第26話 伸子への尋問

 広間に呼ばれた伸子は後ろめたさから誰とも目を合わせなかった。

「伸子、翠がいないんだが知らないか?」

 大然がわざとらしく翠の行方を聞いた。

「えっ、す、翠?私が翠の居所など知るはずないわ」

「そうか、少し前から姿が見当たらないんだ」

「翠のことだから、どこかでさぼっているん

じゃないかしら」

「お前もどこかへ出かけていたのか?」

「いえ、どこにも出かけてなど…」

 話す声が小さくなり、目が泳ぎはじめた伸子を見て大然が大きな声を出した。

「本当に出かけて居ないのだな?」

「…は、はい」

「知らないそうだ、颯」

「そうですか…。誰かいるか?月を呼んでくれ」

「…月を呼んでどうするの…?」

 しばらくして現れた月が伸子に向ける怒りの表情を見て大然は驚いた。月は普段から冷静で表情を変えない。昔は颯と翠と月と遊んでいると楽しそうによく笑う子だった。今は表情を見ても何を考えているのかわからない。その月が初めて見せる顔だった。颯が月に問う。

「月、翠は?」

「まだ目を覚ましません」

「そうか…」

「翠…が戻ってきたの?」

 震える声で聞いた伸子の質問に誰も答えなかった。

「翠は黒い面の女といた」

「うっ…」

「誰かが翠を女のところにつれてきたんだ」

「…」

「月は翠がいないことに気付いてすぐに追いかけた。翠の気配を感じ、いる場所を見つけた時、誰か見なかったか月?」

「な、なんでそんなこと…」

「見ました!」

「誰をだ?」

「奥様です」

 躊躇なく答える月の言葉と一緒に皆が伸子を見た。

「まさか、そんな…そんなことあるわけないじゃない」

 あきらかに伸子が動揺すると大然が聞く。

「月の言うことは本当か?」

「違う、私は…少し外に出てただけで…」

「なら警護は誰がついていた」

「…いえ、誰も…」

「なら証人はいないな」

「…それはそうだけど…そ、そう滝がいるわ。出かけるとき滝が見送ってくれたのよ」

 大然は伸子の嘘にあきれていた。

「なら滝を呼ぼう」

「えっ」

「呼んで聞くのが一番だろう」

「あっ、いえ、あの…」

 しどろもどろになる伸子に業を煮やした月が声を出す。

「旦那様よろしいですか?」

「ああ」

「奥様」

「なによ」

「私と翠は捨て子です。拾っていただいた上に育ててくださった旦那様と灯子様にはどれだけ感謝してもしきれません」

「それが何なの」

「奥様が私達を使用人として疎ましく思っていることはわかっています」

「…ふん」

「…ですが翠は一生懸命お嬢様にお使えしております」

「そんなのは使用人として当たり前のことだわ」

「当たり前…」

「なによ」

「使用人なら何をしてもいいんですか?」

「…別に」

「身代わりにしても…命の危機にさらしてもかまわないと言うのですか?」

 月の鬼気迫る問いかけにさすがの伸子も黙ってしまった。

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