#1
「それ言うの今?信じられない」
と仰け反るように咲那は言う。
車は時速70キロで走っている。
対する慎太郎はしょうがねえだろという。
彼は催してきたため、トイレを求めている。
それもそのはず、街燈さえもおろそかな
街の景色だ。
十分ほど前に通り過ぎた
コンビニエンスストアから店という店がない。
「夫婦漫才かよ、しかも運転までしてる
俺えらくね?」と裕が言う。
彼はまたアクセルを若干踏み込んだ。
道路という道路は、
この道何キロも一本道であり、
隙あらばスピードを上げて
しまうような開放感がある。
スピード出しすぎと咲那が言うと、
それに反論する形でいいだろと彼は言った。
「まあこんな田舎道、警察も見張るほど暇じゃないだろ」淡々と慎太郎は言う。
「それにしても買いすぎ、
お菓子ばっかりじゃん」
隣にある黄色い大きな袋を見て咲那が言う。
「ドンキ、ほんと安いよな。
それだけで生活できちゃうわ」
ドンキとはドン・キホーテの略称である。
確かに生活ができるかも、
なんて咲那は思った。
慎太郎は「何かチョコ取って」と咲那に言う。咲那はその大きな袋から、
チョコレートを探す。
それはいくつかあるので、
何でもいいやと手で探す。
それらしきものを掴み、助手席の彼に渡す。
サンキューと彼は言った。
思えば運転手の彼、
裕が来たがっていた場所に
私と彼を連れてきたのだ。
少しの怒りをかみしめて、頭を座席につけた。
「そろそろ林道に入るぞ」と裕は言う。
両端に不気味ともとれる木々が並び、
その間を我々の車が進む。
「こんなの一人で来てたら
たまったもんじゃないよ」
と彼は笑いながら言った。
彼が心霊という部類のものを
好むことは知っていた。
以前からそのようなことをよく口にしていた。しかしながら彼曰く、足を運ぶのは初めてと、この車内全員が、初である。
「熊とか出そうだな」低い声で慎太郎は言う。
「あるーひ、もりのなか♪」
彼は何の気なしに森のくまさんを歌い始めた。
裕、と慎太郎は彼の詩を止めようとする。
私も言葉にならない恐怖心が
この林道に入ってからしてきたのである。
彼の歌が止まり、車に再び沈黙が訪れる。
「Bluetoothもないなんて」
と慎太郎は嘆くように言う。
「いいだろ、ポンコツなんだし」
裕は笑いながら言った。
「CDも入らないぜ」
と彼は自慢でもするように言う。
かなり古い車種を購入した。
オプションとしてもそういったものを
つけなかった。彼はその都度
後悔しているようだ。奥深くまで来たようだ。
後ろを私が振り向いて明かりというものを探す。まるで明かりが来た世界のように暗闇が覆っていた。私がゆっくりと振り向いた瞬間、
裕がわっと驚かせてきた。
体が浮くほど私は驚いた。
「やめろって」慎太郎は言う。
さすがの私も怒りをあらわにする
ところだったが、彼の一言でだいぶ和らいだ。
もうずいぶんと走ってきたであろう。
車を動かすエンジンの音が車内を支配した。
「なんて場所行くんだっけ?」
と慎太郎が問いかける。
待ってましたと言わんばかりに
裕は意気揚々と口を開く。
「三日馬村、三日に馬って書くんだと。
だいぶ前に廃村になってから、
そういううわさが絶えないんだと」
「それは?」と私が問うた。
「まず、そこの村の入口に祠があるみたいで、
その場所に、びっくりするなよ?」
と彼はじらした。
「首があるらしいんだ」
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