君の世界をぶっ壊した日
@sanzunokawa1186
第1話 ぶっ壊してやったんだ
自分の世界がぶっ壊れる時、きっと誰かの世界もぶっ壊れている。
大事にしましょう。大切にしましょう。人の気持ちを考えましょう。我々は、そう教育を受けてきた。言葉というのは便利だ。しかし、万能ではない。僕の感覚になってしまうが、人間は自分で感じている感情の一割も他人に伝えることができない。あらゆる言葉を行使しても、感情を人に伝えるきることは難しい。
一つの言葉にはあらゆる解釈が存在している。故に、相手がすべてを自分と同じく解釈してくれるなんて、極めて都合のいい話だ。一つの物事に対して、解釈は無限だ。
だからね。僕らの行動は、いつだってどこかですれ違う。
『僕は期待しすぎだったのかもしれないな…。』
深夜。ぼんやりと、信号の黄色点滅を眺めながらハンドルを握る。さすがにこの時間帯だ、。車通りは非常に少ない。車のヘッドライトが闇を切り裂いて進んでいく。友達以上恋人未満。週末に毎週一緒に出掛け、一緒の部屋で眠るような、そんな間柄だった。3年。3年だ。長くて短い3年だった。それが、相手にとっては都合のいい関係だっただけだ。そう、それだけ。僕だけが相手を好きだった、それだけだ。
『付き合うことになったから、遊べなくなるけど。付き合うのは来年の春からだから春までは遊べる。付き合う相手との約束だから、泊められないし日曜日だけしか遊んであげられない。』
つまるところ、僕は遊ばれていた。さすがにそれを理解しないほど鈍くはない。
うん。控えめに言おう。君はそんなに頭のおかしな子だったか。まあ、恋は盲目というからな。話によれば、その子がずっと片思いしていた相手をを数回連れ込んだ上にそういう流れになったとのこと。まあ、付き合い始めるの来年の春って言ったけど、今夏ぞ。まずそこからよくわからない。お互い愛し合っているのなら、今すぐ遠距離でも付き合ったらいいと思うのは僕だけなのだろうか。正直、付き合うまでの期間にだいぶ間が空くことが気になったが、まぁ、恋は盲目というからな。僕が何かを言ったところで。僕もまた、恋は盲目だったから3年もその子と一緒にいたわけで。…ああ。なるほどな。すべてが…。点と点が線でつながった。週末にその子の家の掃除をしたり、いきなり食器や寝具を新調したり、いきなりの模様替えを手伝ったり…思い起こせば、僕を週末家に呼んでいたのは好きな子を呼ぶために部屋を掃除してもらおうという魂胆だったと解釈した。なるほどな。うん。発想がなかなかにイカレてやがる。
そうかい、じゃあもう会わない方がいいな。と踵を返せば、『だから、来年の春までは遊べるって言ってるじゃん』と言われる。さらに、いつも世話になってるからと謎のプレゼントまで渡されて、何が何だかいよいよわからなくなってくる。一体何がしたいのかわからない。付き合うまでの都合のいい遊び相手として僕をつなぎとめておくつもりなのか、それとも、僕が困惑している状況を楽しんでいるのか。どちらにせよ、イカレてやがる。『ワカサギも釣りに行きたいし。』そんな声が聞こえる。毎年、冬にワカサギ釣り旅行に行くのが恒例行事だったんだ。僕と行くつもりか?僕と?行くつもりなのか?旅行に。困惑。混乱。怒りを超えた呆れ。僕をどうしたいんだ君は。一瞬、もしかしてこれが君の優しさか?という、考えが脳裏をよぎった。あれか、最後の思い出作り的なやつ。僕からしてみればいやがらせかと思うような状況においても、物事には様々な側面や解釈が存在する。可能性はある。
『来週はどこ行く?』
『…。』
しかし、これが例え優しさだったとしても、今の僕から見たら僕の心をもてあそんでいるようにしか見えない。
『僕はもう君と会えなくてもいいと思っている。じゃあね。』
そして、あの子の部屋を後にした。
不思議と悲しさも怒りもない。僕の知らない所で幸せに生きればいいんじゃないか。途中、コンビニの駐車場であの子の連絡先を全部消した。もう僕には必要ないものだ。
よくもまあ、3年もはいはいと使われていたものだ。あの子の家まで片道二時間半ほぼ毎週。この飽き性で人を簡単に信用しない僕が、よくもまあ通ったものだ。悪いことの方が目につくが、いいこともなかったわけではない。楽しくなかったわけではない。こんな結果に終わったが、幸せじゃなかったわけじゃない。今日まで、あの子は僕の世界だった。僕は世界をぶっ壊してやったんだ。
あぁ、君の世界もぶっ壊れていればいいのに。
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