サイレントリバース

@supernova1192

モノローグ

桜が舞い散る春、潮風が肌を撫でる夏、紅葉が街路樹を彩る秋、そして雪が静かに降り積もる冬。

僕の目には、それぞれの季節が鮮やかに映る。季節ごとに変わる景色や空気の匂い、ふと耳に届く人々の笑い声や喧騒――それらはいつも僕の心に揺らぎをもたらす。


だけど、その美しさの中に、僕は常に微かな歪みを感じてしまうのだ。

それは街にいる人々の「もう一つの顔」が、僕にはあまりにも鮮明に見えるからだ。それを僕ら一族では「悪意」と呼んでいる。


笑顔の中に潜む憎しみ、親切そうな態度に隠された計算。

悪意とは、決して大きなものだけではない。むしろ、それは人々の日常の隙間に、さりげなく潜んでいるものなのだ。優しい言葉の裏にある皮肉、親切な行動に混じるわずかな嫉妬。それらが透けて見える僕の目は、いつしか自分にとって呪いのように思えるようになった。


「霧島誠、お前は人を救うために存在しているのだ。」

幼い頃に父が僕に放ったその言葉は、今も僕の中で生々しく響き続ける。


でも、僕が本当に救っているのだろうか?

僕の行いで、本当に世界は良くなっているのか?

僕には、その答えは分からない。



僕の左手と、刻まれた傷


僕の左手には見えない傷がある。それが、僕の選んだ道の証だ。

その傷跡は細く、だけど深い。まるで僕の心の中を映し出しているかのようだった。


見えない傷を感じるようになったのは、初めて「悪意のリバース」を行った日だった。

僕の力は、対象の「悪意」を取り除くために、直接触れ、そして祈る必要がある。相手の悪意を受け入れたいと祈るのだ。そうすると相手の感情が僕に流れ込んでくる。そして、それを受け止めきれない僕は、左手にその痛みを刻みつけてしまうのだ。


悪意の感情は複雑だ。

「嫉妬、羨望、怒り、悲しみ、憎しみ」――人の心に渦巻くそれらが、触れて、祈ったその瞬間に僕の中に押し寄せてくる。それは濁流のようで、僕の心を飲み込む勢いだった。耐えられないほどの苦痛と虚無感。その衝撃は言葉にできない。



家族と、「力」の継承


小学生の頃、父に初めてその力の使い方を教えられた時のことは忘れられない。

「誠、お前には特別な能力がある。それは、私たち一族に受け継がれる重要な役目でもある。」


父はいつも真剣な目で僕を見つめていた。その瞳には期待と、そしてどこか冷たさが混じっていた。

「能力?」幼い僕はその言葉の意味が分からなかった。


父は頷きながら続ける。

「お前には、人々の裏に隠された感情、特に『悪意』を見ることができる。そしてそれを受け入れ、取り除く力を持っている。」


そう言って父は僕の左腕に数珠のようなものをつけた。その数珠は冷たく重く、僕の腕に絡みついたまま離れなかった。まぁ正直に言うとダサいので今となってはさっさと外したいんだが、そういうわけにもいかないらしい。


それ以来、父は僕に力の使い方を厳しく教え込んだ。「悪意」の見分け方、そして「リバース」の手順。僕が幼い頃から受けてきたそれらの教えは、父にとって「役割」であり「一族の義務」だったのだろう。


母は、そんな父とは対照的だった。僕の役割に否定的だったのだと思う。

母はいつもどこか悲しそうな顔をしていた。彼女は決して僕にその力の話をしなかったが、その瞳には深い憂いが宿っていた。

「誠、無理はしないでね。」

母のその言葉は、いつもどこか優しく、どこか儚く、諦めているようにも聞こえた。



初めての「悪意」


そして僕は小学四年生の時、初めて他人の「悪意」をはっきりと感じた。

クラスメートの一人が、何気なく笑顔を浮かべながら別の子に近づいていく。

その時、僕の左手がズキリと痛んだ。


「……何だこれ?」

僕はその痛みの理由を探るように、その子を見つめた。


彼の顔には笑顔があったが、その背後には暗い影のようなものが見えた。

「嘘だ。本当はあの子のこと嫌いなんだ。」

そんな声が、心の中に響くような感覚がした。


驚いて目をそらす僕に、その子が笑顔で話しかける。

「誠くん、どうしたの?」


僕はその笑顔に隠されたものを知りながら、返事をすることができなかった。


それ以来、僕は「悪意」を見る力を持つ自分を、恐ろしく感じるようになった。

同時に、それを知られないように隠さなければならないとも思うようになった。


その感覚は、少しずつ少しずつ幼い僕の中で深く根付いていった。



静との出会い


静と初めて出会ったのは、幼い頃のことだった。

僕たちの家は昔からの付き合いがあり、両親同士も親しい間柄だった。


彼女はいつも穏やかで、冷静に周囲を見つめていた。

幼い僕が感じることのなかった落ち着きを、彼女は持っていたように思う。


ある日、僕が家の庭で遊んでいると、静がそっと話しかけてきた。

「誠くん、ここに咲いてる花、きれいだね。」


振り返ると、彼女は桜の花を指さして微笑んでいた。

その瞬間、僕は彼女が僕にとって特別な存在であることをなぜだか直感的に理解した。



静と僕の距離


静は不思議な存在だった。

彼女は、僕が「悪意」のことを意識する前から、そっと僕のそばにいた。


「誠くん、何してるの?」

ある日、僕が庭の隅で花を摘んでいると、静がそう声をかけてきた。

「花、集めてるだけだよ。」

「どうして?」

彼女の問いに僕は困ってしまった。ただなんとなく、手が動いていただけだったからだ。


「理由はないよ。ただ……なんとなく。」

「ふーん。」

静は僕の答えに満足したのか、柔らかく微笑むだけだった。


彼女はいつもそんな感じだった。

深く問い詰めることも、こちらの言葉を疑うこともない。ただ、僕のそばにいて、僕が言葉を発するのを待っている。


その姿勢が、僕にはどこか安心感を与えてくれた。静がいると、僕は「悪意」について考えるのを忘れることができた。



静の直感


僕の「悪意」に関する力について、静は気づいているのだろうか?

そんな疑問を持つようになったのは、静が僕にこんなことを言ったときだ。


「誠くん、時々遠くを見てるみたいな目をするね。」

僕はドキリとした。


「え? 何のこと?」

「うーん、説明しづらいんだけど……誰かを見てるけど、実はその人の裏側を見てるみたいな、そんな目をするの。」


静の言葉は鋭い。まるで、僕の隠しているものをすべて見透かしているようだった。

僕は慌てて笑い飛ばしたけれど、静の瞳はどこか真剣だった。


「誠くん、何かあったら、私に言ってね。」

その一言が、僕の心を少しだけ軽くした。



琢磨との思い出


そろそろ僕の能力について話しておこうと思う。僕が初めて能力を使った時の話だ。そしてそれは僕の小学校時代からの親友だった琢磨との話でもある。

琢磨と過ごした日々を思い出すたびに、僕の左手には痛みが押し寄せる。

彼との思い出は、何気ない日常の中に詰まっていた。


小学生の頃、僕たちはよく河川敷でサッカーをした。

琢磨はスポーツ万能で、どんな競技でも抜群のセンスを見せていた。

「誠、お前、もっと足動かせよ!」

彼がボールを追いかけながら振り返って笑う姿は、まるで太陽のように輝いていた。


僕は彼と比べられることが多かった。

「霧島も琢磨みたいに活発だったらいいのにね。」

そんな言葉が周囲から聞こえるたびに、僕は小さな劣等感を抱いていた。

まぁ僕は残念ながら運動があまりできない。好きでもなかったから今となっては別にそれでいいのだけれども、小中学校時代というのはどうもそうもいかないコミュニティ形成をされることが多いのである。件の僕もまぁそこに割と馴染んでいたというわけである。


でも琢磨はいつだって僕を気遣ってくれた。

「誠は誠でいいんだよ。俺はお前のそういうところが好きだからさ。」

彼のその言葉は、どんな励ましよりも僕を勇気づけた。僕は琢磨が人間として好きだったんだと思う。



変わり始めた琢磨


中学生になると、琢磨を取り巻く環境は次第に変わっていった。

部活や勉強に励む彼は、学校でも相変わらず一目置かれる存在だった。

けれどもその影で、彼の家庭環境はどんどん悪化していった。


両親の不仲が日に日に深刻になり、家には笑い声が消えていったと、彼がぽつりと話したことがある。

「家にいるとさ、息が詰まるんだよな。」

夕暮れの校庭で、彼が遠くを見つめながら呟いたその言葉が、今でも僕の記憶に残っている。


それでも琢磨は、自分の苦しみを周囲に見せようとはしなかった。彼は強い人間だった。

「大丈夫だよ、親は親。俺は俺だから。」

そんな彼の笑顔が、次第に張り詰めた糸のように見えるのが僕は気になって仕方なかった。



悪意に囚われた彼


中学一年生の終わり頃、琢磨が僕に話しかけてきた。

「誠、俺さ、最近夢を見るんだ。すごく嫌な夢なんだけど、内容は覚えてないんだよな。」


「嫌な夢?」

僕が問い返すと、彼は苦笑いを浮かべた。

「多分、疲れてるだけだと思うけどさ。」


その時、僕は彼の裏側に、かすかな影を見た気がした。

彼の悪意が膨れ上がりつつあることに、僕は気づいていた。

けれど、どうすればいいのか分からなかったし、その時点ではまだ問題はないとも思ってしまっていた。



初めての「悪意」のリバース


中学二年生のとき、琢磨に起きた「悪意」のリバース――それは僕にとって、忘れられない出来事だった。

琢磨の変化は徐々に加速しているように思えた。彼がふとした瞬間に見せる疲れたような表情や、イライラしているような仕草や短くなった返事が気になりはじめていた。どうにかしなければいけないと思っていたが、どうすればいいのか、僕にはわからなかった。


「琢磨、大丈夫?」

僕がそう聞いても、彼は決まってこう答えた。

「ああ、大丈夫だよ、誠。気にするな。」


だけど、ある日彼が声を震わせてこう言ったとき、僕は心の底から驚いた。

「俺、たまに思うんだ。なんで俺だけこんなに努力しても、報われないんだろうって。みんなはいいよな、毎日楽しそうで。」


その言葉には、明らかな「悪意」の兆しが見え隠れしていた。ただそれは他の誰にでもありえる小さなものだと、その時の僕は思い込もうとした。彼の悪意が大きくなることには気付いていた。そう、僕は全てを理解していたんだと思う。



琢磨の「悪意」の発動


僕と琢磨は、放課後の帰り道を並んで歩いていた。僕らは自宅が近いこともあり、よく二人で一緒に帰る間柄だった。

夕陽が沈みかけた街並みは、長い影を道路に落としている。


「誠、俺さ……」

琢磨が歩みを止めて、ぽつりとつぶやいた。


「どうした?」

僕が足を止めると、琢磨は唇をかみしめたまま、しばらく何も言わなかった。

その沈黙が、何か良くないことが起きる前触れのように思えて、僕は焦燥感を覚えた。


そして次の瞬間、彼は、突然こう叫んだんだ。


「俺なんて、誰にも必要とされてないんだ!」


その言葉は、僕の胸を貫くように響いた。

彼の言葉が持つ激しい感情に、僕の左手がズキリと痛みを訴えた。


「琢磨……?」

僕は声をかけようとしたが、彼は両手で頭を抱え、地面にうずくまった。

その姿を見て、僕は彼の「悪意」が完全に発動したのだと悟った。


その瞬間、僕の視界はゆがみ、琢磨の周囲に広がる「黒い霧」のようなものが見えた。

それはただの幻覚ではない。彼の内面から噴き出した「悪意」が具現化したものだった。


「俺だって……もっと認められたかったんだ!」

琢磨の声が次第に感情に押しつぶされていく。


僕はなぜ気づかなかったんだと心の底から後悔した。琢磨の中にある闇には気づいていたはずだ。なぜここまでなるまで何も僕は行動を起こせなかったのかと自分を責めた。そして僕は決心した。

「琢磨、ごめん……気づいてやれなくて。」


震える手を伸ばし、彼の肩に触れる。そして祈った。悪意をリバースするためのこれが手順だから。

すると、僕の左手に熱い何かが流れ込んでくる感覚があった。



流れ込む感情


「嫉妬」「羨望」「絶望」――琢磨の感情が濁流のように僕の中に流れ込む。

彼がどれほどの苦しみを抱えていたのか、その一部始終が僕の心を襲う。


――親に褒められたくても、不仲が続いている両親。

――幸せだった頃の記憶が忘れられなくて、眠れない毎日。

――期待されてるがゆえ孤独に耐えきれなくなっても、誰にも頼れなかった苦しさ。


今思えば、琢磨の問題は実は大したことではないと思う。親が不仲だとか、周りの期待に応えなければいけないとか。きっとこの世の中には溢れているちょっとした問題でしかないはずだ。ただあの頃の僕と琢磨のような中学生の無力な子どもにはそれはまるで世界の全てのように思えるようなことだった。そうこれは絶望的だと言えるものだった。

僕は琢磨の記憶を追体験しながら、全身が崩れ落ちそうになる感覚に陥った。

彼の「悪意」を取り除くためには、この感情をすべて受け止めるしかない。


僕の左手には、琢磨の心の叫びが刻まれていった。


「なんで、俺だけこんな目に遭わなきゃいけないんだ!」

「なんで、誰も俺の話を聞いてくれないんだ!」


僕はそっと優しく、左手で彼に触れ続けた。そして祈り続けた。彼の悪意を全て受け止めたいと。気付いたら僕は涙を流していた。

「琢磨、お前は……間違ってなんかないよ。」


彼の「悪意」が僕の中に消えていくと同時に、琢磨の体から力が抜け、彼は漫画みたいに地面に崩れ落ちた。



琢磨との別れ


琢磨の悪意を消し去った僕は、しばらくその場に立ち尽くしていた。

彼の背中は小刻みに震え、その瞳からは涙があふれ出していた。


「琢磨……もう大丈夫だよ。」

僕はそっと声をかけるが、彼は答えなかった。


その沈黙は、彼が僕に対してどんな感情を抱いているのかを物語っていた。

彼は自分の「悪意」を見られたことで、深く傷ついていた。


「ごめん……気づいてあげられなくて。」

そう言いながら僕が手を差し出すと、琢磨はしばらく迷うような仕草を見せた後、その手を取った。


その手には、悲しみと、恐怖で占められているような気がした。琢磨自身も何が起こったか理解できないのだろう。自分の醜態を観られた恥ずかしさと、僕が何をしたかがわからない不気味さで溢れていた。

そして何よりも強く感じたのは、彼が僕に向けている一抹の「遠さ」だった。



再び訪れた日常


琢磨の悪意を取り除いた後、彼の日常は少しずつ変わっていった。

笑顔が増え、クラスメートとの会話にも以前の明るさが戻りつつあった。ただ僕には彼がどこか無気力のようにも思えた。笑顔にどこか生気がないのがいつも気になった。


そして彼は僕と距離を置くようになった。

昼休みの教室で目が合っても、彼はすぐに視線を逸らす。

放課後の帰り道も、彼と一緒に歩くことはなくなった。


僕がタイミングで手を差し伸べるたびに、彼はどこか遠くへ行ってしまう。

「悪意」という自分の裏側を見られたことで、彼の中に僕へのわだかまりが生まれてしまったのだろう。

そして僕が何をしたかがわからない彼にとって僕は「得体の知れない何か」になってしまったのだろうと思った。今の僕だったらもう少し上手くやれた気もしないではないが、あの頃の僕には何もできなかった。



最後の別れ


3ヶ月ほどたったある日、琢磨が教室で僕に話しかけてきた。

「誠、俺……鹿児島に引っ越すことになった。」


唐突なその言葉に、僕は何を返していいのか分からなかった。

「そうか……急だな。」


「親のことがあってな。母さんと二人で行くことになった。」

彼は少しだけ寂しそうな顔をしていたが、どこか吹っ切れたような表情でもあった。


「また会おうな。」

僕は手を差し出し、笑顔を作った。


琢磨は一瞬だけためらった後、僕の手を握り返した。

「……ああ。ありがとう。あのさ、お前さ。俺ずっと聞きたかったんだけど、あの時お前は俺の……いや、なんでもない。またな、誠。」


その握手は、僕たちが交わす最後のものだった。

琢磨は母方の実家がある鹿児島へ引っ越し、それから一度も連絡を取ることはなかった。



悪意の代償


「悪意」を取り除くことで、本当に誰かを救うことはできるのだろうか?

そもそも悪意とはなんなのだろう。僕にはまだわからない。悪意を取り除くだけで本当の意味で救われたと言えるのだろうか?琢磨はなぜ、変わってしまったのだろうか?僕にはまだわからない。


僕はそのことを、琢磨との一連の出来事からずっと考え続けている。

彼の悪意を消すことはできたけれど、彼を救えたとは思えないでいる。


そして、僕は親友を失ったのだ。


その事実が、僕の左手に深く刻まれていった。

そして、それは僕が「リバース」を行うたびに繰り返される見えない傷となる気がする。

あれ以来僕は「リバース」をしたことはない。



静の支え


「誠、また考え込んでるの?」

ある日の夕暮れ時、静が僕の横に立ってそう声をかけてきた。


「別に……なんでもないよ。」

僕は笑顔を作って返事をした。


でも静は、僕の嘘を見抜いていた。

彼女は何も言わず、ただ僕の隣に座り、静かに空を見上げていた。


「誠、無理しないでね。」

静かに、でも確かに届く彼女の声に、僕はいつも救われる。


彼女だけは、僕の「本質」と向き合ってくれる気がした。



僕の成長


琢磨が鹿児島へ引っ越した後、僕たちは一度も連絡を取ることがなかった。

でも、彼のことを思い出すたびに、左手が痛むのを感じた。


ある日、僕は静にそのことを話してみた。

「琢磨、俺のこと覚えているかな?」


静は少し考え込むように目を伏せ、それから穏やかに微笑んだ。

「誠の存在と行動は、琢磨くんにとって大きな意味があったと思うよ。」


「でも、僕と彼は二度と会うことがないかもしれないし、彼は僕を避けていたよね。」

僕がそう呟くと、静はそっと僕の手を握った。

「琢磨くんもきっと心の奥では理解していると思うよ。私は。そして誠の行動は彼が前に進むために必要なことだったんだと思う。」


静のその言葉に、僕は少しだけ心のモヤモヤが消えていくような気持ちになった。

そして、僕はいつしか時間が経つにつれて琢磨を忘れていった。腕の痛みもいつのまにか気にならなくなった。僕はそして高校生になった。



僕の役割


高校生になった僕は人の悪意を見ることがある種好きになっていた。その人の裏側を観れると言うのはある意味便利な機能なのだ。厄介なやつとはあらかじめ疎遠になれたりもするし、何事も使い方次第だと思った。


ただ「悪意を取り除く」=「悪意のリバース」という僕の役割は、決して簡単なものではないということをよく知っているつもりだ。

それは時に、誰かを救うと同時に、誰かを失うことでもある。そして僕自身を蝕むこともある。


でも僕はこの役割を辞めようとは思わない。どうやら見て見ぬふりはできない性格のようだ。これが遺伝子ってやつなのかもしれない。ただ琢磨の件以降、僕は「悪意のリバース」を行ってはいない。まぁそのような状況や人に遭遇しなかったというのが正直なところでもある。どうやら僕の人生はそんなにドラマチックではないらしい。僕はありふれた日常を過ごしながらいつのまにか高校三年生になっていた。



物語の始まり


これから話すのは僕が高校三年生の一年間で出会った人々との繋がりや出来事が、僕の心に深い影響を与えたというまるで日記のような話だ。


春、夏、秋、冬――それぞれの季節に出会った彼女たちと出来事が、僕に新たな気づきと感情をもたらしてくれた。かけがいのないこの一年間を一つずつ伝えていけたらと思う。


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