第4話 ルート選択

 場所は聖ジュエル学園1-Eクラス、時は昼休み。

 俺は昼食を何処で食べようかなどをぼーっと考えていた。

 このクラスは基本的に皆物静かでとても良い。

 ABCは戦闘を前提とした生徒が集まっているためか血気盛んだったり言い合いだったりで喧しかったし、DはDでガリ勉たちが休みなく勉強をしていて落ち着かない。

 こう考えてみるととても平和で良いクラスだ。

 まぁ他クラスからの扱いが嫌だからか半数以上の生徒が登校していない、というかもう来ることもなさそうではあるが。

 というかあれか、他のクラスより人が少ないから静かなだけか。

 まぁ個人的に理由はどうでもよいのだが。


「おーいクレイ!ご飯行こう!」


 なんて考えていたら平和な時間が終了した。

 教室内を包む静寂をぶち壊して友人であるダイヤが俺の元へ駆け寄ってくる。

 途端にざわつく教室。

 そりゃそうだ。

 学年トップが底辺クラスの一人と親し気なのだ。

 嫌でも興味が引かれるだろう。

……とりあえず混乱を鎮めるためにも早く教室を出るか。






「いやーまさか食堂があんなに混んでるなんてねぇ。」


「そうだな。」


 そんなことより俺は道中の周りからの視線がきつかった……。

 特に食堂にいる大量の人間から注目を浴びるのは流石にビビる。

 なんとか購買でパンを買って即脱出したが。

 やっぱダイヤと一緒にいるとめちゃくちゃ目立つな。


(今度から自分で用意しておくか。)


 正直もう行きたくない。

 どうせ席が空くことはなさそうだし。

 そんなわけで今俺たちは校舎裏の桜の下で昼食を取り始めた。

 告白イベントの下で男二人なのは少しあれな気がしなくもないけど……。


「あ、そういやダイヤに言っておくべきことがあったんだ。」


「ん?何?」


 一応俺はダイヤの親友兼友人兼サポートキャラだ。

 俺が知っているこの世界の情報について可能な限り説明することにした。

 まぁダイヤの師匠さんからも多少話を聞いていたらしく、ほぼ補足説明のようになってしまったが。


「で、お前はこれからどんなルートに進むんだ?」


「ルート?」


「あ……まぁどんなことを目標にして生きていくんだ?」


 そういやこいつ全然ゲームしたことないんだったな。

 ルート選択の話をしても伝わらないか。


「うーん……目標かぁ。」


 どうにもお悩みのご様子。

 そこまで難しく考えなくてもいいと思うんだが……。


「例えば……誰かと付き合いたいとかあるか?このゲーム恋愛要素もガッツリあるからさ。」


「あーそれは今のところないかな。」


 あら即答。

 せっかくの青春を謳歌する気がないのだろうか?

 いやまぁ青春は恋愛が全てとは言わないが。


「……正直さ、前世の彼女のこと忘れられないんだよね。」


 ダイヤの表情が曇っていく。


「もう転生して長いってのに未練がましいって思われるかもしれないけどさ……大好きだったんだ。いや、今でも大好きなんだよ。」


 ダイヤは前世について寂しそうな声で語り始めた。

 元々彼女とは幼馴染であったこと、高校に入ってやっと結ばれたこと、そんな彼女がトラックに轢かれそうなときに彼女を突き飛ばして代わりに亡くなったこと。

 なんでも彼女のピンチに勝手に身体が動いたそうだ。

 なんというか……「すごく主人公っぽいな」という気持ちと「めちゃくちゃ愛してるじゃん」という感動がこみ上げてくる。


「だからその……恋愛は今は無理だな。」


「なるほどねぇ。」


「なんかごめんな?こんな話して。」


 まぁ確かに昼食食うテンションではなくなってしまったが。


「別にいいよ。未練がましいとも思わないしな。それだけ本気で好きだっただけだろ。いっそ誇っていいだろ。」


 彼女を命掛けで助けるとかそんなのめちゃくちゃかっこいいじゃん。

 どうやら俺はとても良い友人を持てたようだ。


「それにぶっちゃけこの作品のヒロインは癖が強い奴も多いからな。正直英断かもしれん。」


「ん?そうなの?」


「例えばそうだな……お前この世界にパールって幼馴染がいるだろ?」


「あ、あぁ……正直あんまり得意じゃないけどね。」


「そいつと恋愛するとほぼ確定で浮気と不倫をされる。どう頑張ってもな。」


「えぇ!?」


 ダイヤのはパールバティ・クラウディアという一個下の幼馴染ヒロインがいる。

 このキャラはヒロインの中で最も彼女にしやすいキャラだ。

 初期から好感度が高く相当のことがないと告白を断られることはない。

 しかしそれがトラップだった。

 付き合った後、こいつは何かと理由をつけて別の男にホイホイついていく。

 かまい続けると「しつこい男は嫌いだ」と言い、放置すると「寂しかったから」と言う。

 一応この後彼女に再度アプローチをかければ元の恋人関係に戻れるのだが、その後も定期的にフラフラと別の男の所へ行くのだ。

 学園を卒業し入籍してもそれは変わらない。

しかも腹立つことに主人公と付き合わない場合は特に男癖が悪い描写はない。

 最初はいわゆる試し行為というやつかとも思ったがそうでもないらしく、本気で間男側に傾いてるし……。

 ゲームプレイ中、コイツの攻略をするのは本当に苦痛だった。

 何がうれしくてこんな女の好感度を上げなければならんのだ。

 NTR、ダメ絶対。


「あの娘そんな感じなんだ……。」


「まぁ他にもいろんな問題に巻き込まれるリスクがあったからさ。もしも恋愛したい場合は助言して置きたくて。」


「クレイ……君って本当にいい奴なんだね!」


「そうだぞ。大事にしてくれな。」


 そしてできればただの好感度確認マシーンとしてではなく末永く仲良くしてくれ。

 そういうの寂しいし。

 あ……そういえば大切なことを忘れていた。


「俺も聞きたいことがあるんだけどいい?」


「ん?いいけど……クレイが知らないで僕が知ってることなんてあるの?」


 大いにあると思うが……ゲーム内で語られない話とかは知る由もないし。

 それにこれも今の俺には知りえないことだ。


「固有スキルってどうやって使うの……?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る