第9話 間男、恥をかく

 時間は少し巻き戻り、ゆうとが登校中の結月に声をかける前。


「さて、今日からトロフィーちゃん妹の攻略だな」

 

 そんなことを考えつつ、ゆうとが通学路を歩いているとだ。


(なんか今日はえらく騒がしいな……)


 周囲を見渡しても、学校の女子生徒たちが騒いている様子はない。つまり、ゆうとが注目を集めているわけじゃない。

 騒ぎの中心にゆうとが向かうと。


「この俺が、あんな美少女を見逃していただと……!?」


 騒ぎの中心には、美少女がいた。しかも、それも超一流のだ。

 かなりの数の美少女を抱いてきたゆうとでさえ、見惚れてしまったくらいだ。


(日向と同じ、いや、それ以上じゃないか……?)


 見れば見るほど、ゆうと好みの女だった。


 真っ白な太ももに、制服越しでも分かるほどの巨乳。そして、まだ男を知らないあどけない顔。ゆうとにとって、これほど理想に近い女子は初めてだった。是が非でも、自分の物にしたい。ゆうとは、欲求が高ぶって仕方なかった。


 そして驚愕の事実に、ゆうとは気が付いた。


「まさかあいつ……黒沢結月くろさわゆづきか!?」


 胸やお尻の大きさに、デカい身長。一致する部分が多い。ゆうとにとって、嬉しい誤算だった。顔には目を瞑って体を堪能させてもらおうと思ったのだが、顔までいいときた。


 まだ朝だというのに、ゆうとは高ぶって仕方なかった。

 早速、話しかけようと思ったのだが、ゆうとは足を止めてしまった。


「ん? 隣にいる陰キャは……日向の彼氏だよな」


 ゆうとの視線の先では、楽しそうに談笑する隆弘の姿があった。


(あの様子を見る感じ、結月ちゃんに励ましてもらった感じか……)


 これもまた、ゆうとにとって嬉しい誤算だった。

 彼女を寝取られたショックから、隆弘が立ち直るのはもう少し先だと思っていたからだ。


「もうあの陰キャから別の女を寝取れるのか、たまんねぇな……」


 これからの快楽を想像しただけで、ゆうとは涎が零れ落ちそうだった。


(結月ちゃん、君に俺という存在を刻み付けてやるぜ!)


 ゆうとは早速、結月に話しかけに行った。


「君が、黒沢結月ちゃんだよね? あはよう、当然俺のこと知ってるよね」


              ※


「ひっ!?」


 ゆうとに話しかけられた瞬間、にこやかだった結月の表情が一転、おびえたように固まってしまった。忍者のような素早い動きで、結月は隆弘の背中に隠れる。そして。顔だけをゆうとの方に向ける。最も、目を合わすことはできていないのだが。


 結月の反応に、一瞬面食らったゆうとだが、すぐに気が付いた。


(ああ、そうか。俺みたいないい男に声をかけられたから緊張してるのか。全く俺ってやつは……)


 自分は罪な男だと、改めて認識する。

 最も、結月は陽キャに話しかけられてビビッてるだけなのだが、ゆうとが気づくことはない。


 そしてゆうとが話しかけた瞬間、周囲がシンと静まり返った。元から有名だったゆうとに、すい星のごとく現れた美少女。これから何が起こるのか、周囲の生徒達は興味津々だった。


「まだ質問に答えてもらってないんだけど、俺が誰なのか分かってるよね?」


(俺はこの学校の皇帝といっても──)


 自信満々に尋ねるゆうとなのだが。



「し、知りませんっ!」



 即答されてしまう彼に、ぷっと吹き出す男子生徒が一人。それを別の男子生徒が慌てて、肘で小突く。小声で、「やめてやれよ、バカ……プッ」と注意するのだが、結局吹き出していた。


 クスクスと笑う声が、広がっていく。その瞬間、かぁ~とゆうとの顔が赤く染まっていく。


(こ、この俺に恥をかかせやがって……! この女、絶対にベッドの上で泣かせてやるからな!)


 握った拳がプルプルと震える。


(いや、落ち着け、落ち着け、俺)


 軽く息を吐いて、ゆうとは気分を落ち着ける。自分を知らない女子は初めてだったが、まだまだ挽回はできると考えていた。


「俺さ、ずっと結月ちゃんが心配だったんだ。学校では、彼意外と話してる姿をあまり見たことがないし、君みたいな可愛い子はもっと青春に満ちた学校生活を送るべきだと思ってる。もし俺の手を取って──」


「よよよよよ、余計なお世話ですっ!」


 首を横にブンブンと振る結月が、陰キャパワー全開で断っていた。


「は? な、なんで……」


 間の抜けた声を出すゆうと。


 ゆうとのような陽キャは知らないのだ。不特定多数の人間と遊ぶより、仲の良い人と隅っこの方で楽しく遊ぶのが性に合っている人がいるのを。


 二度もばっさりと断れたゆうとに、再び、屈辱の炎が灯る。プライドの高いゆうとにとって許せないことばかりだった。誘いを断られたのも、この学校の皇帝である自分を知らないことも。


「た、隆弘がいるの、で……」


 そう言って、結月は隆弘の腕をとる。見せつけるような仕草にゆうとは見えていたが、その実、不安を解消しているだけ。それに気づけないゆうとは、ますます激高する。


(この俺が話しかけてやったんだぞ……普通は泣いて喜ぶところだろ、このクソ女ァ!)


 髪を掻きむしりたい気持ちを必死に抑え、ゆうとは三度みたび、結月に話しかけようとする。もはや、隆弘から寝取る計画など頭からすっ飛んでいた。

 自身のプライドのためだけに、ゆうとは動いていた。


「そ、そんな──」


「そろそろ、やめてもらえませんか? 自分が何を言ってるのか分かってますよね?」


 ゆうとの話を遮って話しかけるのは隆弘。大人な態度の隆弘と違い、ゆうとは子供の癇癪のように騒ぐ。


「あ? お前みたいな陰キャがいっちょ前にカッコつけんなよ! 俺様の邪魔すんじゃねぇ!」


 隆弘の胸倉を掴みかかりながら、怒声を飛ばすゆうと。

 そのとき。

 

 パシャリとシャッター音が鳴った。

 

「おい、なに勝手に……」


 周りに目を向けると、ゆうとは口を閉ざしてしまった。

 たくさんの生徒が、ゆうと達を見ていたからだ。


 スマホを向ける生徒、クスクスとバカにしたように笑う生徒、憐れんだような視線を向ける生徒だっていた。


(ク、クソ……!)


 今の状況がマズいのは、今のゆうとにだって分かる。芸能人である彼にとって、スキャンダルは命取りになる。

 周囲の視線に追い立てられるように、一歩、一歩とゆうとはあとずさる。


(お、お前が邪魔しなきゃ、結月ちゃんは今頃……クソッが!)


 歯ぎしりが止まらなかった。

 自分になびかない結月も、それを邪魔する隆弘も、野次馬のような生徒も、全部が許せなかった。


 それでも今だけは堪えないといけなった。

 逃げるように、ゆうとは学校とは反対の方向に向かっていく。


(クソッ! クソクソッー!)


 この恨みも、屈辱も、絶対に倍返しにしてやると胸に刻んで。


(この俺が、女に相手にされないなんてあっちゃいけねぇだろ、チクショウがぁああああああ!)


──────────────────────────────────────


 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 少し遅くなりましたが、基本的には20時台を目標に投稿しますのでよろしくお願いします。


 レビューを書いてくださった方、ありがとうございます!

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