第2話 主人公様はかなり優秀な様子

 校舎裏から急いで会場へ向かい、ギリギリ入学式に間に合った。

 会場内ではクラスごとに分かれて並ばされている。


(クレイはEクラスだから……あそこか。)


 この学園……聖ジェイル学園では入学試験の結果から導き出された各自の性能によってクラス分けが行われている。

 試験内容は筆記試験と戦闘実技、そして面接だ。

 戦闘実技で好成績を残し、特に魔法の才が秀でていたものはBクラス。

 それ以外の武闘などの面で秀でていたものはCクラスになる。

 ちなみにBクラスとCクラスはバチクソに仲が悪い。

 BクラスはCクラスを「野蛮で脳筋な猿ども」と、CクラスはBクラスを「性悪で陰湿な輩」と互いに罵り合っていた。


 戦闘実技で活躍はできずとも筆記試験で好成績を残せば、学問や研究に秀でたDクラスに入れる。

 このクラスに入れれば将来は安泰だ。

 なんならあまり戦闘と関わらない分、BやCより平和な人生を過ごせるだろう。


 そしてこれらの要素全てで好成績を残せば、特待生軍団のAクラスになれるのだ。

 超優秀なエリート集団でありその学年をまとめるリーダー的存在となる。

 正直Aクラスに入るだけでも結構な難易度であり、大半のプレイヤーは途中でリセマラをやめて妥協でBCDを狙いに行く。


 ちなみに俺のいるEクラスは特徴無し、何一つ秀でていたわけではないが面接でギリ合格を拾ったものたちのクラス。

 言ってしまえば落ちこぼれクラスである。

 基本的にはすべてのクラスから下に見られてしまう。

 なんなら現在進行形でEクラスの列へ足を進める俺を蔑むような目で見つめたり、ヒソヒソクスクス笑ったりしてるやつらがちらほらだ。

 このような扱いが嫌だからEに割り振られた瞬間に別の学園に乗り換える生徒も少なくない。


(ゲームプレイ中は気にならなかったけど、実際にそんな扱い受けると普通に腹立つなぁ……。)


 学園側もこのような現状であることに頼むから危機感を持っていてほしい。

 そんなことを考えていると式が始まり、クソ長い校長トークが始まった。

 まぁ俺が知っている入学式そのものだ。

 暇だなと窓を見つめてぼーっとする。

 俺はこれからうまくやっていけるのだろうが。

いや、そもそも何をやっていくべきなのだろうか。


「続きまして、入学生代表のあいさつ。」


 悩んでる俺を差し置いて、司会は無機質な声で粛々と式を進めている。

 なんだか「お前の悩みなんか知らん」と置いていかれているような気分だ。

 まぁもちろん司会の人は悪くないんだけれど。


「入学生代表のダイヤード・アンドレイくん。前へ。」


「はい!」


……はい?


 元気な挨拶が聞こえた方へ目を向ける。

 そこには主人公であるダイヤがハキハキとした声で代表挨拶を行っていた。

 確かゲーム内だとヒロイン候補の一人が代表挨拶してたはずなんだが?


 いや……思い出した。

 確か入学式イベントの新入生代表はAクラスでもっとも優秀な生徒が選ばれるため、主人公が超好成績を叩き出せば代表になれるって攻略サイトで見た気がする。

 だが、ただでさえAクラスに入るのが難しいというのになおかつその中でトップになるのは無理ゲーである。

 そのためこの情報はあくまで噂レベル、なんなら信じていない人が大半だった。

 恐らく俺の親友ダイヤはそれをやってのけたということだろう。


「マジかぁ……。」


 驚きのあまり声が漏れた。

 一体どのような育成をすればああなれるのだろう。

 というかアイツも転生者なのでは?

 いや転生者だったとしても並のプレイヤーではたどり着けないような偉業なのだが。






「クレーイ!早く寮に行こー!」


 式が終わってすぐにダイヤが駆け寄ってきた。

 Aクラス代表がEクラスのザコ相手に一体何用なのだと周りからの視線が集まる。


「分かったからもう少し静かにしてくれ……。」


 ダイヤとクライは同じ寮で生活することになっている。

 そしてゲーム内では寮でクレイに話しかけることでヒロインたちの好感度を確認することができるのだ。

 というわけで現在俺たちは寮へ向かっている途中である。

 まぁ親友と一緒に帰路につくのは普通のことなのだが……。


「…………。」


 なんだかすごい見られてる。

 まるでこちらに疑いの目を向けるような鋭い視線だ。


(もしかして中身が別人なことがばれてたり?)


 俺からすれば彼は初めましてなのだが、本来クレイとダイヤは幼いころから面識があるのだ。

 何かしらの違和感を感じていてもおかしくない。

 とはいえ正直に「俺の中身別人です」なんて言うわけにもいかない。

 そんなわけ分からん発言した暁には二人の関係が崩壊するか……良くて変なものを見るような目で見られるだろう。

 とりあえず自分から話しかけるのはボロがでそうで怖いのでやめておくのが得策か。

 適当に鼻歌でもしてよう。

 その時頭の中で真っ先に思いついたのはやはりこのゲームのこと。

 このゲームのOP画面で流れていた曲を何気なく鼻歌する。


「~♪」


「え!?」


 後ろから何かに驚いたような声が聞こえ、振り返った。

 振り返った先ではダイヤが目を丸くして、信じられないものを見るような目でこちらを見つめている。


「え……どうしたん?」


 もしかしてこの曲って鼻歌したらまずかったりする?

 それともこの世界には鼻歌禁止法でもあるのか?

 そんなわけのわからないことを考えていると急にダイヤが俺に近づいて俺の手を握った。


「なぁ……クレイ。」


 イケメンのシリアス顔がずいっと近づいてきた。

 あらやだ、俺にそっちの気はないが少しドキッとする。


「な……何?」


 もしかしてバレたのか?一体なぜ?この場合俺はどうなるんだ?


「もしかしてだけどさ……。」


 最悪ブチギレられてボコボコにされたりもするのだろうか。

 まぁ俺に悪気はないとはいえ親友の中身が奪われているわけだし……。

 しかも相手は超優秀なAクラスのトップ。

 逃げることすらままならないのでは?

 くそ、いったいどうすれば!?


「転生者だったりしない?」


「……はえ?」





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