死神少女、恋をする
朱田空央
死神少女、恋をする
冥府。閻魔大王の裁きの元、天国に行くか地獄に行くかを決める。
「お前は天国、お前は地獄!」
……んだけど、年間何百万人もの死者が出ている最中、いちいち閻魔帳を開いて、という前時代的なことはしない。
そこはもう、地獄も外界よろしくハイテクになったし、働き方改革も起こった。昔に比べればそれはもう天国らしい。
らしい、というのは、私が死神になったばかりの新米だから。昔の地獄というのを知らない。
「おい新入り。昔は大変だったんだぜ? 今は時代が進んだな」
筋骨隆々な先輩が話しかけてくる。どうやら昔は、メガネを掛けた某俳優とモノマネが巧みな某女芸人が共演している明細システムのCMよろしく阿鼻叫喚の地獄絵図だったそうだ。
「へー……あと先輩。私、ルカって名前があるんですけど」
「いちいち覚えてらんねぇよそんなもん。大体、お前だって俺の名前覚えてねぇじゃん」
実際、閻魔様以外には死神やら鬼やら担当部署やらが膨大なため、いちいち名前を覚えてられない。
するとその時、スマホの通知音が2回鳴った。
「っと、仕事だ」
「あ、私もですね」
そう、今はスマホなんてこれまた現代的なものを持たされて、専用のアプリを使って余命いくばくもない人間のところへ赴き魂を導くのだ。
「さぁて何に交換しようかねぇ……」
独り
豪快に鎌をぶん回すとか、そんなことはしない。ただ粛々と、道案内をするだけ。たとえどんな死に方でも、善悪問わず。そんな当たり障りのない日常が続く。そう思っていた。
一ノ瀬勇。15歳。病弱の身で、もうすぐお迎えが来る。
「え!?」
正直、超タイプだった。亜麻色の髪に端正な顔立ち。地獄にいるのは閻魔様を始め、線が太い、ゴツい男ばっかりだから。
――恋。俗に言う一目惚れと言うやつだ。死神が恋するなんていうのは前例がない。なんて私たちは創造物だから。結婚する必要がそもそもない。だというのに。
「……君は?」
放心していると、魂となった勇が話しかけてきた。
「あ、えと……ごめんなさい! あの……その……死神のルカ……デス」
「あ、そうなんだ……そうなんだ!?」
めっちゃ驚くなこの子!? まぁでも死神のイメージってもっとおどろおどろしいもんな。
「……死んじゃったんですね、僕」
「……うん」
「……もっと長生きしたかったな」
しんみりとした空気になる。お、重い! 今まではわりとあっさり流してたけど、今回は……なんか、気まずい。
「……ところで、さ。勇くん……この後、時間ある?」
「?」
怪訝そうな顔をする勇くん。距離感の詰め方ミスったか? いや、元気づける為だ! 行こう!
「勇くん……良かったら私と、その……付き合ってくれない?」
「え? は? いや……え?」
そりゃこんな反応になるよねー! わかってたけどさ! でもさ! 恋しちゃったんだもん! 仕方ないじゃん!
「いや、急に言われてもっていうか……その……ごめんなさい?」
「ですよねー! ごめん! 忘れて! 冥界行こっか! うん!」
私の初恋は敢え無く散った。
死神少女、恋をする 朱田空央 @sorao_akada
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