先輩に彼女をNTRれた日、幼馴染が俺をNTRろうとしてきた

光らない泥だんご

第一章 NTRれて、NTRれそうになって

第1話 先輩に彼女をNTRれた

「隆弘、目をつぶって……ん~」


 俺──真白隆弘ましろたかひろの目の前で、幼馴染の黒沢結月くろさわゆづきが、目をつむって唇を突き出している。


「お、おい……結月……!」


 狼狽した俺の声など無視する結月は、その場でつま先立ちになって、顔を近づけてくる。


「ねぇ、隆弘……早く。これ以上、私に恥をかかせないで……」


 甘い声を出す結月の手が、俺に胸にあたる。


「……いいんだな?」


 小さく頷く結月。


「そうか、分かった……」


 俺は軽く息を吐いて、腕に力を込めた。

 そして──。


「フハハハハ! バカめ、幼馴染ごときが俺を誘惑できると思うなよ!」


 結月のこめかみを力のかぎり握った。


「ぎゃぁああああ! いたい、いたい、いたい!」


 ギブギブと俺の腕をタップする結月。俺は仕方なしに手を放してあげた。すると結月は、頬を抑えながら不服そうな顔で俺を睨んできた。


 結月はロングの髪をストレートに、眼鏡をかけている。こーう、図書室にいるのが似合ってるタイプの女子だ。


 俺はため息をつきながら、結月に話す。


「あのなぁ、幼馴染よ。俺には彼女がいるんだぞ。ふざけているつもりでも、そんな破局させるようなことをせんでくれ」

「私と隆弘の仲じゃん。というか、幼馴染は誘惑できないっていうけど、お姉ちゃんとだって幼稚園からの仲じゃん」

「そうなんだけど、一緒にいた時間がほとんどないから、幼馴染って感じがしないんだよな」


 俺の彼女は、結月の姉だ。名前は、黒沢日向くろさわひなた。結月の言うように、俺と日向は高校に入学するまでほとんど接点がなかった。それは日向が私立の小学校、中学校に通っており、顔を合わせることが全くと言っていいほどなかったからだ。逆に結月とは、幼稚園から今まで学校もクラスもずっと一緒という腐れ縁の幼馴染だ。


 ちなみに、日向とは付き合って三か月くらいになる。高校一年の頃に好きになって、高校二年の夏に玉砕覚悟で告白したら、まさかのOKだったのだ。


 それから結月と軽く雑談していると、廊下が騒がしくなった。

 日向だろうか。

 同じタイミング、結月もそう思ったようで。


「あ、お姉ちゃん来たんじゃない? じゃ、私もそろそろ行くね」


 そう言って、俺に手を振る結月が先に帰っていく。


 反対の方向を振り返ると予想通り日向がいて、たくさんの生徒に囲まれていた。多分、ファンの人たちだろう。


「あ、あの、黒沢さん。今月の表紙になってた雑誌買いました!」

「わ、私……黒沢さんが憧れの人なんです! あ、握手してもらえませんか!」


 日向は戸惑った様子もなく、むしろ慣れた様子で「ありがとう~」「そんな、私より凄い人はいっぱいいますよ~」と親しみのある笑みを浮かべていた。


 結月の姉──日向は現役のモデルをしている。女子高生ミスコンでグランプリを獲得してから、事務所にスカウトされモデルへ。また現在は、ドラマや映画への出演など活動を多岐に広げている。


 つまるところ、芸能人というわけだ。彼氏としてのひいき目なしに見ても、超をつけてもいいくらいの一流の人間だと思う。本当にまぁ、こんな平凡な俺と付き合ってくれたもんだ。いや、本当になんで付き合ってくれたんだろうな?


 そんなことを考えていると、ある程度落ち着いたのか、日向がこちらにやってきた。


「お疲れ様、日向。相変わらず、凄い人気だな」

「んー、まぁね」


 スマホを触りながら、面倒くさそうに日向が返事する。


 そんな日向に、俺は苦笑するしかない。きっと仕事で忙しいからストレスとか色々あるのだろう。そんな日向に、今日はとっておきの提案があった。

 日向が喜んでくれると信じて、日向の喜ぶ顔が見たくて。


「なぁ、日向。今日は休みなんだろ? 前に話してたお店に行かないか? 予約とってあるんだ」


 俺と日向は二十四日に付き合い始めた。そして今日は三か月目の記念日。

 だからどうしても、二人でお祝いしたかった。


「嬉しいんだけど、今月ちょっとピンチっていうか……」

「大丈夫だよ、俺がおごるし。今日は記念日だしな」


 ぶっちゃけ、俺のお小遣い事情的に痛いが、我慢だ、我慢。

 大好きな彼女の笑顔のためなら、それくらい安いってもんだ。


「じゃあ、今から──」


 しかし、俺の提案はあっけなく散ってしまう。


「あ、ごめん。ちょっと用事が入っちゃった」


 スマホを触っていた日向が、突然そう言いだした。


「え、今日は予定がないんじゃ……もしかして、緊急で仕事が入ったとか」

「うん、そんな感じ。ほらヒナタ、いろんな人から頼られる所があるっていうか~」


 そう言って、俺が何かを言う前に小走りでどこかに行ってしまう。


 そんな日向の背中に、俺は情けなくも黙って手を伸ばすことしかできなかった。窓から外を眺めると、憎たらしいくらいに快晴だった。


 最近、こういうことが多い。

 数えるくらいのデートをしただけで、手を繋いだことだってない。当然、その先も。この調子だと、お互いの関係が進展することもないと思う。


 芸能人だから忙しいのは分かっているが、もう少し二人だけの時間が欲しい。


「ま、俺のワガママだよなぁ……」


 日向は仕事を頑張っているのだ。俺は俺で頑張ろう。

 そう気持ちを切り替えて、俺は帰宅することにした。


            ※


 予約してたパンケーキ店でキャンセル料を払ったあとの帰り道。

 色々と考えたかったので、俺は遠回りをして帰っていた。


「どうしたら日向と一緒にいられる時間を増やせるかなぁ……」


 歩きながら考えていても、ちっともいい考えが浮かばなかった。

 そのとき。


「ねぇ~、早く。ね、いいでしょ?」



「あれ、この声って日向のだよな……もしかして、仕事が早く終わったとか!」


 浮かれそうになる気持ちを抑えつつも、小走りで声の方向に走っていくと、日向がいた。


「おー……い……え、なんで?」


 日向を発見した瞬間、俺は氷漬けにされたように固まってしまった。

 目の前の光景を、現実だと受け入れられない。夢であってほしい。でも、これが現実だというのも分かっていた。

 だからこそ震える声で、俺は絞り出すように言ってしまった。


「と、隣にいる男は誰なんだよ……」


 そこには、俺に見せたことのない笑顔を浮かべる日向が、男性と腕を組んで歩いていたのだ。



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 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 書き溜めていますので、この作品とお付き合いいただければと思います。

 明日からは、20:24に更新していきます。


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