして周囲に広まるよう促してくれると助かる。」
「わかったわ。改めて色々とありがとう。」
クリスタが病室を後にする。
まさか入学して1週間も経たずにこんな事件に巻き込まれるとは。
改めてこれからの転生ライフがどうなっていくのか不安になるクレイなのだった。
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