私の街

@39ad

If

リビングに大きなクッションとテレビがあってダイニングに4人用椅子が用意されたテーブルがある。


母と2人暮らしの空間は私の絶対領域だ。


リビングにだけ明かりがついていて外はいつも薄暗く極めて静かな空間だった。


何もすることがないから玄関から階段を伝って外に出る。


貪欲な植物に覆われた隣家に人の気配はない。


「今日もあの豪邸に行ってみるか」

ひとりでに呟いて人の呼気一つない街を練り歩く


例の豪邸は徒歩でおよそ10分から13分ほどの位置に面した変わった家だった。


別に豪華絢爛というわけではなかった。


どこか歴史の真ん中辺りからずっと取り残されているような、ある種の異質さに惹かれたのだ。


2匹の黒猫が自由気ままに彷徨いている

 

よく見たら顔つきが少しおかしかったが、可愛いから構わないのだ


窓に明かりが灯った 


襤褸切れを着た恰幅のいいお婆さんは大きなバケツを抱えている


「…」


朝が来た


別に構わないのだ。この街には何もないから。


しかし誰一人いない街に違和感を持ち始めた


食料なんて何処にもないのに生きながらえている


腹が空かないから忘れかけていた


いま考えると私はどこから来たのだろう


父と妹はどこに行ったのだろうか


「街の皆は…」


今立っている足場が、私の常識は、当たり前は、


粒の小さな砂で構成されたような


今にも崩れ落ちるようなものだった


頭の中を覗かれてる気がして、今にも母の母でないロボティックな顔が私を睨む。


寂しい悲しいでなく、尋常でないほどに怖かった


頭の中を空白にするよう努めなければ。


何か訳の分からないことになって、私が訳の分から

ないものに成り果てるような気がした


「…ひっ!」


唐突に私のスウェットの丸みを掠め取るかのような感触があった


「なんだドアノブか…」



「」


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