白い桜
Colet
第1話
榛名神社は群馬の山あいにあり、前橋から車を一時間ほど走らせた先にある。
現在は朱塗りの鳥居と石段があるばかりで、参道の両側には杉の木や楓の木が並ぶ。神社の裏手には古びた木造の休憩所がぽつりと置かれていて、祭の日には、子供たちがそのあたりで七色に輝くという神の鈴を探すならわしだ。
陽子という少女が神社を訪れたのは晩秋のことだった。
雪が降っていた。
気温は五度を下回り、日は早々に暮れかけていた。バス停を降り、落ち葉の舞う参道を少しだけ歩いた先に、神社の屋根が見えた。灰色の世界のなか、陽子は買っておいた線香を灯し、屈んで目をつむった。ときおり、風鈴の音がした。
石段を一段ずつ上っていく。思いのほかの寒さに、鼻が痺れそうだった。予報には雪マークがついていなかったのに、いつの間にか小さな雪片が舞いはじめている。
両手を擦り合わせながら振り返ると、遠く山の端に夕陽が沈みかけていた。バス停から歩いてきた参道は、落ち葉の絨毯に覆われている。風が吹くたび、茶色く枯れた葉が舞いあがり、雪と混ざって渦を巻いた。
石段を上り切ったところで、陽子は立ち止まった。杉木立の向こうに、神社の屋根が見える。灰色の空の下、朱塗りの社が不思議な存在感を放っていた。リュックから線香を取り出し、陽子は手を合わせる。目を閉じると、風に揺られた風鈴の音が、どこか懐かしく耳に響いた。
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