君は可愛い私の彼女

たらころ

第一章 彼女はマドンナ

第1話 女神と信者

 「あのっ。ずっと好きでした‼︎‼︎付き合ってはもらえないでしょうか⁉︎」


 、、、、は?


 誰もいない校舎裏。

 ジメジメしている日陰の中、彼女の声が響き渡る。


 少し顔を赤らめながら頭を勢いよく下げる少女。


 えっ、えっ、待って待って。

 

 思考回路が停止しかけ、阿呆のように口をポカンと開ける。


 ちょっ、え、えっと、つまり、、、、


 「はっ⁉︎⁉︎」

 

 常に成績下位をキープしている私の脳は上手く機能しなかった。

 代わりに迫真の一文字が口から放たれる。



 一旦状況を整理しよう。


 今朝。私が登校してきてすぐに、西条ここみはやってきた。


 「早乙女さん。今日の放課後、第三校舎の裏に来てくれない?お話があるの。あっ誰にも言わないで、一人できてね。」

「あっ。えっと、はいぃ」


 西条ここみ(さいじょう ここみ)


 一言で言うと完璧人間。


 入学してから成績一位を常にキープしている才女。

 全国模試でも順位は一桁台で、特に英語がずば抜けて素晴らしいらしい。


 頭が可哀想な私とは大違いだ。

まさに月とすっぽん。提灯に釣鐘。

私と脳みそを交換して欲しい。もし交換したら、キャパオーバーで頭が破裂するだろうが。

 

 それから運動神経抜群で、様々な賞をとっていると聞く。

 こちらも抜きん出ており、部活に入っていないのが不思議である。

 陸上競技に球技に武術。あと何があるかは知らないが、彼女はその全てを完璧にこなしてしまう。

 以前なんか、あの厳しい体育教師が逆に指導されていた。

 まさに文武両道才色兼備という完璧人間。

AIやロボットですら、彼女の足元にも及ばないだろう。


 さらに超が付くほどの善人で、教師生徒共々から信頼を得ている。

 行事などには常に積極的な為、頼れるリーダーとして頂点に君臨しているのだ。


 所属は同じクラスの2年B組で、いつもクラスの中心にいる人物。

 明るくて話しやすく、決して自慢はしない。謙虚で愛嬌のある少女だ。


 生徒会に入っており、来年は絶対に生徒会長になると噂されている。

 以前あった生徒会投票は、殆どの票が彼女に入っていたという伝説を残している。


 さらにさらに。親が金持ちだとかで身なりも良く、顔は大御所のモデルさえも指を咥える可愛さ。

 丁寧な口調に清潔な身なりは、何処からどう見ても育ちの良い可憐な淑女だ。


 色素の薄い茶色い髪は、艶やかでいつも綺麗に整えられている。

 目元はぱっちり二重で可愛らしさ満点。

 黒い瞳は澄み渡っており、いつ見ても夜空のように煌めいている。

 

 極付は私のような陰キャにも優しいという純粋さ、、、、‼︎


 話したことは殆どないが、落としたペンケースを拾ってくれた時は女神にしか見えなかった。


 その当時のことを思い出すたびに、幸福に包まれた気分になれるのだ。


 『落としましたよ』

『へっ!?あっありがとうございます‼︎‼︎』


 というような会話だった気がする。

私の返事はクソダサいが、それが彼女の素晴らしさを引き立てているような気もする。

 ここみの背後から眩い光が当たり、彼女を照らしているように脳内加工されている映像。


 あの時ペンケースの中身をぶち撒けてよかった。

 と、普段ならば悲しい思い出すらも女神と出会った記憶に改ざんされるのだから、不思議なものだ。


 結論。彼女はまさに同じ空間にいてはならない少女ということ。


 そんな彼女に呼ばれた私は、一日中怯えきっていた。


 悪口などは絶対に言われないだろう。

もしかしたら、何か罪を犯してしまったのかもしれない。

 いつも教室の隅で縮こまって、協調性がないとか⁉︎


 それならあり得るかもしれない。


 いつもリーダーとして皆をまとめている彼女からすれば、何もしていない私など邪魔者だろう。


 もうちょっと皆んなと仲良くしてくれない?そしたら、行事も楽しめるかも!


 という台詞が、彼女の声色で脳内再生される。

 ああ、絶対これだ。そうに違いない。


 あわわわわと机を見つめているうちに、気づけば放課後になっていた。


 子鹿のように震える脚で校舎裏に向かう。

彼女に敵認定でもされたら、私は生きていけない。

 学園の全員に敵と認識され、毎日が悲しみのエンドレス。

 イジメに陰口、教師からの減点もあり得るかもしれない。


 起きるかもしれぬ未来に怯える、惨めな私。

 今から引き返そうかとも思うが、西条ここみの命令に背くことなど出来るわけもなく。

 無意識に動く脚を見つめることしか出来なかった。


 神様仏様ここみ様お釈迦様イエス•キリスト様あとその他諸々の誰か様、どうかお救いください。

 なんでもします。靴底舐めますからここみにだけは嫌われないようにして下さいぃぃぁぁぁああああっ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎


 脳内で絶叫しながらついた校舎裏には、既にここみが居た。


 「あっ。ご、ごめんなさい。遅れてしまいました、、、、」


 虫のようなか細い声で咄嗟に謝る。

彼女のような方の時間は、私の24時間とは比べ物にならない程の価値があると言うのに、、、、‼︎

 彼女の時間を無駄にしてしまったことに対して、罪悪感に苛まれる。


 あわあわと怯えていると、ここみが女神のような微笑みで私を迎える。


 「あっ!早乙女さん!来て下さいましたか!遅れてなど居ませんから、安心して下さい。まだ20分前です。」


 女神は私の罪を赦してくれたらしい。

そう理解した瞬間、膝から崩れ落ちるような安心が襲ってきた。

 いや、流石に膝から崩れ落ちはしないが。


 取り敢えず落ち着いた私は、本題に入ることにする。


 「あの、話とは、、、、?私が悪いのならば、幾らでも罵って下さい‼︎」


 ドMの様な発言をしながら、精一杯の謝意を込める。

そんな私の発言に、ここみは動揺した様に慌て出した。


 「いやっ。早乙女さんの問題ではないですから、安心して下さい!えっと、どちらかと言えば私の問題で、、、、」

 

 「えっ、、、、?」

 

 思わず声を漏らす。

彼女の方に問題があるとは、どう言うことだろう、、、、?


 彼女が悪くなる様なことがあるのかと、頭を動かす。

 あの根っからの善人で素晴らしき西条ここみの問題などあるのだろうか、、、、?


 しかし、その悩みはすぐに解消されることになる。


 「あの、私が貴方に恋をしてしまったといいますか、なんと言いますか、、、、」


 少しずつ声を小さくしながら、彼女がつぶやく。

 恥ずかしそうに顔を俯ける姿は、まさに恋する乙女だ。


 というか、え、、、、なんて言った?


 恋?彼女が?誰に?私に?


 え、え、え、え。


 「えっ!?ちょ、待って。どう言うことか、詳しくお伺いしても、、、、?」


 頭が追いつかない為、詳しく聞くことにする。


 すると、彼女が急に勢いよく頭を下げた。


 「あのっ。ずっと好きでした‼︎‼︎付き合ってはもらえないでしょうか⁉︎」



 そして冒頭に戻る。


 彼女が、私のことをずっと好きだった、、、、?


 「あ、えっと、はい、、、、宜しくお願いします、、、、」


 考えるよりも先に、口から漏れてしまった返事。


 本当は彼女の事を恋愛対象としてなど見たことがない。

 見れるわけがない。女神と結婚するなど恐れ多い。

 しかし、彼女のキラキラと輝きを放つ、純粋無垢な夜空を見ては断れない。


 後々後悔するだろう事も忘れ、彼女の手を取ってしまった春の日だった。





 

 

 


 

 


 

 

 

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