第11話 狙われた二人
「翠さん、今日行くお店は先月できたばかりなんだけどお団子がものすごく美味しいって。一度行ってみたくて」
「早季様、私なんかで良いのですか?ご当主様や他の奥様達とご一緒のほうがよろしいのでは…?」
翠が並んで歩く早季に言うと大笑いしながら答える。
「翠さんと一緒がいいの。翠さんと話してると楽しくて時間を忘れるほどよ。翠さんは私と一緒は嫌?」
碧泉家の早季は準備の後、翠を誘って甘味処や喫茶店に連れて行くことが多かった。不遇の翠を憐れんだのか年の近い翠に親近感を抱いたのかはわからないが今では他の奥方達より翠のことを可愛がっている。
「嫌なんてとんでもないです。…ただご迷惑ではないかと」
今回は紫雲家の妻の代理としてきているが、翠は使用人という自分の立場をわきまえているつもりだ。自分といることで早季に迷惑をかけたくはなかった。
「迷惑?それをいうなら翠さんが私に時間を取られて迷惑よね、ごめんなさい」
早季が冗談のように謝ると、翠がいいえと恐縮する。その時だった、風もないのに早季のかんざしがゆらりと揺れた。ほんの数秒のことだが気配を感じたのは翠も同じだった。
「早季様」
「ハー、もう翠さんとのせっかくのひとときなのに」
「どうしましょう」
「人は多くないようだから二人でなんとかしましょうか」
「はい」
「ここは目立つから、その先の辻で左に曲がって、確か空き地があったわよね」
「はい、小川屋の跡地が」
「ああ、あそこの和菓子おいしかったのになんで潰れたのかしら」
「フフ、そうですね」
「翠さんは無理しないように、いざとなったら私の後ろに隠れて」
「はい…でも大丈夫…だと思います」
「そう、ならお手並み拝見」
早季は元々風の妖の舞風家に生まれた。風の妖の女性の中で早季は早くから力があると認められ、美しい容姿も相まって有名だった。そんな早季が光樹に見初められて碧泉家に嫁いだ。早季の実力を知る碧泉家の前当主、光樹の父親は早季が妻となるなら大丈夫だと当主の座を光樹に渡したほどだ。翠が伸子の代理になった時、それぞれの奥方のことを大然に聞いて勉強していた。碧泉家の奥方の力は風の妖の中でも灯子の次にすごかったと聞いて翠は興味を持った。母としての灯子しか知らない翠にとっては、早季が妖としての灯子を知ることのできる人かもと思っていた。だから早季が仲良くしてくれることは翠にとっては好都合でもあった。
空き地に着いたところで振り返った二人の前には白い服を着た男五人と顔を面で隠した女が一人現れた。
「おとなしくすれば危害は加えない。黙ってついてきてもらおう」
「私が誰かわかってのことかしら?」
「碧泉の奥方だろう、お付きが女一人とは不用心だな」
男の言葉で狙いが自分とわかって早季はホッとしたと同時に、あの時の灯子のように…翠を守れるのは自分しかいない…そう思っていた。
「不用心はどちらのほうかしらね」
早季がニヤリと笑った。
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