裏世界

スティーブン・オタク

日常

「ねぇ秀子」

「なに?」

これはクラスの女子、俺と言ったらそれを眺めて頂く、根暗陰キャだ。

「なぁ、宿題移させて」

「またかよ〜」

「俺とお前の」

クラスではいろんな音が聞こえる。だけど俺にとっては耳障りの悪い雑音でしかない。

「ピーンポンパンポンピンポーンパーンポーン」

「はい、今日は前の続きからやります」

俺にとって授業というものは極めて不愉快な道楽にしか過ぎない>

左端の前から三番目の席で窓を見上げる、一時間目が始まる、8時50分という時間の空は、青くありながらも、どこか暗く、落ち着いている。適齢期が過ぎたであろう女教師の講義は子守歌にちょうど良く、まだ若い女を見て上がった心拍数を下げてくれる。

「ちょっと、あなた、はい」と言って生徒の机をたたく。

強い衝撃が走って生徒は起き上がる。

「っえ?」

「まだ、一時間目よ」

「っあ、はい」

腑抜けた顔が気に食わなかったのだろうか、教師はやる気がないなら帰りなさいと言う。

「ぁー、じゃぁ帰ります」

リュックサックを持ち、教室を出ようとする。すると教師は、そんなことで将来やっていけないわよ、と言うが、そんなことはつゆ知らず―

生徒が帰った後の教室では、ざわざわと言う声だけが残る。


僕はがり勉、クラスではそう呼ばれている。

あの帰った子は僕の唯一の友達だ。僕は彼、春君にあこがれている。僕は気弱で運動音痴だしオタクだしコミュ障で取柄って言えるのかわからないけど、できることは勉強位しかないけど春君は話さないからクラスの人たちはわからないかもしれないけど話は面白いし運動もできる、それに勉強はできないけど、頭がいいのも僕は知っている。


「よぉーがり勉、飯食おうぜ」

「あっあの、うん、わかった」

「おまえの友達、帰っちまったな」

「おまえ、なんで、あいつとつるんでんだ?」

「いや、あの…あははは」

「まぁいいや飯食おうぜ」



はぁー、学校ってなんでこんなにつまらねぇんだろ、そうと息をこぼしていると、道路の5mほど上にかけられた緑の色をした鉄骨の中央程で、わき道を眺める、これは俺の日課。もちろん今日みたいに帰らさてしまうのは珍しいが。

ここ最近では未成年誘拐事件が多発しているらしい、そして、その犯人はまだ捕まっていないのでパトロールも兼ねて眺めている、とみにくい言い訳を並べているのはわかっている。

一人の女がわき道に入っていく、制服は俺たちの学校と同じものだった、親近感からか、いつもの癖からか、その女生徒を食い入るように見ていた。

瞬きをする、すると目を閉じているはずなのにわき道だけが瞼の裏に焼き付く、一瞬の間だったがくっきりはっきりとなにかわき道の女生徒が進む先に、この大都会とは思えないような、一面に低く広くずっと先まで続いている草むらと、低空で広がる積乱雲がひどく静かな世界でどこまでも続いているように感じた。そして今は車のクラクションの音と、雲一つない空を見ている。

もう一度瞬きをするすると、その草むらで少女の叫び声が聞こえた。

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