百戦錬磨の最強主人公……の親友になりました

望餅

第1話 ここは知ってる。私はだれ?

 意識が覚醒した時には俺はそこにいた。

 目の前には絢爛豪華な見た目の学園があり、巨大な校門が俺を誘うように開いている。

 校門をくぐると鮮やかな桃色が舞い散っていた。

 桜が咲いている……ということは春なのだろうか。


「いや……なんかこれ見たことあるな。」


 そうだ俺はこの景色を知っている、というか何度も何度も見せられている。

 これは俺が狂ったようにプレイしていた超大作、恋愛も魔法も特殊スキルもバトルもなんでもありの異世界版人生ゲーム『ラブ・アライブ』というゲームの入学式イベントで見た景色……というかスチルだ。

 先ほども言った通り狂ったようにプレイしていたゲームだ、見間違えるはずがない。

 確か校舎裏にも桜がひっそりと咲いていてそこで告白イベントが……。


(ん?)


 何か違和感を感じた。

 瞳を閉じで必死に思考を巡らせる。

 そんなはずがないと思うがこの世界がゲームの世界であるのは理解した。

 そして自分は本来この世界の住人であるはずがない、ゲームを遊ぶプレイヤーであったことも。

しかしいくら思い出そうとしてもわからないことがある。


「……俺って誰だったっけ?」


 俺にはこの世界についての記憶以外何も残っていなかった。






「これは……どういうことなんだろう。」


 俺は今、校舎裏で一人で頭を抱えている。

 というのも理解不能な状況で慌てふためく俺を見る周りの視線が耐えられず、人がほとんど来ないという前知識もあったためここに逃げ込んだのだ。


「でも……多分ガチなんだろうなぁ。」


 校舎裏には表にあったような華々しさはないものの、どこか力強さを感じる桜が咲いていた。

 そして桜の木にはナイフでハートマークが刻まれている。

 なんでもこのハートマークは過去にここで告白をした者が刻んだものだとかなんとか。

 そんな噂から色々と話が広がって「学園のどこかにあるハートマークが刻まれた桜の下で告白すれば結ばれる」となったらしい。


 まぁそんな噂は一旦置いておくとして。

桜があるだけでなくハートマークまで一致しているとなると、この世界が『ラブ・アライブ』であることは間違いなさそうだ。


 静かな空間で改めて落ち着きながら考える。

 なんとなくだが自分が今までいたはずの世界の知識はあるのだ。

 織田信長は本能寺の変で明智光秀にやられた、日本は47都道府県、円周率は3.1415926535……までしか知らないけど多分あってるだろう。

 ただ自分がどこでいつそれを学んだのかなどがきれいさっぱり頭から抜け落ちている。

 どこで生まれ、誰と過ごし、何をしてきたのか。

 このゲームをプレイしていた時の記憶以外が何もかも思い出せない。

 過去の自分自身についてわかることはなにもなかった。


「でも俺、多分クレイドル……だよな。」


 クレイドル・レイン。

 主人公の親友でありサポートキャラに位置する存在だ。

 しかし段々とストーリーで関わることがなくなっていき、気が付いた時にはヒロインの好感度を確認するポジションになってしまった男でもある。


「序盤のチュートリアルとかではよく出番あったし戦闘の際のパーティ編成にも組み込まれてたんだけどなぁ。」


 お世辞にも強いとは言えず、画面映えするような見た目でもキャラ立ちでもなかったからだろうか。

 なんとも言えない微妙な立場に転生してしまったようだ。

 そんなことを考えていると。


「おーい!クレーイ?どこー?」


 俺のことを探しているのだろうか。

声が聞こえたほうにチラリと視線を向けると……。


「お!こんなとこにいたんだ。そろそろ入学式始まるよ?」


 俺に駆け寄ってくる男が一人。

 美しい金髪に宝石のように美しい空色の瞳、そして誰もが振り返るような顔の良さと関わると分かる性格の良さ。

 初めましてのはずだがよく知っている、なんならゲーム中に何千何万回と見てきた顔だ。


「……ああ、悪いな、ダイヤ。先行っててくれ。」


「え?あぁ……早く来なよ?」


 少し不思議そうにしながらも、そういって彼は走り去っていった。

 いや、そんなことよりも重要なことがある。

 彼を「ダイヤ」と呼んだが否定されなかった。

 否定されなかったということは……彼の名前はこれであっているということ。


 間違いなく彼はダイヤード・アンドレイ。

 このゲームの主人公、つまるところ俺の親友である。

 貴族の家庭に生まれ様々な教育を好きなように受けることができる、まぁ恵まれた人間だ。

 ちなみにゲーム序盤で受けた教育や発生するイベントの内容によって入学時のステータスが変化するようになっている。

 そのため大体のプレイヤーはここで満足なステータスが出るまでリセマラしまくっていた。


(ここで主人公がどのように成長していくかの大部分が決まるからなぁ。確か初めてプレイした時は適当にやったせいで何もうまくいかず中退させられたっけな。)


 ぶっちゃけかなりシビアなゲームなのだ。

今回の主人公君はいったいどんなステータスなのだろう。


「……っと。そんなこと考えてる場合じゃなかったな。」


 入学式が始まることをすっかり忘れていた。

 今自分が何をすべきなのかも分からないが、とりあえず向かうか。

 俺は駆け足で入学式の会場へ向かった。




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