第20話 体育祭 ~追いかけっこ~
結局、体育祭の後でも、いつもの三人での下校となる。
「たまには体、動かすのもいいよね」
「あんまり私は動きたくないけど」
体育祭の後だというのに、元気いっぱいの秋芳部長に、くたびれた感じの深谷先輩。
ちなみに僕は今日一日で色々ありすぎて、歩くことで精いっぱいだ。
元気が有り余っている部長は、そんな僕にお構いなしに語り掛けてくる。
「そういえば春山くんって、何かスポーツはやってたの?」
「特にやってないですけど」
「その割には今日のはやかったね」
はやかった?
短距離走のこと?
そんなことはない。6人中3位なのだから普通。タイムを見ても平均なので、中の中。
キング・オブ・普通。
そんなこと言ったら部長の方が、
「部長のほうが2位だったから、僕よりすごいですよ」
「私の、見ててくれたんだ!」
しまった! 余計なことを言ってしまった。
「いや、一応みんなの見てましたよ。みんな速かったですし、深谷先輩も……」
「どうせ私は運動音痴ですよ」
まだ何も言っていないのに、勝手に深谷先輩はネガティブな言葉を口にした。
「そうだ、今度、皆で何かしようよ」
「スポーツを? ですか?」
「そう」
そんな突拍子もない部長の言葉に、深谷先輩が素早く反応する。
「香奈衣は毎日走ってるじゃない」
「え?」
「いつも寝坊して、遅刻するって、走ってるじゃない」
「え~ してないよ」
「私も毎日、走らされてるんだからね!」
だから部長は見た目より足が速い、のか?
というか、毎日寝坊して、走って登校してるの?
「ねえ、春山くんも一緒に体動かしてみる?」
「僕はあまり……遠慮しておきます」
「鬼ごっことか、かくれんぼとか、やらない?」
「香奈衣、それスポーツじゃない。子どもの遊びよ」
まぁ、鬼ごっことか、それに近いことは部長と毎日やってるようなものだし。
「ボウリングとか」
「あんな重いの転がして、面白いの?」
部長がボウリング…… けが人が出そうな。
しかし、女子プロの人はなんでミニスカなんだろう?
「バドミントンは?」
「あれ、結構反射神経いるのよ」
部長がバドミントン……
しかし、あのユニフォーム、なんでミニスカ?
「テニスは?」
「そもそもルール知らないんじゃない? 香奈衣」
部長がテニス……テニスウェア着た部長……
「じゃあ、水泳は?」
「水泳は、そのうち授業でやるでしょ」
水泳……水着姿の部長!!
「あれ、春山くん、どうしたの?」
「あなた、顔、赤くない?」
「……いや、何でもないです。大丈夫です」
いかんいかん。今日の僕は何かおかしいぞ。
「でも、走るのも気持ちいいよね。風を切りながら」
「そう思うなら、一人で走ってなさいよ」
さっきから健気に話す部長を、容赦なく突き放す深谷先輩。
深谷先輩、話に乗ってあげて!
そんなことするから、部長は僕に話しかけてくるんだから。
「ねえ、春山くん、あの電柱まで競争しない?」
「え? なんですか?」
って、聞き返そうと思ったら、もう部長は走り始めていた。
どこにそんな力が残ってるの?
っていうか……
そんな恰好で走ったら……
スカートがめくれて……
部長はそんなのお構いなしで、黒いスカートと髪をなびかせながら走って行ってしまった。
そして、向こうの電柱にたどり着くと、こっちを振り向いてぴょんぴょん飛び跳ねている。
僕と深谷先輩は走ることはせず、ゆっくりと歩いて部長のもとへ。
「ねぇ、春山くん、なんで走らないの?」
「僕たちは部長と違って疲れてるんですよ」
もう歩くのも嫌だっていうのに……
「それに……」
「それに?」
「そのー あんまりはしゃぐと……スカートが……」
「スカートが?」
「…………走るとですね、そのー」
言わせないでよ、分かってるんでしょ、どうせ。
「走るとどうなるの?」
「どうなるって、それは……」
僕の目の前でニヤニヤしている部長。
そして、なにを思ったのか、その場がスケートリングかのように回転し始める。
「ちょっ、なにしてるんです?」
遠心力でフワッと持ち上がるスカート。
わー ちょー!
思わず両手で目を隠すが、一瞬……
一瞬だけ見えた……
えっ? 緑色?
その場で回転を止めた部長は、
「どうしたの?」
「……」
部長はゆっくりと……
ゆっくりと、スカートをたくし上げる……
「部長! 道の真ん中で! なにを!?」
そして、腰まで上げきったスカートの……
その中には体操着のハーフパンツが……
「春山くん、なにか期待してたの?」
「……」
「やらしいなー 春山くんは!」
まただ。
またやられた。
部長はいつもこうやって僕を
これまでも。
そしてこれからも。
「香奈衣、そんな元気あるなら、明日一人で起きなさいよ。私、疲れてるから迎えにいかないわよ」
「えー それはちょっと……」
そう言って部長は困ったように僕に視線を向ける。
「いやですよ、僕も」
「電話してくれるだけでもいいから」
「いやですって」
入学してから、まだ一か月しかたっていない。
なのに、いろいろなことが起こりすぎた。
それもこれも茶道部に入ってから。
秋芳部長と出会ってから……
まだ残りの高校生活の方が長いというのに。
これからいったいどんなことが待ち受けているというのだ。
期待とも不安とも判別付かない、何とも奇妙な感覚。
ただ、今、はっきり言えるのが、
こんな生活も悪くないな……
ということである。
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